11.ごはんとごほうび
「よし、っと……おひるごはん、完成!」
フライパンを置きながら、厨房でひとりごと。
『ゴハンツクリ、ガンバッタネー』
『エライネー』
今日も今日とて、妖精ちゃんたちが私のまわりを飛びまわりながら口々に褒めてくれる。
「みんなのおかげだよ! いつもありがとう」
邪竜様のお城で暮らしはじめて、はや半月。
ここは科学というものがない世界。当然、電気もないし水道もない。
二十一世紀の科学文明に慣れた私、さぞや苦労するかと思いきや……
なかなかどうして、あっという間に異世界生活になじんでしまいました。
森に棲みついている妖精ちゃんたちは、それぞれが光、水、風、火といった得意分野を持っていて、生活に協力してくれる。
お城の厨房には調理道具がひととおり揃ってるし、食材も豊富にストックされている。
どうやらアスダールでは、お米に似た穀物を主食として食べる文化があるみたいで、その点も非常にありがたかった。
「邪竜さまー、お昼ごはんですよー」
お城の中庭に出て、空に向かって呼ぶ。
黄金の果実が生る樹木が一本あっただけの殺風景な中庭は、今や、ちょっとした緑の園と化していた。
「せっかくお庭があるんだから、家庭菜園をやりたいなあ……」
何の気なしに呟いたら、植物が育つように邪竜様が土を整えてくれたのだ。
中庭の隅の小屋には鶏さん(生贄の私と一緒に貢物として捧げられた)たちも棲まわせてもらっていて、玉子まで調達できちゃう。
ほどなく空に大きな影がよぎり、竜の姿の邪竜様が現れた。
空中で人間の姿に変化しながら、とん、と地上に降り立つ。
「おかえりなさいませ」
「……う、うん」
ちょっと恥ずかしそうに返事をする邪竜様。
彼の通常形態は人間の姿のようだ。そのほうが省スペースで楽なんだって。
だけど、ときどき竜に変化しては、森の上空を飛んでいる。
「邪竜様、空を飛んで何をしてるんですか?」
「人間たちに竜の姿を見せてるんだ。怪物がいるとわからせておけば、誰も森に近づかないだろ」
なるほど。巨大な竜の姿で飛行してみせることで、森への侵入者を防いでいるってことなのね。
「でも、それだと無駄に怖がられちゃいませんか? 人間と仲良くできたほうが邪竜様も寂しくないんじゃありません?」
尋ねると、邪竜様はムッとした口調で答えた。
「別に寂しくねえよ。前にも言ったろ、俺は人間が嫌いなんだ。あいつら、俺をバケモノだと思ってるくせに便利に使おうとするからな」
人間に対しての嫌悪感を、邪竜様は隠そうとしない。
それなりのことが、過去にあったんだろう。理由を教えてもらえる日が来るかは、わからない。私は人間だし、邪竜様は自分について多くを語ろうとしないから。
「そろそろ寂しくなってきたか、お前のほうは」
少し意地悪な口ぶりで邪竜様が尋ねる。
私は即、首を横に振った。
「ぜんっぜん寂しくないです。楽しいです!」
これは本当だった。
邪竜様のお世話係として暮らしはじめてから、寂しいなんて思ったことは一度もない。
日本にいたときは過労死寸前、片道一時間半の通勤もしんどくて、いつもへとへとに疲れてた。
それが今は、料理をする時間がある。
食べてくれる人(邪竜様)もいる。
かわいい妖精ちゃんたちが、いつもそばで囀ってる。
はっきり言って、とても快適な毎日です!
「そ、そうか。そりゃよかった。変わってんな、お前」
「邪竜様、ごはんできてます! こちらへ」
「こ……これは、なんだ?」
テーブルの上の料理を見るなり、邪竜様が目を瞠る。
「私の故郷の料理で、オムライスというものです。お庭で採れたハーブも使ってみました。ソースの再現が難しかったですけど、悪くないかと……温かいうちにどうぞ」
「おむらいす」
私の言葉を繰り返し、おそるおそる銀のカトラリーを手に取る邪竜様。
そして、ひと匙、口へと運ぶ。
「うまっ……、うまい! お前、天才か! 間違いねえ、天才なんだな!」
「お褒めいただいて光栄ですけど、大袈裟ですよ……」
今のところ食事のたびに、これ。
私が作るのは、ごくごく普通の家庭料理なんだけど、邪竜様には新鮮みたいで、毎度驚きのリアクションをする。
そして、美味しそうに食べてくれる。ちょっとかわいいって思ってしまう。
彼ひとりで暮らしていたときは黄金の果実を主食にしていたそうだから、私の作る日本食は珍しいんだろう。
「では、お食事が終わった頃にまいりますね。なにかあれば呼んでくださいませ」
私の食事は邪竜様とはタイミングをずらし、厨房でとることにしていた。なぜなら「お世話係」だから。
いつもどおりに部屋を出て行こうとしたところで、
「ちょっと待て」
邪竜様が私を呼び止めた。
「なんでしょう?」
「お前に、褒美をやることにした!」
銀の匙を握ったまま、邪竜様は嬉しそうに言った。




