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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第一章

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12.ドレスより宝石より

「お前に褒美をやることにした」


「ご褒美ですか? 何の?」


「いつも美味い食事を作る褒美だ。何が欲しい? ドレスか、それとも宝石か、新しいベッドやカーテンか? 俺がなんでも叶えてやる!」


 意気揚々と両手を広げる邪竜様。


(そうか。ドラゴンの魔力は、どんなものでも具現化できるんだっけ)

 

 それこそ、どんなに豪華な服でも、装飾品でも、なんなら現金でも、彼ならできてしまいそう。

 それにしても、ご褒美って言いだしたり、その選択肢がドレスや宝石っていうあたり、邪竜様、妙に貴族っぽいところがある。

 ずっとひとりで森に棲んでた人が、その発想するかな?


 ともあれ、お姫様みたいなドレスやティアラは、もうすでにお城のクローゼットの中にある。私には必要がないから使っていないだけで。

 お出かけするわけじゃないし、ジュエリーとかも要らない。

 調理器具やお皿……も、じゅうぶんあるのよね。

 寝具や家具も、素敵なものが揃っているから不満はないし……。


「おい、そんなに悩むようなことか? それとも、すげえ無理難題を考えてる……?」


 自分から言いだしておいて、邪竜様、ちょっと怯えはじめてるような。


「違います。思いつかなくて」


「無欲にも程があるぞ。さすがに何かあるだろ……ねえの? それはそれで心配になるぞ」


「……あ! ありました!」


「よし、言ってみろ」


 身を乗り出す邪竜様。


「本当に、なんでもいいですか?」


「もちろんだ。竜人に二言はない!」


「じゃあ……一緒に、ご飯を食べてほしいです」


 私の言葉に、邪竜様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。


「一緒にご飯って……お前と、俺が?」


「はい」


 私と邪竜様が同じテーブルで食事をしたことはない。 

 いつもは先に邪竜様に食事を済ませてもらい、私は後から厨房で食べていた。邪竜様は雇い主、私はお世話係だから。


 邪竜様が首を傾げた。


「俺と一緒に飯を食って、お前に何か良いことあるか?」


「良いことっていうか……一緒だと、楽しいかな、って」


 しばらく邪竜様は、きょとんとした顔で黙っていた。

 やがて頬が一気に赤くなる。


「変なやつだな、お前。そんなことが楽しいか? いや、意味わかんねえ」 


「だめですか?」


「だっ、だめとは言ってねえ!」


「ありがとうございます! じゃあ、準備してきますね! あ、食べててくださってかまいませんからね!」


 厨房へ駆けだそうとしたところへ、


「待て」


 邪竜様が私を呼び止めた。


「はい?」


 椅子から立ち上がり、テーブルに手をついて、邪竜様は何かを言いよどんでいる。

 やがて、どこか後ろめたそうに視線を外しながら、彼は言った。


「俺さ……もう長いこと、誰かと一緒に食事したこと、ねえんだ」


「そう、なんですね」


「お前も、俺が怖いだろ?」


 邪竜様が問う。

 胸の奥が疼いた。

 答えを待つ彼の顔には、ありありと怯えの色が浮かんでいたから。


「最初は怖かったです。でも、今はもう怖くありません」


 正直に答える。

 邪竜様が息を吐いた。


「そうか。……じゃ、好きにしろ」


「はい!」


 そして私は、自分が食べる分の料理を食堂に運び、はじめて邪竜様と同じテーブルを囲んだ。


「いただきます」


 いつもの習慣で胸の前で手を合わせると、向かいの席の邪竜様も同じ仕草をする。

 私がスプーンとナイフを持つ手もとを見て、彼もまた同じように自分のカトラリーを持ちかえ、オムレツを口に運んだ。


「……美味うまい」


 邪竜様が呟いた。


「さっきも誉めてくれましたね」


「さっきよりも美味い。だから、もう一回言った。お前と一緒に食べたほうが美味いな」


 嬉しい。

 素直に、嬉しい。


「邪竜様。今後もご一緒していいですか?」


「ああ、そうしろ」


 そう続けたあと、どんどんカトラリーを動かし、食べ進めていく。照れ隠しのように見えた。


「なに笑ってんだよ。さっさと食え」


「はい」


 そして私たちは、向かい合ってご飯を食べた。

 邪竜様は何度も美味い美味いと言ってくれたし、私自身も、自分のつくった料理ながら本当に美味しさが増した気がする。

 私と邪竜様は、案外似ているのかもしれない。

 生きてきた世界は、文字どおり全然ちがうけど。

 

 それからも私たちは、毎日、一緒にご飯を食べた。

 意外にも、彼は殆ど肉を摂らない。

 果物や野菜は大好きで、根菜を使ったスープに大喜びする。

 お酒は弱くて、ほとんど下戸。いちどだけ飲んでるところを見たけど、たった一口で酔いがまわって爆睡し、翌朝とても恥ずかしそうにしていた。


 邪竜様、見た目は人間と違う。ときどきドラゴンに変身する。あと、口が悪い。

 でも、意外と普通。いい意味で、普通。

 だんだん私は、彼に親しみを覚えていった。

 


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