友達の定義
二部屋あるとは言え、広いとはいえないアパート。決して大きくないちゃぶ台を挟んで、私と、そして背筋を伸ばして正座する美少女、クロッカス。
途中でラーメン屋さんに寄ってもらって、しかも振興会の人におごって貰って。
黒い車でここまで送って貰ったのは良いものの。
……何をどうしたもんだろう、この状況。
ちなみに仁史にはアヤメさんがついていった。
行き帰りは完全に一緒にいると言うことだったけど。
彼女と並んで歩いていたら。きっと明日は、朝から盛大に噂になるだろうな。
「狭くしてしまって本当にごめんなさい。どうせ寝るだけだし私は別に玄関でも……」
「そう言う訳には行かないでしょ? 犬だって今どき玄関でなんか寝ないわよ……」
小さめのボストンバッグと通学カバン。それだけ持ってここにやってきたクロッカス。
見た目でちょっとアレにも見えるけどさ。
実際には高慢でも高飛車でもないんだよね。この子。
それに二人で並んで男子に意見を求めたら、私が玄関で寝ろって言われるのは確実。
「暫くはここに居るんだろうし、今度の土日でかたづけて二人用の部屋にしよう。あなたの机とかも入れなくちゃ。隣の4畳半は寝る部屋専用にするとして、お布団とか凄く豪華なヤツだったりする? ベッドとかあんまり凄いのは狭いから入らないよ? ――えーと、クロッカスちゃん。で良いのかな?」
「布団は初めから持っていないので」
「はい?」
――持ってない、とは?
「それにクロッカスはコードネームみたいなもので。本名、と言うか。……華・サフラン。そう言う名前で学校に届けてあるらしい。だからお互い混乱しないように普段からそれで呼んでくれた方が良いと思う。……この安直なネーミングは多分お姉様でしょうけど」
「何処が安直?」
「お花のクロッカスは、……別名ハナサフラン。お姉様はすぐに面倒くさがる」
「あぁ、なるほど。でも悪くはないじゃない、可愛い響き。――だったら華ちゃん。……とか?」
「……“設定上”はもとから仲の良い知り合いになっている。とはアイリスも言っていたので、むしろその方が自然なのかも知れないけど、……私にその辺の判断は付かない」
「じゃ、改めてよろしく華ちゃん。桜です。呼び捨てで良いよ。どうせずっと一緒にいるんだから敬語とか要らないし、同じ年でしょ? それに、……守ってくれるって」
「もちろんあなたのことは命に代えても守ります。――はい、ならばよろしく。桜さん」
「……えーとさ」
「その……、さく、ら?」
「うん」
テレビではバラエティの笑い声が聞こえるが華ちゃんはそれには無反応。
ただ私が入れたお茶の湯気を見つめる……。
「あの、さ。華ちゃん」
「……?」
「お茶、じゃ無い方が良かった? もしかすると」
お番茶に塩せんべい。現状は最大限のおもてなしではある。
他には何も無い、とも言うが。
……とは言え、どう考えても華ちゃんには似つかわしくない。と言うのはわかるけど。
「そういう事ではないの、気になったならごめんなさい。……設定上とは言えお友達が私の為に入れてくれたお茶。そしてお菓子。ちょっと理解が追いつかなくて」
「あのぅ……」
「……桜の部屋から学校に行け。とは言われたものの、私は今まで学校なんて行ったことが無い。……ご飯を食べさせてくれて、魔法を教えてくれた振興会とお姉様。そして持ってきた制服とタオル。今の私には、他には何も無い」
「良く分かんないんだけど、――なら、先ずは私が友達。っていうんじゃ、……ダメ?」
「でも、桜のことは実質私が巻き込んだようなもので……」
「華ちゃんのことは私もなにも知らないけどさ。……でも私を助けてくれたでしょ?」
「……助けたのは仁史君、私ではない」
「火の玉だって体を張って止めようとしてくれた。ハンカチも貸してくれたし、汚れたままなのに手だって握ってくれた。服を洗ってから上着も貸してくれたし、魔法で地面も流してくれた。顔洗ってからリップだって貸してくれた。着替えも下着まで手配してくれたし、シャワーだって周りの人が見えないように更衣室から廊下までカーテンしてくれた。私、ここまであなたに助けられてばっかりだよ……」
「困っている人は助ける、いくら私が莫迦だろうと。それくらいは誰に教わらなくてもわかる。それに。その、……“あげ”てしまったのも、顔が汚れてしまったのも、服がダメになったのも、それは桜のせいではないから、だから……」
「そう言う台詞がサラッと言えるのってさ、……カッコイイと思うよ?」
思い切ってがばっと後ろから首に抱きついてみる。
良い匂いで頭がいっぱいになる。シャンプーの匂いじゃな無さそう。
やっぱり、美少女はふだんからこんな匂いなのか……。
ほっぺも見た目通りにスベスベ。髪の毛もふわふわでサラサラ。
でも、見た目を裏切り身体は全体的に筋肉質。
実は結構鍛えてる感じなのかな……。
私に後ろから抱きつかれたまま、彼女は正座の形から微動だにしない。
……もしかすると、怒った。……かな?
「桜。――こんな時にありがとう、って言ったら。おかしい……?」
首に回した私の腕に、そっと彼女の手が触った。
一緒にテレビを見て、一緒にお菓子を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝る。
女子だったらそんなにおかしな事でな無い様な気もするが、華ちゃんは嫌がった。
特にお風呂を。
確かにアパートのお風呂である以上広いわけでもないのだけれど、華ちゃん曰く、“桜に裸を見られるのは恥ずかしい”。とのことで。
だから当然裸にひん剥いて、風呂場へと放り込んだ。
その彫刻のような見事な姿態を、恥ずかしがる態度と共に十分に堪能した。
さらに、湯船でお湯につけ込んで弱らせておいてから、私も脱衣所で服を脱ぐ。
ふと脱衣所のカゴを見る。
脱いでるときにもちょっと気になってたんだけど。
改めて見ると。エラい下着着けてるな……。パンツにもビンテージがあればすごい値段つきそうだ。
でもこれ、たった今まで華ちゃんが着けてたんだから。
そんなの関係無しにプレミアものではある。
ダメージドパンツ、なんて言ってみたり。
でも言っちゃ悪いが、イメージとしてはそんな生やさしいもんじゃない。
もう、クラッシュパンツだよこれは。
しかも形がパンティではなく明らかにパンツ。
美少女だとその辺、適当でも許されるのかも知れない。
しっかし、このパンツ。キチンと履いてようが普通に中身、透けて見えるんじゃ無いの?
もちろん綺麗に洗濯はしてるんだろうけど、なんか布がすり切れてパンストみたくなってる……。
キャミも同様、既にこんなの。着てようが着てまいが同じなんじゃ……。
何はともあれ。
裸に剥いた以上は。
――ぐへへ。もう逃げらんねぇぜ、お嬢さん。




