28 両親の真実 マージョリー視点
勇気を出してお父様の元へ向かったけれど、全てが無意味だった。
お父様は結局部屋からは出てこなかったし、そのせいでお母様も荒れたまま。事態は良い方向に行くどころか、どんどん悪い方向へと進んでいる。
――どうして?どうしてなの?
私は心に余裕がなくなり、お父様の侍従に疑問をぶつけてしまった。
「どうして?お姉様がいなくなったらみんな幸せになると思ったのに……」
その言葉を聞いた侍従は、呆れたように私を見た。
思えば、彼は最初から私のことを良く思っていなかった。心のどこかで無能な公女だと見下していたのだろう。
執務もまともに遂行できず、散財ばかりを繰り返していた過去を思えば、訂正する気にもなれなかった。
「……なぜ、そう思ったんです?」
不快感を隠すこともしない、異様なほど低い声だった。
私は本当の気持ちを隠し通すこともなく、素直に答えた。
「だって……お姉様は生まれてきてはいけない子だったから」
「……」
――生まれてきてはいけない子。
その一言に、彼の眉がピクリと動いた。
私はそんなことを気にも留めず、涙を流しながら言葉を続けた。
「お姉様のお母様は……お父様を魔術で操っていたんでしょう?そのせいで、お父様は悪女と関係を持ってしまったって」
「……何を、言っているんだ?」
なぜか、彼は絶句していた。
彼の反応に、私は不思議そうにきょとんと首をかしげた。
悪女の冷酷な行いに絶句しているというのなら、理解できる。しかし、とてもそういうふうには見えなかった。
「……お前、自分が何言ってるかわかってるか?」
「な、何なのよ!私はただ事実を口にしているだけで……」
そこまで言いかけた瞬間、侍従が近くの壁に拳を叩きつけた。
ドンッ――という鈍い音が廊下に響き、私は驚きで肩を上げた。
「――マーガレットお嬢様の母親が魔術を使って旦那様を操っただと?そんなことあるわけがない。全部嘘だよ、お前の母親のな」
「え、そ、そんな……」
彼の口から語られる新たな真実は、私が母から聞かされていたものとは全く違った。
「お前の父親はな、美談として語り継がれているが、お前の母親と結婚する前に別の婚約者がいたんだ。高貴な身分のお方で、淑女の鑑とまで言われる美しい女性だった」
「こ、婚約者……?お母様とは別に……?」
あまりの衝撃に、涙も引っ込んだ。
お父様にお母様以外の婚約者がいただなんて、全く知らなかった。誰もそんなことは教えてくれなかったし、母を一番に愛する父に他の女性の影があったことを想像もしていなかった。
「お前の父親は、母親と出会ったことで婚約者を裏切った。婚約を破棄し、そのせいで許嫁は実家から勘当されて平民になったよ」
「そ、そんな……平民に……?」
貴族令嬢が突然平民になる。
それがどれだけ残酷な仕打ちか、私ですら理解できる。
もし今家が没落し、平民になったとしたら、私やお母様はきっと生きてはいけないだろう。
「子供を身籠ったのは、旦那様が酒に酔って彼女に手を出したからだ。決して、彼女が魔術を使って操ったからではない」
「……嘘よ、そんな」
たしかによく考えてみれば、人を思いのままに操ることのできる魔術なんて存在するわけがない。
そんなことが可能となれば、国は一瞬で崩壊してしまうからだ。
どうして、私はそんな当然のことに気が付かなかったのだろう。
母親だからと何でもかんでも信用し、物事の真偽をたしかめようとすら思わなかった。
「お前、今までずっと母親からそう聞かされていたのか?」
私は黙ったまま、コクリと頷いた。
彼は私を見て、ため息をついた。
「……それでマーガレットお嬢様をあそこまで毛嫌いしていたのか?愚かな女だな……」
「ッ……」
主の娘に対して無礼すぎる発言だったが、今はそんな小さなことを気にしている場合ではなかった。
侍従は腕を組み、偉そうに私を見下ろした。
「それで、どうするんだ?使えなくなった当主に代わって、執務を遂行できるようになるための勉強でも始めるか?」
「……」
お父様が残していった書類は全て目を通してある。
しかし、大半が理解できないものばかりだった。自分が他者よりも優秀であると信じて疑わなかった私にとっては、青天の霹靂だった。
「私はまだ十六歳よ?アカデミーにも入学したばかりだっていうのに……」
「マーガレットお嬢様はその年から旦那様の執務を手伝っていたぞ?」
「……」
お姉様を引き合いに出された私は、何も言えなくなった。
たしかに、お姉様は昔から社交界で話題になるくらい聡明な人だった。そんなお姉様に負けたくなくて、私も勉学においては努力を重ねた。
お姉様を虐げていたのは、もしかすると嫉妬心もあったのかもしれない。
今思えば、なんて醜かったのだろうか。
侍従からの蔑みの眼差しに耐えられなくなった私は、彼から背を向けた。
「どこへ行くんだ?」
「……お母様に会いに行くわ」
結局、困ったときにいつも助けてくれるのはお母様だった。
いつも私の望んでいた言葉をかけてくれる、お母様は私にとって救いの女神のような存在だった。
――お母様ならきっと、私を元気付けてくれるはずよ!
しかし、この後私は母親に会いに行ったことを後悔することとなる――
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