23 メリーベルの秘密 ヴァージル視点
ヴァージルはメリーベルの肩を掴んで問い詰めた。
「メリーベル!今の発言は一体どういう意味だ!」
「痛ッ!ちょっと何するのよ!」
強い力で掴まれ、メリーベルの表情が歪んだ。
しかし、今の彼にとってはそんなことどうでもよかった。
「答えろ、メリーベル……!マーガレットを殺すとは、一体どういうことだ?」
「ヴァ、ヴァージル……」
彼は逃がさない――というように彼女の両肩を押さえ、問い詰めた。
とうとう観念したのか、メリーベルは口を開いた。
「し、仕方ないじゃない……どうしてもあなたと結婚したかったんだもの……そのためにはあの女に消えてもらうしか方法がなかったのよ……」
「消えてもらうだと……?」
メリーベルはヴァージルとマーガレットが婚約している間、何度も婚約破棄を迫っていた。
当然、彼もマーガレットとの婚約は破棄したかったが、すぐにできることではなかった。何よりマーガレット側が拒否していたせいで、二人の婚約は長く続いた。
メリーベルはそんな状況に業を煮やし、少々過激な方法で婚約破棄することを提案した。
暴漢を使って傷物にするだとか、醜聞をでっちあげて社交界から追い出すとか。どれも、人としてやってはいけない最低な行いだった。
元々メリーベルは穏やかな性格で、誰かを傷付けることを厭わないような人間ではない。そのときはただ、心に余裕がなかったせいだと、ヴァージルはそう思っていた。
残酷な方法は好まないヴァージルは、当然彼女の提案を受け入れなかった。ちゃんとした方法で婚約を破棄するから、それまで待っていてくれと言うと、彼女は渋々頷いた。
彼はメリーベルの肩から手を離した。
「メリーベル……一体、マーガレットに何をした……?」
そう問いかけたヴァージルの声は、僅かに震えていた。
恐ろしくてたまらなかった。目の前にいる彼女が、なぜか人間のように思えなかったのだ。
得体の知れない怪物。
一言で言うならば、そのような表現が正しいだろう。
メリーベルはなぜ自分が責められているのかもわからないというような無垢な顔で、言葉を発した。
「何をしただなんて……ただ、魔物の血と砕いた骨をあの女の飲み物に混ぜただけよ」
「……!」
彼女は悪びれる様子もなく、ケロっとした態度で続けた。
「ただ……ちょっと痛い目に遭ってほしかったのよ……死ぬことまでは想定していなかったけれど……」
「……」
メリーベルはばつが悪そうに視線を逸らした。
マーガレットが亡くなったことに対して罪の意識すら抱いていないようだった。
(もしかして……マーガレットはメリーベルのその行動が原因で……?)
マーガレットが亡くなった理由に、もし彼女が関係していたのだとしたら。
握り締めたヴァージルの拳が震えた。
「……少しでも、君に罪の意識を持っていた自分がとても馬鹿らしく感じるよ」
「ど、どういう意味よそれ……!」
ヴァージルはその質問に答えることなく、メリーベルから背を向けて歩き出した。
「ちょっと、ヴァージル!待ちなさいよ!」
後ろで彼女の叫ぶ声が聞こえるが、振り返ることなく、その場から立ち去った。
***
その後、ヴァージルはメリーベルが犯した罪を包み隠さず全てセオドアに打ち明けた。
彼はセオドアに胸倉を掴まれて壁に背中を打ち付けられ、底知れぬ憎しみを向けられた。
「お前のせいだ……!お前のせいで彼女は……!」
「……」
壁に打ち付けた背中が、ジンジンと痛む。
しかし、マーガレットが受けてきた痛みに比べたら大したことはなかった。彼女はもっと苦しい思いをして亡くなっていったはずだ。
真っ赤になったセオドアの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
ヴァージルはそんな彼に、何も言えなかった。
セオドアの言いたいことが、その表情からしっかりと伝わってくる。
ヴァージルがメリーベルと出会いさえしなければ、マーガレットは今も生きていたかもしれない。まだ確定こそしていないが、メリーベルがマーガレットの死に関与している可能性は高いだろう。
目の前で大粒の涙を流すセオドアを見ていると、ヴァージルまで釣られて泣きそうになってしまった。
しかし、寸でのところで何とか抑える。
ヴァージルには、泣く資格すらなかったからだ。
「……すまなかった」
「なぜだ……なぜ、あんな女に心を奪われてマーガレットを……」
ヴァージルは不貞行為を真実の愛だと言い、正当化していた。
その裏でマーガレットをどれだけ傷付けているかなど、気にも留めていなかった。
たかが婚約破棄。婚約を無しにするだけで、人生を破壊するわけではない。
だからマーガレットにもきっと、新しく輝かしい人生がこの先待っているのだと信じて疑わなかった。
今思えば、何て愚かな考えだったのだろうか。
「セオドア医……頼みがあるんだ……」
「……何だ」
セオドアはヴァージルの胸元から手を離した。
罪悪感に満ちた彼の顔を、これ以上は見ていたくなかった。
「命日に……墓参りをすることだけは……許してくれないか」
「……」
セオドアはヴァージルと視線を合わせないまま、しばらくの間黙り込んだ。
彼に許可を求めるのは違うかもしれないと心のどこかで思いながらも、無断で行くのは憚られた。
「……好きにすればいい、マーガレットならきっと、お前のこともその馬鹿女のことも許していただろう」
「……!」
墓参りの許可を得られたヴァージルの目に、微かな希望の光が宿った。
しかし、それはあくまでもマーガレットの意見である。全員が彼に対して同じ気持ちを抱いているというわけではなかった。
「だが、俺の考えは違う。お前は一生、後悔の中で生きていくんだな」
「……」
最後にヴァージルを一瞥すると、セオドアはそのまま荒い足取りで部屋から出て行った――
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