25 姉の葬儀 マージョリー視点
お姉様の葬儀はつつがなく行われた。
名門アーヴィング公爵家の令嬢が齢十八にして亡くなったのだ。国内外から王侯貴族を呼び、お姉様を弔った。
お姉様の死を聞いたお父様は、酷く動揺しているように見えた。
だけど、そんなお父様の悲しみが本心ではないことを私はよく知っている。
――だってお姉様は、生まれてきてはいけない人だったんだもの。
そのことは、お父様だってよく知ってるはずでしょう?
むしろ、お姉様が亡くなったことでいつも通りの幸せが戻ってくる。
私はそう信じて疑わなかった。
葬式では、多くの貴族たちがお姉様の死にショックを隠せなかった。
お姉様は社交界の華として有名だったから、仕方がない。
「マーガレット嬢……まだ若いのに何ということ……」
私も喪服を着用して式に参加した。
お姉様が死んだなんて、最初は嘘かと思ったけど、棺の中で横たわる彼女を見て本当なんだって思った。
生前、一度もわかり合えなかった、半分だけ血の繋がった姉。
死んだところで悲しくなんてないはずだった。だけど、真っ白な顔で眠るお姉様を見ていると、なぜかどうしようもない罪悪感が押し寄せた。
――私は、今さらお姉様に対して罪の意識を抱いているというの?
信じられなかった。
きっとお姉様が聞いたらふざけるなと声を荒らげていただろう。
私はそんな自分の気持ちを認めたくなくて、隣にいるお母様に声をかけた。
「ねぇ、お母様……」
「どうかしたの?マージョリー」
お母様はお父様と違って、お姉様の死を悲しんでなんていなかった。お母様からしたら、お姉様は養女。血が繋がっていないので、情を抱けないのも当然だろう。
お母様はお姉様の遺体を前に、平然としていた。つまらなさそうに、その亡骸を見下ろす。
大好きだった母親が、今は血の通っていない怪物のように見える。
私ですら平常心ではいられないのに、どうしてそんなにも冷たい目をできるのか。
私はお母様の横顔を見上げながら、ゆっくりと口を開いた。
「お姉様は……幸せだったと思う?」
私は一体何を聞いているのか、自分でも説明がつかなかった。
お姉様の幸せなんて、今まで一度たりとも気にかけたことはなかった。いや、むしろ私たちが彼女の幸せを破壊したんだ。
わかってはいたが、どうしても聞かずにはいられなかった。
目の前にいるお姉様に幸せでしたかなんて聞いたところで、答えが返ってくることはない。
その事実が、私の胸に重くのしかかる。
お母様はなぜそんなことを聞くかわからないと言うように眉をひそめ、答えた。
「……知らないわ。幸せだったとしてもそうじゃなかったとしても、どうでもいい。もうあの子は死んだんだから。今になって気にかける必要もない」
「……」
お母様の返事は、私の予想とは違った。
母のことだから、あの子は幸せになんてなってはいけないのよと言うかと思った。
しかし、お母様は既に死んだお姉様に興味がないようだった。
お姉様が死んだところで憎まれるべき人間だと言ったのは、紛れもなくお母様本人だった。
「そうよね……お姉様はもう帰ってこないんだから、考えたところで仕方がないことだわ」
お母様はきっと、死をもって彼女を許したのだろう。死んだのだから、これ以上は貶す必要ない。お父様やお母様の憎悪も、彼女とその母親が死んだことで終わったのだ。
私はそう解釈し、お姉様の棺にそっと花を供えた。
仲の良い姉妹とは言えなかったけれど、最後くらいは笑顔で彼女を見送ろう。
それからしばらくして葬儀が終わり、私たちはアーヴィング公爵邸に帰った。
お姉様がいなくなった公爵邸は、なぜかとても寂しく感じられた。
変だな、いても気付かないくらい空気のような人だったのに。
いつもと変わらないお母様も、いつもと違って疲れきった様子のお父様も。
そのいくつかの事実からある程度の推測はできたはずなのに、気のせいだと決めつけて部屋に戻った。
――今思えば、私はとても愚かだった。
自らの愚かさゆえに、悲惨な末路を迎えてしまうことに気が付けなかったのだ。
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