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余命わずかな公爵令嬢は、最後に最愛の婚約者からの愛を望む  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 彼女が亡くなった後、人々は……

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31 新生活 マージョリー視点

アカデミーの寮に住まいを移してからは、比較的平穏な日々が訪れた。

毎日朝早くにアカデミーに登校し、夕方に帰ってきて、その後仕事に行く。



寮の家賃を払うために、私は休む暇もなく働いた。

同年代の学生たちは大体が親からの仕送りがあるため、仕事なんてしていない。

していたとしても、週に数日だ。こんなにも毎日休まずに働いているのはきっと私くらいだろう。



夕方に働き始め、夜遅くに家に帰る。

その後お風呂に入ってすぐに就寝し、また朝早く起きてアカデミーへ登校する。変わり映えのない毎日だった。

つまらないなんて、言ってはいけなかった。



――今を生きていられるだけでも、感謝しなければならないのだから。



他の生徒たちのように、遊ぶ暇なんて私にはなかった。

実家の援助が何もない中で、暮らさなければならない。どれだけ頑張って働いても、毎月カツカツだった。本当はもっと給与の高い仕事に就けたらよかったのだけれど、私は何のスキルも持ち合わせていない。

頭の出来が悪い私は、資格が要るような難しい仕事はできなかった。



それに加え、同じ寮に住む学生たちは全員が平民だからか、私はあまり馴染むことができなかった。

まるで腫物を扱うかのようで、誰一人として私に近づこうとはしない。



しかし、彼らを責めることなどできない。

平民が、公爵家の令嬢相手に話しかけるなんてあまりにも畏れ多くてできないのが普通なのだから。



そんな暮らしが半年ほど続いた頃、仕事終わりに店の主に声をかけられた。



「マージョリーちゃん、大丈夫?最近ちょっと働きすぎじゃない?」



私の職場は平民の老夫婦が経営する酒場だ。

当然、公爵令嬢ということは明かしていない。貴族のご令嬢が市井で仕事なんて、余計な詮索をされるのが目に見えているからだ。



「……学生寮の家賃を払わないといけないので」

「そう、若いのに大変だね」



店主はちょっとまってて――と言うと、店の奥から何かを手に戻ってきた。

彼は手に握っていた袋を私に手渡した。



「これ、良かったら食べて!ウチの奥さんの手作り!」



袋を受け取ると、中に数種類のパンが入っていた。

公爵邸で食べていたような高価なものではないが、今を生きるのに必死だった私にとってはこれ以上ないくらいありがたかった。



(……こんな私のために)



何だか、久々に誰かに優しくされたような気がした。



「……ありがとうございます」



――帰り道、久しぶりに人の温かみに触れた私は、人知れず涙を流した。



***



私の寮生活が始まって二年以上が経過した。

その頃には私はお姉様が亡くなった第三学年に上がり、卒業を間近に控えていた。



公爵家の抱える事情が噂になっているせいか、アカデミー内でも友達は一人もできなかった。クラスの全員が私を避けるのだ。まるで可哀相なものを見るかのような目で見てくる者もいる。

私は特に目立つこともなく、息を潜めてひっそりと生きていた。



――まるで、公爵邸にいた頃のマーガレットお姉様のように。



最初はどうして私がこんな目にと神を恨んだこともあったが、憎しみを募らせれば募らせるほど心が辛くなっていくだけだということに気が付いた。



私はもう、誰一人恨まない。

お姉様に筋違いな恨みを向けて、彼女を辛い目に遭わせてしまったのだから。そんな私に誰かを恨む資格なんてないはずだ。



卒業の時期になると、私は新しくある悩みを抱えるようになった。

それが、卒業した後の生活だった。



卒業と同時に、今住んでいる学生寮を出て行かなければならなくなる。

私はお姉様のように婚約者がいるわけでもないから、結婚する予定もない。だからといって、アーヴィング公爵家を継ぐ気にもなれなかった。



お父様もお母様もその恋人も相変わらずで、この二年間公爵家は何一つ変わったところがない。

あの家に戻るのは気が乗らないし、このまま平民としてあの酒場で働こうかななんて思い始めていた。



「……」



その日の朝、私は学生寮を出て外の空気を吸いに行った。

今日はちょうどアカデミーも仕事も休みの日だった。とはいえ、遊ぶ相手もいない私は特に行く場所もなく、家でじっとしているだけだ。



よく晴れ渡る青い空を見ていると、お姉様の透き通った瞳を思い出す。あまりにも綺麗で、よく嫉妬しちゃってたっけ。



「……ねぇ、お姉様。そっちの生活はいかがですか?」



お姉様は私と違って社交的な人だから、きっとどこへ行っても上手くやれているんだろうな。

幸せでいてくれるのなら、これ以上喜ばしいことはない。



「お姉様。私、お姉様が亡くなってから色んなことを学んだんです」



それでもすごく頭の良いお姉様には遠く及ばないけど、ちょっとはまともになれたかな。お姉様が生きていた頃と比べたら、だいぶ成長したように感じる。



お姉様が亡くなってから、一体何を学んだのか。



人はとても残酷な生き物で、愛する人を簡単に裏切れるということ。

きちんと確かめもせずに信じることが、危険極まりない行為であるということ。



――そして、悪いことをしたら必ず自分に返ってくるということも。



「私、まだ頭は全然良くないんですけど……それでも、大人になったからかな。わかることがあるんです」



アカデミーに入り、仕事を始めて様々な身分の人と関わり、私はさらにたくさんの学びを得た。結果、少しだけ精神的に大人になることができた。

お姉様はこんなこと望んでいないかもしれないけど、念のため、天国にいるであろう彼女に向けて報告する。



「――多分、もうすぐアーヴィング公爵家は没落するでしょう」




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