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真説・公園の魔法使い  作者: 弐逸 玖
実法学院うつくしヶ丘高校 普通課一年B組
17/66

初めての学校 休み時間

 華ちゃんは好んで前に出るタイプではない。間違いない。

 けれど一方。物事がなんであれ、絶対に後ろに引くタイプでもない。

 ……とまあ、そこまでの話ではないにしろ。


 だから。美少女転校生の周りは黒山の人だかりで質問攻めに会っていたが、ひるまずに答えを返し続けていた。

 目の色や髪の毛のこと聞かれたらどうするんだろう。とか心配していたけれど、


「そうね、お母さんが。こんな感じだったと聞いているけど詳しくは……ごめんなさい」

 と目を伏せてそう言っただけで、質問者が悪者になってしまった。


 なんだかんだ言いつつ、自分が他人からどう見えているのか、そしてその容姿の使い方。それに関してはある程度把握しているらしい。

 しかしいつの間に父子家庭の設定まで加わってるんだ? 良くやるよ、本当に。


「あやめさんもこんな感じになってるかな?」

「あの人は心配要らないんじゃないかな。昨日の夜と今朝喋っただけだけど、あの人に勝てる人、居ないよ多分」


「まぁ、華ちゃんさえ力業で押さえ込んじゃうくらいだから」

「なんだそれ? ――ウチの学校に潜り込むこと自体は初めから決まってたみたいだし、サフランはとにかく、あの人に限って言えばそれなりに下準備はしてたようだしな」


 この二人は昨日の時点で、既にウチの制服を着ていた。

 と言う事は、何かしらの事前工作を行っていた、と言う事でもあるんだろうしね。



 と、華ちゃんを囲む輪からこぼれた人達がこっちに来る、


「ねえ、桜ちゃん。彼女はどんな知り合いなの? 小学校一緒とか?」

「お、お父さんの仕事の都合で小さい頃、何度かウチに預けられてたことがあったの」


「南光、あの美人な先輩は誰? 私見たこと無かったけど、まさか彼女なの?」

「何で女は全部そういう方向に話を持って行くんだよっ! ――今日から転校してきた月夜野先輩だ。ウチの母親の友達の娘さん。幼なじみのお姉さんみたいな人なんだ。……そういう話にしないでくれ、頼むから」


 ま、そういう設定必要だわな。あやめさんの分も。

「なんでそんなに学校内に身内が多いかなぁ。桜も従姉妹なんでしょ?」

「俺のせいじゃないだろ!」


「確かに。身内でハーレム作ってもつまらんわなぁ」

「なんで私まで構成員になってるのよ!?」

 ――あのな。仁史が頭を押さえる。


「家は東北の方なんだけど、実家でちょっともめ事があったらしくて、あの人だけがこっちに住むことになったって。先々週、俺が居るからってんでウチの編入試験、受てけたらしい。あの人、頭は良いけどちょっと人見知りなところがあるからさ、初めての場所はちょっと不得意で。それに田舎の出だから、東京って言うのに抵抗があったみたいでさ」


 ……あやめさんが人見知り? ないない、絶対無い。

 言うに事欠いて、何言っちゃってんの? あんた。


 一週間もしたらクラスどころか普通科全体、何か間違ったら商業科や国際外語科迄巻き込んで2年生を完全制圧。

 女王様として、うつくしヶ丘に君臨しちゃってる可能性だってあるぞ。あの人。

 

 あのお嬢様感たっぷりの雰囲気と、そして何かしてあげたくなるような外観。

 そして基本的に、尊大で横暴なのにそれを全く感じさせないそぶり。

 あの人はマジ、半端ない。




「ふうん。高校生でも転校ってあるんだね。その先輩も結構大変だよね」

「アニメとかでさぁ、あるよねそう言うの。先輩はお金持ちのお嬢様なのかなぁ」

「どろどろの遺産相続争いで娘だけは逃がす、みたいな? ドラマの見過ぎじゃね?」

「サフランさんはお父さんの仕事の都合で転校してきたんだよね?」

「ウチはお父さんの仕事の都合では転校出来ない。自分ちの一階で仕事してるんだもん」

「外国って家族ごとに引っ越しするのは普通?」

「日本だって普通だろ、そりゃ。ウチみたいに単身赴任なのはエラくない人だよ」

「でもさ、神代。サフランさんは本当は転校じゃないんだろ?」

「あれ? 向こうの学校って新学期9月とかなんだよね? 桜は聞いてないの?」

「だから夏休み長いんだよな、2ヶ月くらいあるんだってテレビでやってたぜ」

「バケーションってヤツだ!」

「入学式に桜がないとか、なんかぴんとこないなぁ」

「ウチのクラスは桜が居るからいつでも大丈夫ね」




 仁史も私も、事前につくっておいた設定通りの答えを返す以外、勝手に話が膨らんで脱線していくのを見守るしかない。

 口を滑らして余計なことを言っちゃ不味いんだけど、これが意外と大変。



 あぁ喋りたい。

 華ちゃんは私を助けてくれた凄い魔法使いなんだよ!



「ゴメン神代さん、ちょっとだけ良いかな?」

「あ、委員長。なぁに?」


 長身に眼鏡、まぁ見ての通りの真面目なクラス委員長なんだな彼は。

 だから当然のように、さっきの人混みの中にも混じっていなかった。

 その彼が。クリップボードを片手に、人混みを割って私に声をかけてくる。



「サフランさん? って良いのかな。――で、その彼女は当分、神代さんのアパートに一緒に住む。と言うことで聞いているけど、間違い無い?」

「多分そうなると思うけど」

「緊急連絡先とかの欄が空白なんだけど」

「お、……お父さん、海外。だから」


「なるほど、それもそうか。じゃあ、神代さんのアパートじゃ無い方の自宅でも良い?」

「うん、連絡先とか分けても意味無いよね」

 とは言え、うちの家族。今んところ、華ちゃんのこと知らないんだけど。

 クリップボードになにごとか書き込むと。


「一応、お父さんの連絡先は学校には報告してあるらしいんだけど、何かがあったら大変だから。そこだけハッキリさせておこうと思ってさ。彼女、携帯とかも持ってない?」

「……こっち、来たばっかりだから」


「無し、と。あとで携帯を持つようだったら、僕に声をかけてくれるように言っておいてくれるかな?」

「うん、わかった」


「色々大変だと思うけど、がんばってね。何かできることあったら僕にも声、かけてよ?」 

 そう言いながらクリップボードを手に教室を出て行く。

 職員室に行くのかな? 休み時間なのに真面目だなぁ。


 ありがとう華ちゃん。おかげで朝から委員長と話せたよ!

 ふむ、今日も真面目で足も長くて前髪もサラサラして。

 どっかの従兄弟とは大違い。 



「でもさぁ、サフランさん、なんで桜さんちのアパートにすむ事になったわけ?」

「取りあえず落ち着き先が決まるまで、って。別にずっと居てくれて良いんだけど」

 ……実はその辺、まるでなにも決まってないんだけどね。


「今度みんなで桜んち遊びに行って良い?」

「み、みんな、は入れないんじゃないかなぁ。ほらウチ、狭いし、ボロいし。こないだ来たもん、知ってるでしょ?」


 駅前とは言え、花の女子高生が住むには結構な築年数のアパートなのだ。

 トイレとお風呂が共同で無いだけマシだと思え、みたいな。

 でもそうじゃ無いと、お家賃の都合で私が住むわけには行かなくなるのだけれど。

 実はあのアパート、家賃が定期代よりちょっと高いだけなのだ。


 華ちゃん大人気。まぁ先ずは良かったね。……但し。

「あ、みんな。ちょっとゴメン」

「桜……。何処に行くの?」


「え、華ちゃん? ……あの、ちょっとトイレに」

「わたしも行きたくなった……。桜、連れて行って」

 周りの空気一切無視か!

 華ちゃん……。私の護衛、と言う立場は忘れていないようで。



 お手洗いを済ませて華ちゃんと並んで手を洗う。

「桜、私からは極力離れないでね。本来はこの学校内こそ危ない、そこは忘れないで」

「どういうこと?」


「あなたの事が無くても、初めから私とお姉様はこの学校に入り込む予定だった。なんでかなんて、桜ならだいたい想像はつくでしょ?」

 ……まさか。

「……学校に野良魔法使いが?」


「しっ。……そうよ。あなたや仁史君がターゲットになったりはしないでしょうけど、それでも用心に越したことは無い。――それに」

「それに?」


「高校生がこの時期に転校してくる。明らかに不自然だから、私やお姉様が既に目を付けてられてる可能性もある。ならば本来、私と桜は離れていた方が良いはずだけど……」

 すぅ、と華ちゃんの目が細くなる。


「何故会長は、桜と仁史君にあえて私やお姉様を貼り付けているのか。まさか……」

「……ん?」

「いえ、何でもない。……戻りましょ、桜」

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