↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命わずかな公爵令嬢は、最後に最愛の婚約者からの愛を望む  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 彼女が亡くなった後、人々は……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/50

37 裏切りの瞬間 アーヴィング公爵視点

――彼女は初めて出会ったときから、少し変わった人だった。

スペンサーとシェリアの婚約はヴァージルとマーガレットのように子供の頃から定められていた。



ある日の朝、スペンサーは庭で一人はしゃぐシェリアを不思議に思い、声をかけた。



『シェリア、何をしているんだい?』

『あら、スペンサー様!今、妖精さんとお話をしているんです』



シェリアは何もない空中を指差し、嬉しそうに微笑んだ。



『妖精……?』



彼女の言う()()というのが、彼には誰かわからなかった。

シェリアの指差す先には何も見えず、ただ綺麗な花が広がっているだけだ。



(……花を妖精と言っているのか?)



変わった子だなと思いながらも、スペンサーは同時に可愛らしさを感じた。

シェリアは今のマーガレットによく似ており、後に社交界の華と呼ばれるほどの美しさを持ち合わせた少女だった。



ブライアーズ公爵家という高貴な家柄に生まれた彼女とは、同じ高位貴族の一人っ子という共通点があり、何かと気が合った。

恋愛感情かどうかはわからないが、思ったよりも彼女には好感を抱いていた。

美しく慎ましい、聡明で心優しいシェリア。



欠点が見つからないほど、完璧な女性だった。

もしかすると、そこがつまらなく感じてしまったのかもしれない。



シェリアはアカデミーを卒業後、留学のために他国へ旅立った。

本来ならば卒業後すぐに結婚するつもりだったが、彼女の留学に合わせて式は延期となった。



――もし、あのときシェリアが留学に行かなかったとしたら。

きっとスペンサーはリデルと出会うこともなく、彼女と結婚していただろう。



リデルと初めて出会ったのは、夜の市井だった。

彼女は平民で、高位貴族の令息であるスペンサーとは接点がない。

普通なら出会うこともない二人が、どのようにして深く愛し合うまでに至ったのか。



――スペンサーは彼女との出会いを、運命だと信じて疑わなかった。



始まりは、学生時代の友人から夜遊びに誘われたことだった。

結婚する前に一度くらい遊んでおこうという友人の提案で、スペンサーは夜の街に繰り出した。

貴族だとバレてはいけないため、平民の服に着替えた彼は、友人と共に夜の歓楽街を歩いた。



浮かれた様子の友人に、スペンサーは呆れた目を向けた。



「お前、一週間後は結婚式だろう。こんなことして大丈夫なのか?」

「わかってるよ、ただの遊びだって言っただろ?浮気じゃないんだ。結婚前に一度羽目を外すだけだよ」



不貞ではなく、ただの遊び。

一体女性を何だと思っているんだと、彼は心の中で呟いた。しかし、止めたところで友人は聞く耳を持たないだろう。

せめて馬鹿な真似をしないように見張っておかなければと思い、彼は友人について行った。



(……こんなところに入るのか?)



スペンサーは誘われるがまま、女性のいる店へと入店した。

彼が入ったその場所は女性が男性を接待する表向きは飲食店のクラブで、多くの貴族男性が通っていることでも有名だった。

そして、高級クラブというだけあってキャストは美女揃いだ。



店内の席に案内されたスペンサーたちの元に、女性が二人やって来た。

しかし、美女とはいっても社交界の華と呼ばれるシェリアの美しさには到底敵わない。



そのため、スペンサーは特に女たちに興味をそそられなかった。

友人のほうは酒が入っているせいか、女の腰を抱いて楽しそうにしている。

婚約者が見たら何て言うだろうか。いくら遊びだったとしても、女性は嫌な思いをするに違いない。



退屈そうにしていたスペンサーの元に、一人の女が新しくついた。



「――初めまして、リデルです」

「……」



リデルと名乗った女は、燃えるような赤い髪をしていた。

珍しい赤髪に、彼は釘付けになった。



初めてリデルに抱いた印象は、美しいが気の強そうな女。

彼女はスペンサーのすぐ傍に座ると、慣れた様子で彼の身体に触れた。

そして、耳元で赤い唇を動かして囁く。



「何か、悩み事でもあるのではありませんか?思い悩んでいる人の目をしています」

「……」



その言葉に、スペンサーは思わず顔を上げた。

この頃彼はちょうど、シェリアとの関係性で悩んでいたからだ。あまりにも完璧すぎる彼女に、彼は負い目を感じていた。



彼はリデルの赤い瞳をじっと見つめた。

気が強そうだと思っていたが、今の彼女はとても優しい目をしていた。

スペンサーは何かに導かれるように、悩みを打ち明けた。



「大丈夫です、()()。あなたはとても立派ですから、心配なさる必要はありません」

「……」



リデルはスペンサーを慰めるように、その背中を優しく撫でた。

彼女の手が、妙に心地よかった。そんなふうに優しくされるのは久しぶりだった。

アーヴィング公爵家の当主になるのだから弱みを見せてはいけないと――常に親から言われていたからだろうか。



「――私だけが、あなたのことを理解してあげられるのです。人の気持ちもわからない婚約者様よりも、ずっと」

「……」



リデルは彼の全てを肯定し、本当の彼を受け止めた。

悪いことも良いことも、彼の行動を決して否定しない。ただ受け入れ、優しく包み込んだ。

元々不安定だった彼の心は、一瞬で溶け込んでいった。



リデルの傍にいると心が落ち着き、スペンサーはみるみるうちにのめり込んでいった――




読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。