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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第二章

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38.急展開

「僕、チカに贈り物を持ってきたんだ。あっちにあるから見てよ」


 おどおどした仕草で、柵の向こうのロニーが手招きをする。

 こうして、わざわざお礼を伝えようとする少年の思いに胸が熱くなった。

 そもそも彼の暮らし向きだって、決して楽ではないはずなのだ。


「お礼なんていいのに。でも、ありがとう。待ってて、いまイオを呼んでくる」


「だめだ!」


 身をひるがえそうとした私を、ロニーが慌てて止めた。


「どうして? 彼も喜ぶわよ」


「いや……いいよ、やめてよ。あのひと、怖いもん。お礼はチカに持ってきたんだよ」


 喋っているあいだにも、目に見えてロニーの足が震えだした。


 無理もない、か。

 イオとロニーの邂逅は最悪なものだった。

 見逃してもらったとはいえ、ロニーのほうはイオに恐怖しか感じていないだろう。


「わかったわ。でも、イオには後で、あなたがお礼に来てくれたことを伝えるね。彼、本当は優しいのよ」


「そ、そうなんだ。……じゃあ、門の外に出てきてくれる?」


「はい、ちょっと待ってね」


 柵の一部にはめ込まれた王家の紋章に掌を重ねる。

 すると、城門が音もなく開いた。


「すごい……魔法だね!?」


 ロニーが目を白黒させながら感嘆の声を漏らす。

 この門は魔法の力でないと開かない。たとえ柵の間からでも外からは侵入できないようにイオが術をかけてある。


「僕についてきて」


 手招きするロニーに導かれ、歩きだす。


『チカ、ドコ行クノー?』


 おとなしくしていたスイちゃんが、エプロンのポケットから顔だけ出して私に尋ねた。


「大丈夫。ロニーは友達よ」


『トモダチ……? ダイジョブ……?』


 小さな唇を尖らせるスイちゃん。心配そうな顔をしてる。

 その様子を見ていたら、私の中にも少しだけ不安が芽生えた。


(ちょっと軽率だったかな……?)


 半歩前を行くロニーに尋ねてみた。


「ねえ、どうして離れた場所まで歩くの? 贈り物って何?」


「ええと、馬だよ。向こうの木に繋いであるんだ」


 ちらちらと絶えず後ろを振り向きながら、ロニーは小声で答えた。


「馬?」


「うん……この春、村で生まれた仔馬。いい馬になるからチカに使ってもらえって、そう、父さんが」


「私、乗馬なんかやったことないわ」


「簡単さ。すぐに覚えるよ」


 そんなこと言われても、やりかたが全然わからない。

 イオって、乗馬はできるのかな? ……なんだか無理そう。彼は自分の翼で飛べるし、移動手段を馬に頼らなくてよさそうだもんね。


「馬の乗り方、あなたが教えてくれない?」


 私が言うと、ロニーは「え、僕が?」と驚きの声を上げた。


「いい……けど」


「よかった。じゃあ、また会えるわね」


「う……うん……」


 どんどん小さくなるロニーの声を掻き消すように、森の木々が、ざあっと音をたてて風に揺れた。


「……チカは命の恩人だよ。僕だけじゃなくて、家族みんなの」


 ロニーが、急に話題を変えた。


「家族みんなの? どうして?」


「あの果実を妹に食べさせたら、病気が治ったんだ。長患いしてて、もう助からないかもって村の医者に言われてたのに」


「本当!? すごい! よかったね!」


「みんな本当にびっくりしてた。父さんと母さんも元気になった。チカのおかげだ」


「私はなにもしてないよ。ロニーが勇気をだして、家族のために頑張ったからでしょう」


「チカが庇ってくれなかったら、果実を持ち帰ることはできなかったよ。すごく、すごく感謝してる。それなのに、僕は……」


 草を踏みながら、ロニーが頭を垂れた。ひどく具合が悪そうに見える。

 

「ねえ、大丈夫?」


 ロニーは答えず、足を止めた。

 彼がみつめる前方に、大きな樹の幹に繋がれた馬の姿が見えた。


「え? あんなにたくさん?」


 ざっと見ただけで、十頭近い数の馬がいる。

 立派な鞍がついていて、しかも大きい。

 なんだか思ってたのと違うような……?


「チカ。ごめんね、嘘なんだ」

 

 私に背中を向けたまま、ロニーが言った。

 

「謝らなくていいってば。そうね、たしかに仔馬には見えないけど。あと、ちょっと数が多すぎ……」


「違う、違うんだよ」


 振り向いたロニーの瞳に、みるみる涙の粒が膨れあがる。


「ロニー? どうして泣いて……」


「ごめん。本当に、ごめん。でも、こうしないと父さんも母さんも、妹も殺されちゃうんだ」


「ころされ……る?」


 恐ろしい言葉の意味を尋ねる前に、周囲の茂みがザザッと音をたて、黒い影がいくつも飛び出してきた。

 見知らぬ男たちだ。みんな黒い服に身を包み、剣を身につけている。

 何本もの腕が襲いかかってきて、私は一瞬で抑え込まれた。

 そのうえ、体全体を大きな布袋で包まれてしまう。


「……!」

 

 悲鳴をあげようと吸い込んだ息でむせて、咳きこんだ。

 布袋の中に、ひどく甘い香りを放つ植物の束が入れられていたのだ。

 鼻の奥がツンとして、強烈な眠気が襲う。

 あっというまに意識が遠のいた。


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