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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第一章

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10.邪竜様の城

 はにかむように俯いた邪竜様の視線が、私の足元で止まった。


「靴」


「え? ああ……あの、どれも大きくて」


 この部屋にあった靴は、どれも私には大きすぎるサイズだった。

 いま履いている靴も踵が大きく余っている。ミュールなので何とか歩けるかなと思って、とりあえず足を入れたのだ。


「危ねえな、それじゃ転ぶぜ」


 邪竜様が目を細め、右手で軽く指を鳴らした。

 すると私の足元に、もう一足、別のミュールが出現した。

 いま履いているのと同じデザインで、リボンの部分がドレスと色を合わせた淡いミントグリーンに変わってる。


「わっ!?」


「履いてみろ」  

 

 促されるまま、おそるおそる足をいれてみる。

 新しい靴のサイズは、私の足にぴったりだった。


「て……手品、ですか?」


「いや、普通に俺が作った」


「普通? これ普通!?」


 話を聞いて、驚いた。

 彼、一度でも見たことがあったり、想像できるものなら「物体化できる」んだって!

 

「邪竜様って……神様なんですか?」


 思わず訊くと、邪竜サマは真顔で首を横に振った。


「いや、俺は竜人だ。人間と同じで、いつかは死ぬ」


 彼が言うには、「物質の具現化」には非常に気力を使う。だから一日に創りだせる品の数は限られていて、思うほど万能じゃないそうだ。

 怪我や病気を治すことはできないし、死んだ人間を蘇らせることもできない。

 そして、新たな命を創りだすこともできない。

 

「それでも、シンプルに凄すぎます……」


「人間から見りゃ、そうだろうな。大昔は竜人のことを神の化身とか言ってたらしいぜ。ま、今じゃ、すっかり絶縁状態だ」


 人間と竜人が、そこそこ仲良くしてた時代もあるんだ。

 生贄花嫁なんか捧げる風習は、長い時間の中で関係が拗れちゃった結果なのかな。


「いいから来いよ、案内する。俺の作った家だ!」


 新しい靴に履き替えた私の手を嬉しそうに引き、邪竜様は広いお城の中を案内してくれた。


 応接間もある。寝室もある。バスルームもある。

 バンケットルームにボールルームまであったし、調度品も素敵なものばかり。

 まさに貴族のお城。でも、誰もいない。


「どの部屋に入ってもいいし、何を使っても構わない。あと、人間たちが勝手に置いてった貢物も山ほどあるから自由にしろ」


「へえー……って、え、すごいんですけど!?」


 広大な倉庫には膨大な数の『貢物』が乱雑に置かれ、いくつもの山を作っていた。

 金銀の装飾品のほか、絹みたいな美しい生地、日用品まで。

 何より――食料! 

 食料が、めちゃくちゃたくさんある! 


「これだけの材料があれば、美味しいものが作れそう……」


 山と積まれた食料の前で思わずつぶやくと、横で聞いていた邪竜様が意外そうに言った。


「お前、料理なんてするのか。ま、人間は食わなきゃ生きていけないもんな。じゃあ、こっちが厨房」


 厨房は、いっそう不思議な空間だった。

 全体的には中世ヨーロッパ的な古めかしい設備なんだけど、ところどころに妙に近代風の小道具――フライパンとか片手鍋とか――が混じっている。

 ……なんだろう、この違和感。

 すべてが新品で綺麗なのに、時代考証がズレてる、みたいな。


 邪竜様が妖精ちゃんたちを指さした。


「火や水を使いたいときは、こいつらに任せろ。お前たち、見せてやれ」


『ハーイ!!』


 かわいい返事とともに、ひとりの妖精ちゃんが天井めがけて飛んだ。

 途端にシャンデリアに灯りがともり、明るくなる。


『コッチモ見テー!』


 別の妖精ちゃんが竈に飛び込むと、ボン! と大きな音をたてて赤い火が燃え上がった。

 さらに別の妖精ちゃんは、傍に置かれた大きな甕の中へ。水音が湧きあがり、甕には見る間に澄んだ水が溢れた。


「ああ見えて自然の力を操る妖精たちだ。ただ遊んでるわけじゃないらしいぜ」


『ナンデモ言ッテネー!』

『手伝ウヨー!』


 妖精ちゃんたちが声を揃える。


「よかったなお前たち、暇が紛れて」


 邪竜様が言い、妖精ちゃんたちは嬉しそうに私に飛びついてきた。

 何これ、めちゃくちゃ可愛い……!!


「ほかにも必要なものがあれば言えよ。俺に思いつかないものもあるだろうし」


「は……はい」


「好きなだけ、いていいぞ! 仕方ないからな!」


 邪竜様が笑う。

 仕方ない、という割に、その笑顔は、あんまり嬉しそうで――心に湧きあがりかけた違和感を押し流すには、じゅうぶんすぎるほどの威力だった。

 

「ありがとうございます。あらためまして、私、小川千花おがわちかと申します。本日より邪竜様のお世話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします!」


 採用のお礼に、深々と頭を下げる。

 こうして私は、このアンバランスで不可思議な城の住人となったのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!

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