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真説・公園の魔法使い  作者: 弐逸 玖
特殊技術産業振興会二階の応接室
13/66

マーケットの少女

「実際には自分でも良く知らない。子供の頃から日本語は普通に喋れたし、父親が日本人らしいのだけど、興味がないので詳しくは聞いてないし。私はついこの間まで某国のマーケット周辺に居たの。……私は野良だったの。魔法使いとしてでなく、人として、ね」


 脱衣所で体を拭きながらとんでもないことを言い始める。


「あの、ちょっと待った! あのね……」

「誰にもこんな話は絶対しないって。人に言ってもバカにされて見下されるだけだって。……私はそう思ってた」

 綺麗なラインを描くお尻から背中。その上に乗ったショートカットが揺れ、藍色の瞳がこちらを振り返る。


「あなたは不思議な人だね、桜。……今日始めてあったのに。それなのに。あなたはバカにしたりなんかしない、ちゃんと聞いてくれるって、私は思う。聞いて欲しいって、そう思うの」





 某国の屋台が並ぶ広場。

 パンを咥えて果物や野菜を両手に抱え、全力疾走する子供と追いかける大人達。

 追い詰められた彼女は、橋の上から市内を流れる水路へと飛び降りる。


 ――自殺する気か!?

 ――どうやって降りやがった! 三mはあるんだぞ!

 ――しまった! 今は乾期だ、水がねぇ! あのクソガキ!!


 飛び降りたのではなく、彼女の足元には砂の階段が出来、彼女が通過すると次々形が崩れて埃になって消えていく。

 大人達が見たときにはもう、その少女は水路の中に降りていた。


 大人達は多少大回りして水路へと降りる。

 少女はパンを食べ終わると、後ろを向いて、――べぇ。とベロを出してみせると。

 真ん中しか水の流れていない水路を全力疾走し、水の干上がった土管の中へと姿を消した。


 当然、大人達の体格では土管には入れない。

 少女は食糧を両手に、悠々と逃げ果せるのだった……。



 そんな映画のワンシーンのような生活を、彼女は物心ついて以来ずっとしてきたのだ、と。そう言う。

 にわかには信じがたい話だなぁ。

 しかもこれ、目の前の美少女。華ちゃんの幼少期だよ?

 


「だから私はお嬢様などではなく。恥ずかしい話だけれど、ただのコソ泥だったの。そうとしてしか生きていけなかった、と言い訳させて欲しい。……他の生き方を知らなかったし、死にたくなければそうするよりほか、なかった」

 シングルのベッドにシングルの布団。私と華ちゃんが無理矢理収まっている。


「でも、それもお姉様に捕まるまで。の話なのだけれど」

 さっきも思ったが基本的には筋肉質で背も高く、その上こうして密着すると良く分かる、

 細いのに出るとこがキッチリ出ているものだから、想像以上に身体にぶつかる部分は柔らかい。



 本当に玄関で寝るつもりだったらしく、学校指定ジャージとタオル。

 それ以外寝間着の類を一切持ってこなかった華ちゃんには、だから一応部屋着にしていた長Tとジャージのズボンを貸した。


 そしてそんな格好でさえ様になる、

 なんか店に張りだしてある新機能Tシャツのポスターのモデルみたい。

 神様は不公平だ。



「アヤメさんに、捕まった……って?」

 ……保護された、では無く?

「日本語を喋る魔法使いの泥棒が居る、と聞いてわざわざ日本から出張してきたの。あの人が中学3年生の時だったかしら。……あのお姉様だから、当然だいぶ手荒に」


「アヤメさんが、手荒?」

「お姉様は強いのよ。……そう言えば魔法のランクわけ、誰も説明してないよね?」

「ランクがあるんだ……」


「あなたや仁史君のように魔法的性が完全にゼロの人はアンクラスド。……魔法使いとしての最低ランクはクラスレス。力を使えないだけでなく、公園のヤツのように力の制御がきちんと出来ない人もそこに含まれる。だいたい9割以上はこのランクなの」

 確かに私と仁史が適性無しで、そこが大問題だ。とは言っていた。


「その上がクラスD、これはどちらかと言えば力の大小よりキチンと力の制御が出来る人、って言う事ね」


 彼女が襟元のピンズを飛ばすまで苦戦していた意味がなんかわかった。

 封印状態の彼女の力と、あの学生風の全力がほぼ釣り合っていたんだ。


 アヤメさんがなんで怒っていたのか理由もそれならなんとなくわかる。

 正規 (?)の魔法使いが力の制御も出来ないような人を相手に苦戦するなんてみっともない。と言う事を言っていたんだな、あれ。


「じゃ、華ちゃんみたいなキチンとした魔法使いってほとんど居ないの?」

「私がキチンとしているかは別だけど。――国内ではクラスDで100人前後、Cなら30人を切る。今日あった中ではアイリスがそう。Bなら日本では3人。事務所にはカキツバタさんという人も居るけど彼女もB。自慢するみたいでイヤらしいけど、B+は日本では私だけ」


 なるほど。自慢みたいで、とは言ったがここまで密着してたら喋り方の微妙なニュアンスは隠せない。

彼女の密かなプライドなんだ、クラスB+。

それは降格なんかされたらたまったもんじゃない。青くもなる。


「ホントに凄いんだ、華ちゃん」

「上には上が居るわ。お姉様はアジア地域ただ一人のA+」

「マジで? アヤメさん、アジア最強!?」


「本気になったらうつくしヶ丘くらいなら街ごと数秒で廃墟にできる。……お姉様がそうする理由は思いつかないけれど」


「できる限り仲良くしておかなくっちゃ……」

 そんな理由を考えつかれたら大変だ。

 ……にこやかに街を破壊するアヤメさんの図は。

 失礼ながら非常に鮮明に、かつ詳細に想像出来たのだった。

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