初めての学校 休み時間
華ちゃんは好んで前に出るタイプではない。間違いない。
けれど一方。物事がなんであれ、絶対に後ろに引くタイプでもない。
……とまあ、そこまでの話ではないにしろ。
だから。美少女転校生の周りは黒山の人だかりで質問攻めに会っていたが、ひるまずに答えを返し続けていた。
目の色や髪の毛のこと聞かれたらどうするんだろう。とか心配していたけれど、
「そうね、お母さんが。こんな感じだったと聞いているけど詳しくは……ごめんなさい」
と目を伏せてそう言っただけで、質問者が悪者になってしまった。
なんだかんだ言いつつ、自分が他人からどう見えているのか、そしてその容姿の使い方。それに関してはある程度把握しているらしい。
しかしいつの間に父子家庭の設定まで加わってるんだ? 良くやるよ、本当に。
「あやめさんもこんな感じになってるかな?」
「あの人は心配要らないんじゃないかな。昨日の夜と今朝喋っただけだけど、あの人に勝てる人、居ないよ多分」
「まぁ、華ちゃんさえ力業で押さえ込んじゃうくらいだから」
「なんだそれ? ――ウチの学校に潜り込むこと自体は初めから決まってたみたいだし、サフランはとにかく、あの人に限って言えばそれなりに下準備はしてたようだしな」
この二人は昨日の時点で、既にウチの制服を着ていた。
と言う事は、何かしらの事前工作を行っていた、と言う事でもあるんだろうしね。
と、華ちゃんを囲む輪からこぼれた人達がこっちに来る、
「ねえ、桜ちゃん。彼女はどんな知り合いなの? 小学校一緒とか?」
「お、お父さんの仕事の都合で小さい頃、何度かウチに預けられてたことがあったの」
「南光、あの美人な先輩は誰? 私見たこと無かったけど、まさか彼女なの?」
「何で女は全部そういう方向に話を持って行くんだよっ! ――今日から転校してきた月夜野先輩だ。ウチの母親の友達の娘さん。幼なじみのお姉さんみたいな人なんだ。……そういう話にしないでくれ、頼むから」
ま、そういう設定必要だわな。あやめさんの分も。
「なんでそんなに学校内に身内が多いかなぁ。桜も従姉妹なんでしょ?」
「俺のせいじゃないだろ!」
「確かに。身内でハーレム作ってもつまらんわなぁ」
「なんで私まで構成員になってるのよ!?」
――あのな。仁史が頭を押さえる。
「家は東北の方なんだけど、実家でちょっともめ事があったらしくて、あの人だけがこっちに住むことになったって。先々週、俺が居るからってんでウチの編入試験、受てけたらしい。あの人、頭は良いけどちょっと人見知りなところがあるからさ、初めての場所はちょっと不得意で。それに田舎の出だから、東京って言うのに抵抗があったみたいでさ」
……あやめさんが人見知り? ないない、絶対無い。
言うに事欠いて、何言っちゃってんの? あんた。
一週間もしたらクラスどころか普通科全体、何か間違ったら商業科や国際外語科迄巻き込んで2年生を完全制圧。
女王様として、うつくしヶ丘に君臨しちゃってる可能性だってあるぞ。あの人。
あのお嬢様感たっぷりの雰囲気と、そして何かしてあげたくなるような外観。
そして基本的に、尊大で横暴なのにそれを全く感じさせないそぶり。
あの人はマジ、半端ない。
「ふうん。高校生でも転校ってあるんだね。その先輩も結構大変だよね」
「アニメとかでさぁ、あるよねそう言うの。先輩はお金持ちのお嬢様なのかなぁ」
「どろどろの遺産相続争いで娘だけは逃がす、みたいな? ドラマの見過ぎじゃね?」
「サフランさんはお父さんの仕事の都合で転校してきたんだよね?」
「ウチはお父さんの仕事の都合では転校出来ない。自分ちの一階で仕事してるんだもん」
「外国って家族ごとに引っ越しするのは普通?」
「日本だって普通だろ、そりゃ。ウチみたいに単身赴任なのはエラくない人だよ」
「でもさ、神代。サフランさんは本当は転校じゃないんだろ?」
「あれ? 向こうの学校って新学期9月とかなんだよね? 桜は聞いてないの?」
「だから夏休み長いんだよな、2ヶ月くらいあるんだってテレビでやってたぜ」
「バケーションってヤツだ!」
「入学式に桜がないとか、なんかぴんとこないなぁ」
「ウチのクラスは桜が居るからいつでも大丈夫ね」
仁史も私も、事前につくっておいた設定通りの答えを返す以外、勝手に話が膨らんで脱線していくのを見守るしかない。
口を滑らして余計なことを言っちゃ不味いんだけど、これが意外と大変。
あぁ喋りたい。
華ちゃんは私を助けてくれた凄い魔法使いなんだよ!
「ゴメン神代さん、ちょっとだけ良いかな?」
「あ、委員長。なぁに?」
長身に眼鏡、まぁ見ての通りの真面目なクラス委員長なんだな彼は。
だから当然のように、さっきの人混みの中にも混じっていなかった。
その彼が。クリップボードを片手に、人混みを割って私に声をかけてくる。
「サフランさん? って良いのかな。――で、その彼女は当分、神代さんのアパートに一緒に住む。と言うことで聞いているけど、間違い無い?」
「多分そうなると思うけど」
「緊急連絡先とかの欄が空白なんだけど」
「お、……お父さん、海外。だから」
「なるほど、それもそうか。じゃあ、神代さんのアパートじゃ無い方の自宅でも良い?」
「うん、連絡先とか分けても意味無いよね」
とは言え、うちの家族。今んところ、華ちゃんのこと知らないんだけど。
クリップボードになにごとか書き込むと。
「一応、お父さんの連絡先は学校には報告してあるらしいんだけど、何かがあったら大変だから。そこだけハッキリさせておこうと思ってさ。彼女、携帯とかも持ってない?」
「……こっち、来たばっかりだから」
「無し、と。あとで携帯を持つようだったら、僕に声をかけてくれるように言っておいてくれるかな?」
「うん、わかった」
「色々大変だと思うけど、がんばってね。何かできることあったら僕にも声、かけてよ?」
そう言いながらクリップボードを手に教室を出て行く。
職員室に行くのかな? 休み時間なのに真面目だなぁ。
ありがとう華ちゃん。おかげで朝から委員長と話せたよ!
ふむ、今日も真面目で足も長くて前髪もサラサラして。
どっかの従兄弟とは大違い。
「でもさぁ、サフランさん、なんで桜さんちのアパートにすむ事になったわけ?」
「取りあえず落ち着き先が決まるまで、って。別にずっと居てくれて良いんだけど」
……実はその辺、まるでなにも決まってないんだけどね。
「今度みんなで桜んち遊びに行って良い?」
「み、みんな、は入れないんじゃないかなぁ。ほらウチ、狭いし、ボロいし。こないだ来たもん、知ってるでしょ?」
駅前とは言え、花の女子高生が住むには結構な築年数のアパートなのだ。
トイレとお風呂が共同で無いだけマシだと思え、みたいな。
でもそうじゃ無いと、お家賃の都合で私が住むわけには行かなくなるのだけれど。
実はあのアパート、家賃が定期代よりちょっと高いだけなのだ。
華ちゃん大人気。まぁ先ずは良かったね。……但し。
「あ、みんな。ちょっとゴメン」
「桜……。何処に行くの?」
「え、華ちゃん? ……あの、ちょっとトイレに」
「わたしも行きたくなった……。桜、連れて行って」
周りの空気一切無視か!
華ちゃん……。私の護衛、と言う立場は忘れていないようで。
お手洗いを済ませて華ちゃんと並んで手を洗う。
「桜、私からは極力離れないでね。本来はこの学校内こそ危ない、そこは忘れないで」
「どういうこと?」
「あなたの事が無くても、初めから私とお姉様はこの学校に入り込む予定だった。なんでかなんて、桜ならだいたい想像はつくでしょ?」
……まさか。
「……学校に野良魔法使いが?」
「しっ。……そうよ。あなたや仁史君がターゲットになったりはしないでしょうけど、それでも用心に越したことは無い。――それに」
「それに?」
「高校生がこの時期に転校してくる。明らかに不自然だから、私やお姉様が既に目を付けてられてる可能性もある。ならば本来、私と桜は離れていた方が良いはずだけど……」
すぅ、と華ちゃんの目が細くなる。
「何故会長は、桜と仁史君にあえて私やお姉様を貼り付けているのか。まさか……」
「……ん?」
「いえ、何でもない。……戻りましょ、桜」




