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余命わずかな公爵令嬢は、最後に最愛の婚約者からの愛を望む  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第一章 最後に一度だけ愛してください

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3 婚約者の様子が変だ ヴァージル視点

王都の一角に位置するホルブルック公爵家の敷地内。敷地の中に本邸と別邸、だだっ広い庭まで。豪華で煌びやかで、まるで王族たちが住む宮殿のようだと訪れた人々は言う。



アーヴィング邸とはまた違う大豪邸の一室に、ヴァージルはいた。



――一人ではなく、愛する女性と。



「本当!?婚約破棄できるの!?」

「ああ、マーガレットがとうとう婚約破棄を受け入れた」



ヴァージルのすぐ傍でキャッキャッとはしゃいでいるのは、恋人のメリーベルだ。

彼女は目を輝かせて、ヴァージルとマーガレットの婚約破棄を喜んでいた。



彼がマーガレットに会いに行くと言ったときは心配でたまらなかったが、こんなにも素敵な報告を持って帰ってくるなんて。

彼女は手を伸ばすと、ヴァージルの首に腕を回して抱き着いた。



「ヴァージル、私たちやっと一緒になれるのね」

「そうだな、思えば長い道のりだったな」



彼女を抱きしめ返した彼は、感慨深い様子で呟いた。



メリーベルとの関係はもう三年にもなる。

アカデミー一年の頃に出会い、今は三年。それもあと一ヵ月で卒業の時期である。



彼女と出会い、恋に落ちて三年。

ヴァージルはメリーベルだけを見つめ、彼女もまた彼だけを心から愛していた。



二人はお互いに運命の相手であり、生涯を共にする伴侶。

この瞬間は、彼らがずっと待ち望んでいたことだった。



ヴァージルはメリーベルの腰に腕を回し、彼女を高く抱き上げた。



「卒業までに面倒なことを終えられるようでよかったよ」

「そうね、お義父様もお義母様も私たちを祝福してくれているし……これで何の問題もなく結ばれることができるわ」



メリーベルは嬉しそうに笑うと、彼の肩口に顔をうずめた。

今日は間違いなく、二人にとって人生で最も幸せな日となった。



はずだった――



ヴァージルはメリーベルをそっと下ろすと、そのまま彼女から背を向けた。



「ヴァージル?どこへ行くの?」

「父上から任された仕事がまだ残ってるんだ。ちょっと行ってくるよ」

「そう……すぐに終わらせて戻って来てね」



メリーベルは笑顔で手を振り、彼を見送った。



部屋から出たヴァージルは、執務室までの道のりを歩いた。すれ違う使用人たちが、次期当主となる彼に向かって深く頭を下げる。



メリーベルとは半同棲状態だった。

まだマーガレットとの婚約破棄こそしていないものの、彼は既にメリーベルの両親に挨拶を済ませていた。

お互いの両親公認の仲となり、マーガレットという障害さえなければ、二人は結婚まであっという間の状態だった。



本来ならば喜ぶべきことなのだろうが、最後に見た彼女の表情がなぜかとても気にかかった。



(……突然婚約破棄を受け入れた理由もわからないし、最後に愛してほしいとはどういうことだ?)



なぜ、最後だなどと言うのか。

ヴァージルと婚約破棄したからといって、別に彼女の人生が終わるわけではない。

公爵令嬢であり、社交界での評判もいい彼女の元には新たな縁談が山のように来るだろう。



それにあの切なげな目。

まるで全てを諦めているかのような、複雑な感情を宿していた。



(今さら、俺がメリーベルと関係を持ったことに対して怒っているのか?)



ヴァージルはメリーベルとの関係を不貞だとは思っていなかった。

ただ自分は真実の愛を見つけただけだ。むしろ、邪魔者はマーガレットのほうではないか。



(大体、マーガレットの両親だって真実の愛を見つけて婚約を破棄したじゃないか……そのくせに、なぜ俺の気持ちが理解できないんだ?)



愚かにも、彼はアーヴィング家の抱えている事情を知らなかった。



執務室に辿り着くと、彼は大きな二枚扉を開けて中に入った。

小公爵である彼は、父親の跡を継ぐために勉強に励んでいる最中だった。



(一番の問題が終わりそうだし……しばらくは余計な労力を使わずに済みそうだな)



書斎にある机に向かい、彼は残された執務に取り掛かった。

手元の書類に目を落とし、羽根ペンを手に取る。

ホルブルック公爵家が所有する領地における穀物の収穫量の報告書だった。



書類に記載されている数字をしばらく眺めるが、彼の手は止まったままだった。

内容が上手く頭に入ってこない。執務の間、他のことを考えるなんて今までなかった。



「………マーガレットと話した後だからか、気が滅入る」



なぜか、集中できなかった。

代わりに頭をよぎるのは、愛したことなんて一度もない婚約者だった。



嫌っていたわけではなかったが、特別な感情を抱いていたわけでもない、ただ家同士の利益のためだけに結ばれたマーガレット。



「そういえば、三日後だったか」



彼女から提示された日付は明々後日だった。

ずいぶんと急であり、彼は慌てて予定を確認した。ちょうど仕事は入っておらず、強いて言うならメリーベルとの茶会くらいだった。



彼女との約束を反故にするのは気が引けたが、仕方がない。

マーガレットの願いさえ聞き入れれば、メリーベルとはこの先ずっと一緒にいられるのだから。



「そうだ……既に終わった女のことなど気にかける必要はない……」



マーガレットとは婚約を破棄し、メリーベルと一緒になる。

その事実だけで、今は心が満たされた。



――三日後、彼女と婚約者として最後の日を過ごす。

その一日さえ我慢すれば、後はもう自由だ。解放された後のことを考えると、晴れ晴れとした気持ちになった。



ヴァージルは愛するメリーベルとの幸せな結婚生活を想像し、ようやく執務に取り掛かった。




読んでくださってありがとうございます!


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