初めての学校 お弁当
……何とか昼休みまでたどり着いた。
ここまでの道のりの、なんと険しかったことか。
晴れていたのでお弁当箱を持って校庭の端の木陰まで。
噂の転校生、華ちゃんには当然、
一緒にお昼たべよ!
と。声がかかるはずなのであるが、そこは先んじて華ちゃんがお昼休みになった途端。
自分の制御出来る最低範囲だと言って自分の周囲半径三mに渡り、私以外を全て排除する人払いの結界を張った。
半数は華ちゃんへの興味を失い、残りもあたりを見渡した後、華ちゃんを探しに教室の外へ出て行った。
なんて言うか思ったよりすごかった、結界。
現在木の下には私と華ちゃん、そして結界を当然のように無視した仁史。
「何故仁史君まで……。本当に気分が悪かったり、不快だったりすることは無い?」
「まぁ特には」
「今はもう結界に加えてはあるけれど、結界を強引に突破したらどうなるか、仁史君は桜を見て知っているでしょ? 人払いの前とあとで体調の変化とか無い? 本当に大丈夫?」
「うん。まあ、特には……」
「もちろんあとで仁史君は追加するつもりでいたけど。私の人払いを完全に無効化出来る人が居るとは……」
昨日の出来事を引きずっている華ちゃんは、なんとなく実験をしたかったものらしい。
実験の結果は、予想通り。と言うことなのかな。……仁史以外。
でも、魔法には絶対の自信を持っている彼女だから。
かなりショックだったのも事実らしい。
「元から変わったヤツだから、そんなこともあるんじゃ無い?」
「これはそう言う問題では無くて魔法や結界の根幹にかかわる……」
「まぁまぁ、いったんおいといて。――それよりもさ、初めて作ったお弁当、どう?」
「うん。……お弁当。自分で作ってそれで、食べるなんて初めて。……ありがとう、桜」
彼女がお弁当箱にしているのは、先週実家から漬け物を入れて持ってきた、ただの密封容器が大小二つ。色気も何も無い、
「華ちゃん、料理したことないのに早起きしてがんばったもんね。おいしい?」
「うん!」
華ちゃんの担当分としては、ウインナー焼いてご飯詰めただけだけどね。
タコさんウインナー、当人が喜んでるなら良いか。
今日は色々考えてる余裕がなくて葉っぱが少なかったな。
今日は私を手伝いたい、と言ってお弁当の用意に割って入って来た華ちゃんだけど。お料理教えたら、意外とがんばっちゃうタイプ、なのかな……?
「ね、ところであんた、なんで今日は学食じゃないの?」
仁史は大きな袋を置くと、中からこれまた立派な二段重ねの弁当箱が出てくる。
「……困ったことに月夜野先輩に貰った」
「別に困らなくても良いではないですか、仁史君。学食よりは栄養のバランスを考えていますよ? 食べ終わったあとでお弁当箱をわたくしに返して下されば、それで事は済むのですし、何より無料です」
いつの間にか人数分の紙パックのお茶とビニール袋を持ってあやめさんがそこに居た。
今日はその印象的な髪を三つ編みにして、白いリボンが歩く度に揺れる。
校則の範囲いっぱいに長めのスカートと、そして長く白いストッキングで直接足は見えないがそれも当然に思える。
学校指定の靴よりはむしろロゥヒールとかの方が似合いそう、
腕まである手袋と、羽毛で出来た扇子が無いのがかえって違和感があるくらい。
いや。制服着てるだけ、なんだけど。
……なんだ、なんなんだこの人。
どっからどう見ても、どんな格好をしようとも、完全なお嬢様キャラなんですね……。
「華さんの結界。その気配の先に居るのでは、と思ってたどってきたらその通りでしたわね。……ごきげんよう、皆さん。――よろしければどうぞ?」
「あ、ども」
「ありがとうございます」
「あの、お姉様。聞いて下さい。私は……」
「あなたの結界はそれこそ国内でも有数の秘匿性を誇っているのは認めます。けれどそれでも、こうしてわたくしは気が付いている。特に禁止されていないとは言え、あまり私事で気軽に魔法や結界を使うのは、それはあまり感心できませんでしてよ? 華さん」
「えぇと、その……」
「正直なところを言えばもっと単純に。姉がわりの身としては、クラスメイトのみなさんと一緒に、お昼を食べながら親交を深めて欲しいところだったのですけれど。……でも、今日ぐらいは初日でも有ることです、大目にみても良いでしょうかしら。――あら、桜さん。どうしたのです? ……なにかわたくしにお話があるようにお見受けするのですけれど」
ある。言いたい事はそれこそいっぱいあるよっ!
ありすぎたので、実質半分くらいしか言えなかったけど、一応色々と文句は言った。
効くか効かないかで言えば、まず効いてないだろうけど。
「まぁ、多分にそんなところだろうと想像は出来ましたので、事前に八方手を尽くして頂いて強引に桜さんと華さん、席を隣同士にして頂いたのです。苦労したかいはあったようでなによりでした」
だって、文句を聞き終わった第一声がこれだ。
わざとか! わざとなのかっ! なんてタチの悪い……。
しかも現場で直接苦労してるの、私じゃん!
当人はなんかいかにも満足げだし……。
「この購買部のサンドウィッチ、値段の割には中々おいしいものですね」
「あの、俺が弁当で先輩が購買ってのはそれは……」
「本当はお昼は要らないつもりだったのですけれど、皆さんお昼を食べているところに手ぶらでお邪魔するのも悪い気がして購入してきたのですが、結局全部食べてしまいましたわね。……そう言う訳ですから仁史君はお気にならずとも大丈夫です」
「あの、ちなみにお弁当は誰が……」
「もちろん作ったのはわたくしですが、何か嫌いなものでも入っていました? 言って頂けば明日から、栄養のバランスの範囲内で配慮致しますよ?」
「いや、だって相当早起きしないとこんなには……」
「普段からやることも無いのに五時には起きていますから。お家に迎えに行くには六時前に家を出れば良いのだし、なにも問題はありません」
「……」
あれ? なんか華ちゃんが反応してる。
お料理と早起きか。
頭の上がらないお姉さんであると共に憧れの先輩なんだよね、彼女から見ると。
……確かに寝起きに関して言えば、ほぼ最悪に近かった。
それは今朝この目で見た、と言うか一生懸命起こした。
そこだけは少し見習った方が良いと思う。言葉使いなんかよりよっぽど。
護衛なんてもちろんこれまで付いた事なんかあるわけ無いけど、それでも。
護衛に付いてるはずの人を起こす、と言うのは私も間違っていると思う。
初めてベッドで寝た。前後不覚になる程眠ったのは物心ついて以来初めてだ。
と言っていたのは、それはまぁ。忘れよう……。




