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余命わずかな公爵令嬢は、最後に最愛の婚約者からの愛を望む  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第一章 最後に一度だけ愛してください

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5/20

5 最後のデート②

競技場の前まで着くと、ヴァージルが振り返った。

一応同伴者であるため、入るのは一緒にという考えのようだ。



突然の彼の行動にマーガレットは驚き、その場で立ち止まってしまった。



「……」



見つめられると、途端に不安になる。



病気のこと、彼にバレていないだろうか。

歩いただけで息が上がるなんて情けないって思われてるかな。そんな心配、今さら抱いたところで意味がない。

どのみち、私たちは婚約を破棄するのだから。



しかし、そんな彼女の心配とは裏腹に、ヴァージルは不思議そうに彼女を眺めているだけだった。



「何をしている、早く来い」

「あ、はい……」



マーガレットは息を何とか整え、早歩きでヴァージルの元まで向かった。

よかった、いつもみたいに私に興味のない彼で。悲しさ半分、嬉しさ半分の気持ちになったのは初めてだ。



競技場に入り、二人は観覧席に横並びで座った。

場内は既に人で埋め尽くされており、マーガレットたちの席は後ろのほうだった。

しかし、それでも後ろに行くにつれて席が高くなっているせいか、見づらさは感じなかった。



むしろ、会場を広々と一望することができ、見やすかった。

マーガレットは横にいる彼にチラと視線を向けた。



手を伸ばせば届く距離にヴァージルがいる。そう考えると、マーガレットの心臓は鼓動を早めた。

脈打つ胸の音が聞こえてしまうのではないか。彼女はそんなどうしようもないことを心配しながら、彼の傍に座っていた。



そのとき、ヴァージルが前を向いたまま口を開いた。



「……こういうところに来るのは初めてなのか?」

「え……」



急に声をかけられたことに驚き、マーガレットは返事をすることも忘れて彼の横顔を見つめていた。

振り向いたヴァージルと目が合い、彼女はようやく我に返った。



「あ、いえ……何度か来たことがあります」

「そうか」



目がしっかりと合うこの状況が何だか気まずくて、彼女は耐えきれずに逸らしてしまった。

昔は平気だったはずなのに、どうして今は真っ直ぐに見つめ返せないのだろう。



ヴァージルはメリーベルと出会ってから、彼女を一度も見なかった。

そんな彼が突然、彼女のプライベートに関することを聞いてきたのだから驚くのも無理はない。



「貴族令嬢が、このようなものに興味があるとは驚いたな」

「私も……人に言うとビックリされちゃうんです。そういうふうに見えないって」

「ならなぜ、こんなところへ来るんだ?」



純粋な疑問で、特に深い意味のない質問だということはマーガレットも自身もよくわかっていた。

しかし、どうしても喜びを感じてしまう自分がいるのが何とも情けない。



なぜ、競技場へ試合を観に来るのか。

彼の前では普段から取り繕って生きている彼女の頭には、建前の理由ばかりが浮かび上がった。特に変わったところのない、貴族令嬢としては百点満点の回答。



以前の彼女であれば、間違いなく本心を隠していたはずだ。



――でも最後くらい、嘘偽りのない本当の気持ちで話してもいいんじゃないかな。

マーガレットは、正面を向いたままゆっくりと口を開いた。



「カッコいいじゃないですか、騎士って。国民たちを守るために一生懸命戦うその姿が素敵で……私は彼らを尊敬しているんです」

「……」



何の迷いもなくそう答えた彼女に、ヴァージルは驚きを隠せなかった。

今、競技場にいる騎士たちは貴族ではなく、平民の者たちだ。

高位貴族であるマーガレットが、王家直属の近衛騎士ならまだしも、平民の騎士に対して尊敬するだなんて。



貴族の令嬢では、平民の騎士を汚らわしいと見下している者も多かった。

てっきりマーガレットもその類の令嬢だと思っていたが、どうやら違うようだ。



「そうか……」

「そろそろ試合が始まりますよ」



ちょうど開幕の合図が鳴り、馬上槍試合が始まるところだった。

二人は会話を止め、観戦に集中した。



今回の馬上槍試合は、一騎打ち(ジョスト)によって行われる。

甲冑を身に纏った二人の男性が馬に乗り、ランスを持って競技場に姿を現した。

彼らの登場と同時に、観客席から歓声が上がった。

ランスは馬上槍試合において定番の武器だが、時には剣や他の武器を使うこともある。



参加者の騎士の名前が呼ばれた後、カルテルと言うルールが読み上げられた。



二人は試合を行う前に、馬に乗って闘技場を一周した。

馬上槍試合はトーナメント形式で行われ、勝ち上がった者が上に上がり、優勝者が決まる。

騎士の技量を争う競技会であり、騎士たちにとっては絶対に負けられない戦いなのだ。



「いよいよですね……」

「そうだな」



マーガレットとヴァージルは観客席からじっと試合を見守っていた。



「お前はどっちが勝つと思うんだ?」

「私は……あちらの白い馬に乗っているお方かと」



マーガレットはこのような戦いにあまり詳しくはないが、何となく勘で白い馬に乗ってるほうを選んだ。

あの人が勝ったらいいななんて願いも込めて。



「――お前、わかってないな」

「……ヴァージル様?」



ヴァージルはマーガレットに向けてニヤッと笑みを浮かべた。

普段大人びているヴァージルの、年相応の少年のような笑顔だった。



(ヴァージル様はこんな顔もするのね……)



マーガレットの胸が、トクンッと高鳴った。

不意打ちの笑顔がとても眩しくて、ついつい意味のない気持ちを抱いてしまう。



「俺はあっちの茶色い馬の騎士だ」

「……」



いつもは冷静なヴァージルが、前のめりで試合に夢中になっている。

マーガレットはそんな彼の横顔を、頬を赤く染めながら見つめていた。



――そして、とうとう試合が始まった。

闘技場内がシンと静まり返り、緊張感が走る。



会場に流れる音楽が止まり、二人の騎士が向かい合った。

合図と同時に馬を走らせ、猛スピードで駆け抜ける。



すれ違い様に、それぞれ手に持っていたランスを振りかざした――



「……!」



タァンッ――という乾いた音と同時に、胸を打たれた片方の騎士が馬から落ちた。甲冑が地面にぶつかる音が会場に響いた。



――落ちたのは、マーガレットが勝つと予想した白い馬に乗った騎士だった。



「あら……」



マーガレットの予想は外れ、勝ったのはヴァージルが指した茶色い馬の騎士だった。

馬に乗ったままの彼は片手を上げて堂々と勝利を宣言した。



(私の予想は外れてしまったようね……)



馬から落ちた騎士は何とか自力で立ち上がり、支えられながら医務室へ運ばれて行った。

彼は負けてはしまったものの、最後までやり切った勇敢な若者だった。



――やはり、いつ見ても騎士はカッコいい。



「な?俺の言った通りだろ?」

「ヴァージル様……」



横ではヴァージルが、白い歯を見せてニコッと笑っていた。

久しぶりに向けられたその笑顔は、またしても彼女の心を揺さぶった。




読んでくださってありがとうございます!


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