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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第一章

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17.邪竜様、暴発

 ぶるぶる震える手で、少年は麻袋をこちらへと差し出した。


「ごめん……怪我させて、ごめんなさい。あと、果物を盗んでごめんなさい。ぜんぶ返します。ここ、お姉さんの土地だよね」


「いいのよ、大丈夫。その実も持って帰って。別に私の土地じゃないけど、イオだって怒らないよ」


「イオ……って、だれ?」


「あ、ええと……邪竜様も許してくれるってこと」


 そう声をかけると、少年の目に涙が溢れた。


「ありがとう……ありがとう! これ、父ちゃんと母ちゃんに食べさせてあげるんだ。うちにはもう何にも食べ物がないから」


「そうなの?」


「うん。村のみんなが、邪竜様の森にだけ緑が見えるっていうから入ってみたんだよ。ここなら何か食べられるものがあるかもって……」


「食べ物を探して、森に入り込んだってこと?」


 彼にとって、ここは危険な邪竜の住処。

 自分以外の人間はいない、いるとしたら恐ろしいドラゴン……そう思って怯えていたはずだ。

 そこへ急に私が現れたら、驚いて石も投げたくなっちゃうよね。


「勇気あるね、きみ」


 思わず言うと、少年は驚いた表情になった。


「……お姉さん、優しいんだね」


「私、チカっていうの。あなたは?」


「ぼくは、ロニー」


「そう。よろしくね、ロニー」


 私が差し出した手を、ロニーと名乗った少年は、おずおずと握る。

 こわばっていた幼い顔が、ようやくゆるんだ。


「チカ、血が出てる。ごめんね、怪我させちゃった」


 ロニーが心配そうに見上げてくる。

 やっぱり、悪い子じゃないんだ。


「大丈夫、気にしないで」


「そんなの無理だよ。どうしよう、僕、包帯とか薬とか持ってなくてさ……」

 

 よく見ると、彼はひどく痩せている。

 髪の毛も肌も傷んで、栄養状態が悪そうだ。着ている服はサイズが合っていないし、あちこち解れている。


「……森の外の暮らしは、大変?」


 尋ねると、ロニーは意外そうな表情をつくる。そして逆に訊き返してきた。


「知らないの? みんなお腹を空かせて泣いてるよ。ずっとお天気が悪くて、畑の麦も野菜も全滅だもん……」


「ずっと?」


 愕然とした。

 私は、アスダールの国は豊かに変わったと信じ切っていた。

 だって、王宮には五月女さんがいる。

 彼女は『聖女』なんでしょ?

 聖女が祈れば国は豊かになるんじゃなかったの? 

 そのために、わざわざ異世界から呼び寄せたんだよね? 私を巻き添えにしてまで。


「ねえ、五月女さ……ええと、聖女様はどうしてるの? アスダールが豊かになるために祈りを捧げているはずでしょう?」


 ロニーの顔が、ふたたび曇った。


「聖女様? ああ、王様の婚約者のミリア様のことだね。父ちゃんが言ってたよ、今回の聖女様もダメだったなって。ミリア様は真の聖女様じゃなかったみたい。国王陛下もガッカリしてるんじゃないかな」


「真の聖女様、って……それ、どういう……」


 召喚されたときの記憶が高速で脳裏に再生される。

 たしかに『御印みしるし』がどうちゃらとかいう会話があったっけ。

 あのとき、ハート型のタトゥーシールを見せた五月女さんが聖女に認定された。

 タトゥーはフェイクだったけど、五月女さんが聖女なのは間違いないと思ってた。

 異世界から召喚された二人のうち、私のほうには何の力もないんだから。

 消去法でいけば、五月女さんには聖女の力があるはず――


「チカ? 何してる?」


 背後から声がした。イオだ。

 

『チカー?』

『ドウシタノー?』


 足音とともに、妖精ちゃんたちの声も近づいてくる。

 なかなか戻らない私を探しに来たのだ。


「あっ、イオ。あのね」 


 ――このときの私は、次に何が起こるかを予想できなくて。

 ただ無防備に振り向いてしまった。

 自分が額に傷をつくってることを、すっかり忘れて。


「チカ! どうした、その傷!?」


 私を見たイオが、顔色を変えた。


「え? 平気よ、こんなの。それより、この子が……」


 私の声を掻き消して、ひきつった悲鳴が空気を裂く。

 しまった、と思った時には、もう遅かった。

 

「ば……化け物!!」


 ロニーが、イオを指さして叫んだ。

 ……彼から見れば、イオの容姿は確かに異形だ。

 頭には角、腕には鱗。私はとっくに見慣れたけど、初対面の子どもが怯える要素は充分だったのだ。


「違うの、ロニー!」


「や、やっぱり、邪竜の森には化け物がいたんだ! あっち行け!!」


 幼い手が地面の石を掴み、振りかぶる。


「この、ガキ……!」


 イオの双眸がギラリと紅く光った。


「やめて、イオ!」


 両者のあいだに誤解が生じていると気づいたときには、もう遅かった。

 ロニーを睨み付けるイオの目に、怒りが燃え滾っている。今まで見たことのない顔。

 イオが右手を高く振り上げた。

 その掌の先に、一瞬で炎の球が出現する。


「ロニー、逃げて!」


 叫んだけど、ロニーの方は恐怖で固まってしまってる。


「チカを傷つけやがったな! 許さねえ!!」


 イオが右手を振り下ろし、巨大な炎の塊が少年めがけて放たれた。


「だめ!!」


 ロニーにしがみつき、倒れる彼の上に覆いかぶさる。

 ゴウッと風が渦を巻く音とともに、炎が私の全身を包んだ。


「チカ!!」


 イオの悲痛な声。


『キャー!』

『チカー!』


 妖精ちゃんたちの悲鳴を遠くに聞いた。

 全身を焼かれる激しい痛み。

 ロニーの体を抱いて斜面を転がり落ちながら、私の意識は暗闇へと吞みこまれていった。



お読みいただき、ありがとうございます。

今後もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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