初めての学校 自習時間
次の時間は自習となった。
机を付けて、さっきの私のノートをそのまま書き写す華ちゃん。
「先生が黒板に書いた物をノートに書き写せば良い、そう言う事なの?」
「基本はね。先ずは次からそうして。ノートに何か特別な事書く時は教えてあげるから」
このぶんで行くと、物理法則も世界の歴史も。知らないだろうなぁ。
本当に英語のスピーチとヒアリングが出来るのかも不安になる。これはネイティブレベルでできる事になっている。
でもそれができたとしても読み書きは……。あまり良くない予感しかしない。
「……魔法とか言葉はどうやって勉強したのよ!?」
「言葉はお姉様を真似をすれば、上品で品行方正に見えるのだと言われたのでその様に」
「あのさ、一応聞くんだけど。誰に……、言われたの?」
「お姉様だけど……?」
――やっぱりかっ!
「うん、それはもういいや。――漢字とかは?」
「よほど難しいもの以外は読めるけれど。……ほとんど、書けない」
「ちなみに英語の読み書きは?」
「読める、話せる。……でも」
「うん?」
「スペルを知らないからほぼ書けない。それに文法って言うのが良くわからない……」
……あ、やっぱり。
一応自習中でもあるし、あからさまに変な空気を醸し出しているからか、周りも多少遠慮して朝のような黒山の人だかり、とはならない。
「桜、ごめん。……これはなんて読むの?」
「ひんど。――って。ちょっと待って華ちゃん、魔法はどうやって覚えたのよ! 昨日は何気なく使ってたけど本当は、呪文とか魔法陣とか変なお供え物とか魔法の杖とかを使って、儀式とかしなきゃいけないんでしょ?」
「その辺を無視して力を発動し行使するのがエレメンタラーたる者の……」
「そうでなくて……、もう。どうやって勉強したの? 教科書的な物とか無いの?」
「魔法に対する魔術書や、魔法薬に関するレシピのようなものはあるけど。でも、最近のものでもわざと古代ギリシャ語で書かれていたり、暗号で記されているのも普通だから。だいたい普通の人には読めない」
なんでそんな意地悪を……。
世に広めるのでは無くて、知識を記録しておく。という目的だから、それで良いのかも知れないが。
「それにその魔法書自体も通常は何処かに隠されていたり、それ自体がアイテムとして機能するほどの魔力があったりする。だから力のある魔法使いの元で封印されていたりするのが普通なの。何重もの意味で普通の人、と言うより私達のような一般の魔法使いは、だから読むことができない、と言うのも当たり前。とも言えるわ」
「ふーん。その辺は変に一般のイメージと近いのな。如何にも魔法使いの持ってる分厚い本って感じだぜ。……えーと、サフラン。で良いのか?」
座っているのに飽きたらしい仁史が、華ちゃんの席の横に来る。
「はい、呼び方はどうとでも。仁史君で良いですか? 設定的には既知の仲ですので」
「こっちも敬語とか要らないからな。改めてよろしく。――で、なんでそんな話になってんだ?」
「どうやって魔法を勉強したのかって。――でもさ、華ちゃん。普通の魔法使いってその言葉自体がもうおかしくない? 普通じゃ無い魔法使いが居るって事?」
「普通で無い、と言うとネガティブなイメージが先行する気がして成らないけど。――例えば魔法事故や犯罪を調査する人達。どうしてその魔法が発動したのか知っておけば、次に何かあった場合未然に防げる場合だってある。……例えば魔法や呪術の研究をしている人達。そのお陰で最近結界内では携帯電話を使えなくできるようになった。……例えばアイテムを作る職人達。でもこの人達は魔法使いで無い場合も多い」
「いずれサフランは見れないし読めない、って事だよな?」
「はい」
「でも華ちゃん。教科書も無いんじゃどうやって……」
「基本は口伝。呪文は一字一句間違えずに、イントネーションまで正確に。魔法陣も模様の角度がちょっと違うだけで全く違うものになってしまう可能性があるから慎重に、丁寧に、でも完成まで時間制限のあるものも意外に多いから素早く。全て聞いて、見て、実践して、体が勝手に反応するまで練習して覚えるの。そうで無ければとっさに発動など、とても出来ないわ」
「へぇ、……職人の世界なんだな」
「仕事を見て、技を盗め。みたいな……?」
世の中に意外と居るらしい魔法使いが野良やクラスレスに甘んじてる理由がわかった。 覚えられないからだ……。
「とにかくそのページだけは今のうちに全部写しちゃってね。……試験とか、どうするつもり?」
「ダメだったなら、例えば数学を人前で行使することに制限が付く、……コンビニなどでレジのアルバイトをする事ができなくなる。と言うことなのでは?」
……不味い。これは本格的に不味い。
学校の単位制度位は教えなきゃいけないだろう。
と思っては居たが、まさかこれほどとは。
横で聞いた居た仁史も。
なにか言おうとして口を開けたまま、ポカンとしている。
「ちゃんと学校に通うつもりなら、それこそもっと大変なことになっちゃうの! あ。……その、さ。ずっと居るんでしょ? 学校。卒業まで」
初めから潜り込むつもりだったとは昨日言っていたが、その先は。
……華ちゃんはまたクロッカスに戻ってしまうんだろうか。
もう、一緒に寝てはくれないんだろうか。
まだ出合って一日経ってないけれど、華ちゃんが居ないなんて考えられない。
ずっと一緒に居たい!
「高校はせっかくだから一応そのまま卒業しなさい、と会長からも言われたけど」
「そうなんだ、ありがとう……」
「……?」
「あー。でも、だったらちょっと意識改革しないとこの先、不味いかも」
「意識改革、な。……ちなみにサフラン、二回一年生やってダメだと強制退学になるんだが、おまえ、ホントに大丈夫そうか?」
基本無表情の華ちゃんの顔に、明らかな困惑と戸惑いの色が浮かぶ。
「……! そ、それは聞いていない! 仁史君、それはどこからの情報ですか? ソース的に信頼できるものなの? お姉様も会長も言っていなかった。ねぇ桜、今のは本当の話? 与えられる機会はたったの二回だと、学校側が本気でそう言っているの!?」
「私、あんまり、その。……そこまで成績良くないにしろ、気にしたことは無かったな」
「ソースも何も、生徒手帳に書いてあるぞ?」
――仁史君、何ページですか!? 慌てて生徒手帳をめくる華ちゃん……。
一般的には落第前提で、うつくしヶ丘に入学したり。と言うことはあまりしないよなぁ。
一応、建前上中の上。くらいな私立の進学校なわけだし。
……っていうか、高校に送り込む前に教えておいてよ、振興会。
つーか、私が居なかったらどうするつもりだったんだよ!
普通の目で見たら、天然を通り越してとんでもなくイタい子じゃん……。
「はぁ、全く……。一年生、何回やるつもりだったのよ。……まぁいいわ。あとで追々、その辺も詳しくお話ししましょ。そう言えば。――あやめさんは大丈夫なのかな?」
「お姉様はかつて中学生の時、最優秀生徒として表彰された事があると聞いているわ。まさか百人単位の弟子の中で、しかも先生が各科目ごとに、個別に評価する中での受賞とは思っていなかったので、学校に来て少し驚いているの」
「まぁ優等生だよな、先輩は。キャラ的にみても」
「……えーと。じゃあこれまで高校は? あやめさん、で良いのよね? 2年生に編入した、んだよね? 16歳なんだよね、あの人」
「今までは高校など無駄だから行かない、と言っていたのだけれど。何か今回は乗り気なので、私としてはかえって一抹の不安を感じているの。あのお姉様が絶対素直にそう言っているわけが無い、何かまた、ロクでも無いことを企んでいるのでは。等とつい疑ってしまって。そうでなければいいのだけれど」
「……企むんだ」
しかも今、華ちゃんはごく普通に。
“また”。と言った。
碧の黒髪をなびかせて、真っ白なリボン。
清楚さとお嬢様オーラで巨乳さえ隠しきるあやめさん、以外と黒い人なのかも。
そう言えば振興会の執行部長だったな、あの人。
エライ人は色々裏で手を回したりしなくちゃいけないんだろうし。
「結構何気なく、色々企んじゃうような人なのかも知れないね、あやめさん」
「何気なく企む人って、どんな人だよ……?」
「……私にカテゴライズできると思う?」




