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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第一章

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22.どうやら迷子になったらしい

 ふと目を開ける。

 食堂の椅子に腰かけ、テーブルに突っ伏した格好で、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。

 立ち上がって窓の近くまで行くと、薄曇りの空は夜明けの光で白く染まりはじめていた。


 お城の中は相変わらず、しんと静まりかえっている。

 食堂の他にホールや寝室、バルコニーまで見てまわったけど、どこにもイオの姿はなかった。


(イオ、まだ帰ってないんだ……)


 言い合いになったあと、森の奥へと姿を消したイオは、ひと晩経ってもお城に戻って来ていなかった。

 ドラゴンの姿になって、どこまで遠く飛んで行ってしまったんだろう。

 イオのためにと作った食事も、すっかり冷めてしまっている。


(お腹、空かせてないかな)


 もっとも彼は竜人だから、しばらく何も食べなくても生きていけるらしい。


(そもそも、私と顔を合わせて食事なんかする気になれないか……)


 ソファのクッションの上では、妖精ちゃんたちが身を寄せ合って眠っていた。

 私とイオの喧嘩、とくに声を荒げたイオの剣幕に驚いて、ひどく疲れたようだ。


 妖精ちゃんたちは、とてもデリケートなのだ。

 優しい言葉や歌を聞かせてあげれば元気になるし、大きな音や諍いは嫌い。

 イオと私が言い争うところを見せちゃったから、かなりストレスを感じているはずだ。

 しばらく休ませてあげないと。


「ごめんね、みんな」


 小さな体に、そっと毛布をかけながら囁いた。

 いつも賑やかな妖精ちゃんたちが眠っている今、主が不在のお城は、音のないオルゴールの箱の中のように空虚で寂しい。


 そんなことを思っている自分に気づいて、少し驚いた。

 ……寂しいのなんか、平気だったのにな。

 子供の頃から、ずっと。


 でも今は、イオと話がしたい。

 傷つけたことを謝りたい。


 もし、今夜も彼が帰らなかったら。

 明日の朝が来ても戻らなかったら。

 もしも仲違いをしたまま会えなくなったら、私はどれだけ後悔するんだろう――?

 

 ネガティブな想像だけが、頭の中をグルグルと駆け巡る。


(だめだ、こんなの!)


 突き動かされるように立ち上がった。

 

 やっぱり、このまま待っているだけなんて無理。

 ここには誰の目もない。なりふり構う必要だってない。

 イオを探しに行こう!


 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 枯れ木だらけの森には、白い霧が流れていた。

 聞こえるのは風の音だけ。鳥の囀りもない。ここに初めて来たときみたいだ。


「イオ!」


 大きな声で呼んでみる。

 当然のごとく、答える声は返らない。


「イオ、どこにいるの?」


 ふたりでよく歩いていた道を歩きながら、呼び続けた。


 草は色をなくして枯れ、あんなにたくさん咲いていた花も一輪も見当たらない。

 なんとなく踏み固められていたはずの散歩道には倒れた木々が覆いかぶさり、かつての緑の森の面影はすっかり消え失せてしまっていた。


「出てきて……イオ」


 どのくらい歩いただろう。

 かなり長いあいだ探している気がする。

 足元が悪い分、普段よりもずっと体力を使うし、霧が体温を奪っていく。 

 

 右も左も、似たような景色。

 草花が繁っていたときは、葉の形が個性的な樹木や色とりどりの花が道しるべになっていたのに。

 そのうえ、この霧。

 歩けば歩くだけ方向を見失いそう。

 だんだん体が冷えて、手足の先が冷たくなってきた。

 

(やっぱり、お城でイオの帰りを待った方がいいかな)


 そう考えたときには既に、私の視界は濃さを増した霧に閉ざされていた。

 お城の輪郭は、とっくに見えなくなている。


(……大丈夫、いつもの道のはずだもん。こっちよ、こっち)


 慎重に進み始めたつもりが、やがて太い倒木に行く手を阻まれた。

 こんなもの、来るときはなかったはずだ。


(もしかして、道に迷った!?)


 焦って引き返したものの、もと来た道さえ見失っている。

 しばらく夢中で歩いたら、なんと、また同じ倒木の前に戻ってしまった。


(まずいかも。本当に迷子になっちゃったかも)


 泣きそうになって座りこんだ私の背後で、カサッと何かが動く音がした。

 イオの足音じゃ、ない。

 もっと密やかに近づいてくるもの。


 どうしよう、これ本当にまずいかも。

 迷子になったうえに、危険生物に遭遇なんて展開になっちゃう感じ?


「イオ、救け……」


 ふたたび枯草の下で何かが動き、私は思わず悲鳴を上げた。



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