22 崩壊 ヴァージル視点
その後、ヴァージルはセオドアを連れて領地へ帰った。
セオドアは住み慣れたあの町を離れることに抵抗があったようだが、マーガレットに呪いをかけた犯人を突き止めるためには彼らが一緒に行動するほかない。
それに、ヴァージルはセオドアを信用していた。
彼のマーガレットを想う気持ちは紛れもなく本物だったからだ。彼女のためであればいくら仇とはいえ、自分を裏切るような真似は絶対にしないと確信していた。
セオドアほど有能で、信頼できる人間は他にいなかった。
ヴァージルはセオドアに、領地内にある一軒家を与えた。ヴァージルが用意した場所に住むのは不快だろうが、既に手持ちが少なくなっている彼は他に選択肢がなかった。
「領主様、大変です……!」
「どうした?」
セオドアを連れて帰った彼の元へ、邸の執事が大慌てで駆け込んできた。
「――先代公爵様が、違法賭博で捕らえられたそうです……!」
「何だと……?」
この三年間の間で、彼は父親から爵位を継いで新たな公爵となった。
先代公爵だった父はというと、仕事を全てヴァージルに引き継いだ後、首都で贅沢な暮らしを送っていた。
両親の近況は邸の使用人たちから手紙で聞いていた。
昼間からクラブに通いつめ、享楽に耽る父と、年を取ってもなお社交界に夢中な母。
「な、何をやっているんだあの人は……」
「その影響で首都の邸宅に騎士団の調査が入り……奥様が違法薬物使用の疑いで連れて行かれました……!」
「……!」
両親揃って逮捕されたともなれば、流石に心穏やかではいられない。
「領主様、ここにも王家の騎士団が来るかもしれません」
「そうだな……だが、俺たちは父上や母上と違って何の罪も犯していない。堂々としていればいいんだ。見られて困るようなものは、この邸宅にはないのさ」
ヴァージルはこの城のトップとして、下の者を不安にさせるわけにはいかなかった。
きっと大丈夫だ、俺たちには何の害も及ばないと――そう信じて疑わなかった。
***
その後、執事の予測通り領地にある城に王家の騎士団がやって来た。
しかし、ヴァージルは賭博もしていなければ、薬物も使用したことがない。そんな彼の邸宅からは当然何も出てこず、何の問題もなく調査は終わった。
一方で、先代公爵夫妻は裁判にかけられた。
裁判では、公爵の余罪が次々と明らかになった。
何と、彼は賭博場において、組織ぐるみで詐欺を行っていたのだ。
酒場の地下に承認を得ていない違法な賭博場を開き、訪れた者たちを罠にはめ、大金を得ていたという。
関係者は全員捕まり、それぞれ極刑を言い渡された。
結果、公爵は鉱山で百年の強制労働の刑が課され、夫人は首都からの永久追放が言い渡された。
首都にある邸宅を没収され、財産も大半を持って行かれることとなった。
「お義父様!お義母様!行かないで!」
法廷ではメリーベルが騎士に連れて行かれる義両親を助けようと、暴れた。
しかし、既に刑が確定してしまっている以上、彼女にできることなど何もなかった。たとえ悪人だったとしても、彼女にとっては良い義理の両親だったのだろう。
「ホルブルック公爵よ……」
「よくもまぁ、社交界に姿を現わせるわね……」
「両親の犯した罪を知らなかっただなんて、あり得るかしら?」
舞踏会などの祭典に赴くたび、ヴァージルに向けられたのは軽蔑の目だった。
彼は、両親の犯した罪を一生背負って生きていかなければならなかった。
王国でも一、二を争うほどの名門と言われ、他のどの家よりも輝かしかったはずのホルブルック家は、一瞬で地の底に堕ちた。
そんな中でも、メリーベルは相変わらず問題ばかり起こしていた。
今日もまた、王家主催のパーティーで一人の貴族令嬢と揉めたのだ。さらには相手の令嬢に頭からワインをかけるという暴挙にまで出た。
彼は家に帰った後、メリーベルを叱った。
「メリーベル、いい加減にしないか。いちいち貴族たち一人一人に突っかかっていたらキリがないぞ」
「何よ!あの人たちが私の悪口を言うのが悪いのよ!私は公爵夫人なのよ!?あなたは平気なの!?ホルブルック家が侮辱されているというのに!」
もちろん、ヴァージルも思うところがないというわけではなかった。
しかし、父親が大罪を犯してしまった以上、自分たちに非があるのは明白だった。父の犯した罪を思えば、ヴァージルが公爵という地位を維持できているだけでも奇跡のようなことだった。
メリーベルの気持ちがわからないわけではない。
しかし、社交界にいるほとんど全員が敵の状態で挑発に乗ってしまえば、醜聞は避けられない。
貴族社会では基本的に、先に理性を失ってしまった者が負けなのである。
ヴァージルだけは自分を理解してくれると思っていたのか、メリーベルは悔しそうに俯いた。そんな彼女を見るたびに、彼の胸は痛んだ。
(……彼女をこんなふうにしたのは俺だ)
今思えば、ろくな教育を受けていない男爵令嬢が公爵夫人になるなど不可能だったのだ。
恋に浮かれていた彼は、そこまで頭が回らなかった。その結果、彼女に辛い思いをさせてしまっている。
自分の元に嫁ぎさえしなければ、もっと幸せになれたのではないか。
少なくとも、このような惨めな思いはせずに済んだだろう。
愚かな自分のせいでマーガレットとメリーベル、二人の女性を深く傷付けてしまった。後悔してもしきれない。
俯いたメリーベルは、ボソッと呟いた。
「何よ……せっかくあの女を殺して公爵夫人になれたのに……これじゃ意味がないじゃない……」
「……何だと?」
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