↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命わずかな公爵令嬢は、最後に最愛の婚約者からの愛を望む  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 彼女が亡くなった後、人々は……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/46

30 家からの脱出 マージョリー視点

母が恋人との同居を始めてからというもの、私は邸内で居場所を失くした。

父は相変わらず部屋から出てこないし、母も昼間から恋人とイチャイチャしてばかり。



使用人たちも二人に愛想を尽かし、次々と辞表を提出していった。



頼れる人もいない公爵邸で、私は一人ぼっち過ごさなければならなかった。

しかし、辛いだなんて弱音は吐いていられない。



――お姉様は、同じような境遇で十年以上耐えてきたのだから。

そのように考えることで何とか我慢できていたけれど、とうとう限界を迎えた。



孤立しているというだけなら、まだ耐えることができた。

しかし、このときの私はどうにもできない問題に直面していた。



「お母様、お話があるんです……」

「何よ?」



振り返ったお母様が、私を見てわかりやすく眉をひそめた。



あんなに優しかったお母様は、いつの間にか冷たくなっていた。

理由は恋人のラスキン男爵令息の関心が私に向いているからだろう。

男爵令息はお母様よりも私に興味津々だった。最初から母ではなく、私目当てでここに来たのではないかと思うほどだ。



私は母を正面から見据え、ハッキリと言葉を発した。



「お母様、私……アカデミーの寮に行きたいんです」

「寮?」



私の通う王立アカデミーには、遠方から通学する生徒のために学生寮が設置されている。

アカデミー内は自宅通学の生徒と、寮に住む生徒とで大体半々くらいだ。私はずっと自宅から通学していたけれど、寮に行きたいという意思を母に伝えた。



お母様は当然、難色を示した。



「何言ってるのよ。そんなお金、ウチにはないわよ」



アーヴィング公爵家は火の車だった。

領民たちからの税金で何とか暮らしてはいるものの、それでも支出の面を考えれば毎月赤字である。



新しい父となった男爵令息は全く仕事ができず、何の役にも立たなかった。

寮と言っても当然無料で住めるわけではない。月に決まった費用がかかり、アーヴィング家には支払えるほどの金銭的余裕がなかった。



しかし、私は諦めなかった。



「お母様、費用は私が自分で稼ぎますから……お願いします」

「……どうしてそこまで」

「寮で暮らしていたほうが、通学するのが楽だし……」



母親は渋りながらも、最終的には私の寮生活を認めてくれた。

通学において楽になるというのは建前で、本当の理由は別にあった。



「――マージョリー、寮で暮らすんだって?どうして急にそんなことを言い出したんだ?」

「お、お義父様……」



母から話を聞いたのか、その日の夜にラスキン男爵令息が私の元を訪れた。

本当はお義父様と呼ぶことすら嫌でたまらない、ただの母の恋人。



「今は……勉強に集中したいんです。卒業後は結婚して公爵家を継がないといけないですし」

「結婚だなんて……そんなすぐにはしなくてもいいんじゃないか?」



――ラスキン男爵令息の伸ばした手が、私の頬に触れた。

骨ばった手に触れられ、私の身体にも自然と力が入った。



最近になって、男爵令息は意味もなくさりげないボディタッチを繰り返すようになった。付き合ってもいない、むしろ嫌悪してやまない男性に身体を触られるのは、不快でたまらなかった。



このままだと危ないと思った私は、家を脱出することにしたのだ。



――そしてちょうど、今日が寮へ旅立つ日だった。

荷物をまとめた私は、今や開かずの扉となっている公爵邸の一室に向かって声をかけた。



「……お父様、行ってきますね。帰ってくるのは二年後くらいになると思います」

「……」



当然、返事はなかった。

父親と話したのはもう何ヵ月も前だった。母はもう父のことを忘れているようで、新しい恋人を連れて平然と邸内を歩き回っている。



泣いてしまいそうになるのを何とか堪えた私は、トランクケースを持って家を出た。

住み慣れた我が家を離れる決意をしたことに、後悔はしていない。



そして明日からは、多忙な日々が待ち構えている。



家を出て馬車に乗り込むと、アカデミーの寮まで一直線に向かった。

王立アカデミーの寮には、いくつか種類がある。



王族や高位貴族たちが暮らす翡翠寮は、まるで高級ホテルのスイートルームのようで、費用もかなり高くなる。

少し前の私であれば、絶対に翡翠寮を選んでいただろうが、今はそんな贅沢言ってられなかった。



「初めまして、マージョリー・アーヴィングです」

「……アーヴィングって、公爵家の……?」



私が新しく住まいとしたのは、平民や貧乏貴族たちが暮らす最下層の寮だった。

寮生たちはほとんどが平民で、アーヴィング公爵令嬢の私をギョッとした目で見つめていた。

当然だろう、この寮には公爵家の人間はおろか、貴族が入寮してくることすら珍しい。



「今日から、ここに住むのね……」



私は新しく与えられた部屋を見回した。

簡素な室内に、ベッドが一つ。それ以外に設置されているのは、勉強机と椅子くらいである。



部屋も小さく、翡翠寮と違って使える設備も多くはない。

しかし、その分家賃が安いという大きなメリットがあった。



明日からは王都にある飲食店で仕事も始まる。

寮の費用は自分で稼ぐと、母と約束したのだ。家賃を滞納すれば、すぐにでもあの家に戻る羽目になる。



忙しくはなるだろうけど、公爵邸で暮らし続けるよりかはずっとマシな生活になるはずだ。




読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。