21 衝撃の事実 ヴァージル視点
セオドアは遠路はるばるこの町を訪れたヴァージルを罵倒した。
心ない言葉を何度も浴びせられたが、ヴァージルはそれでも退かなかった。
ただ真実を全て知りたいという一心で、彼に懇願し続けた。
貴族が平民相手に頭を下げることなど、あってはならない。公爵家の次期当主であるヴァージルならなおさらだ。
しかし、彼はプライドなど気にすることもなく床に額をこすり続けた。
罵詈雑言を浴びせ続けていたセオドアだったが、彼の真摯な姿勢に、次第に考えが変わっていった。
ただ興味本位で来たのだとばかり思っていたセオドアは、ようやくヴァージルの本気を悟った。
「……知りたいのか?マーガレットのことを」
「あぁ……彼女に何があったのか……全てを教えてほしいんだ」
セオドアは落ち着きを取り戻したようで、ソファに戻った。
彼の反応を確認したヴァージルも、彼の正面に再び腰を下ろした。
「……お前、マーガレットのことなんて何も知らないだろう」
「俺は……十年間も彼女と時間を共にしながら、まともに彼女のことを見てこなかった」
ヴァージルは悲しげに視線を伏せたが、全て自業自得だった。
それをよく知っているセオドアは、彼に同情などしなかった。
「――いいだろう、教えてやるよ。最初から最後まで全部、お前の知らないことをな」
その一言を皮切りに、セオドアはマーガレットに関する全てをヴァージルに打ち明けた。
セオドアが最初に話したのは、マーガレットの出生の秘密だった。
彼女がアーヴィング公爵夫妻の間に生まれた子供ではないこと。本当の母親は公爵の元婚約者であり、一夜限りの夜の末に妊娠した子であるということ。
そして、公爵家に引き取られてからは虐げられて育ったこと。
その全てが衝撃的だった。
彼はマーガレットが仲の良い公爵夫妻から生まれた子だと信じて疑わなかったし、愛に満ちた家庭の中で育ったのだと決めつけていた。
セオドアとて、マーガレットとの付き合いはヴァージルと同じくらいだ。
つまり彼は知らなかったのではなく、知ろうとしなかったのである。
「十年間も一緒にいて何も知らなかったとは……笑えるな」
「……」
馬鹿にされていることは明白だったが、ヴァージルは弁明することもできなかった。
自身が犯した罪は、あまりにも大きかったから。
セオドアは身を乗り出し、彼の胸倉を掴んだ。
「マーガレットはそんな辛い環境の中でもお前を愛していたんだぞ?お前のために毎日のように血の滲むような努力をしていたんだ」
「マーガレットが……」
政略結婚だと彼女を見ようともしなかったヴァージルとは違い、マーガレットは彼を心から愛していた。
セオドアの言葉で、彼はようやく彼女の深い愛を悟った。もちろん、全く気付いていないというわけではなかった。
もしかしてそうかもしれない、という確信には至らない疑念を持ちながら、ずっと知らないフリしていたのである。
「マーガレットが何で亡くなったかを知りたいとも言ってたな……お前、最後に彼女を見たとき変だと思わなかったのか?」
「変……?何も変わったところはなかったはずだが……」
ヴァージルはあの外出の日を回想し、あることに気が付いた。
(マーガレット……そういや、いつもよりやつれていたか……?)
厚手の服で隠してはいたが、時折見えた手首はまるで病人のように細かった。
それに首元や鎖骨あたりにも骨が浮き出ていて、明らかに痩せすぎの状態だった。
「……もしかして、マーガレットはあのとき既に病気に罹っていたのか?」
「……そうだ」
セオドアはマーガレットの病気――呪いについて全て話した。
彼女が呪いにかけられて病気を患ってしまったこと、療養するためにここへ来たこと、司祭の力を借りたが治ることなく死んでしまったこと。
「そ、そんな……呪いだなんて……」
セオドアは信じられないというように、手で額を押さえた。
あまりの衝撃に、言葉を返すことすらできないようだ。
「一体誰が彼女に呪いをかけたんだ?」
「……さぁな」
セオドアはマーガレットが亡くなるまでの間、呪いをかけた犯人を突き止めるために奔走していた。
しかし、結局何の手がかりも得られず彼女をそのまま死なせてしまった。
マーガレットが亡くなった後の彼を襲ったのは、途方もない虚無感。
彼女が帰ってこないというのに、今さら犯人捜しをしたところで何の意味があるのか。自分にはどうすることもできないという無力感が彼を襲い、どうせ犯人など突き止められないと諦めるようになった。
結局、彼は仕事も辞めてしまい、昼間から酒を飲んで過ごすという堕落した生活を送っていた。
ヴァージルの頭の中に、最後に彼女に言われた言葉がよぎった。
『――初めて出会った頃より、ずっとお慕いしておりました。十年間、束の間の幸せを与えてくださってありがとうございました』
十年間の幸せ。
ヴァージルはマーガレットを婚約者として扱っただけで、愛したことはなかった。恨み言の一つや二つ言ってもいいくらいだ。それでも、彼女はヴァージルを一切恨まなかった。
もし、自分が彼女のことをもっと見ていたら、何かが変わっただろうか。
考えたところでどうしようもないことをわかってはいたが、彼女のために何かしてあげたかった。
「セオドア医……マーガレットに呪いをかけた者を突き止めよう」
「……お前、今さら何を言っているんだ?」
呪いをかけた者を処断したところで、マーガレットが帰ってくるわけではない。
そんなことはわかっている。しかし、犯人が何の裁きも受けないままでは彼女も浮かばれないだろう。
「マーガレットを死なせた犯人が野放しになっているんだ……そんなの許せないだろう。犯人が捕まることで、マーガレットも安らかに眠れるはずだ」
「……」
ヴァージルは渋るセオドアを何とか説得し、約束を取り付けた。
読んでくださってありがとうございます!
ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!




