開門 ロザリアSide / レナルドSide
テオ様はさすがに体力があって、私を抱き上げた状態にも関わらず誰よりも早く走っていた。
日頃から鍛錬していると言っていたし、お体も大きいから強いとは思っていたけれど、足も速いなんて凄いわ……冥王と呼ばれる所以が分かった気がした。
その後ろをレナルドが追いかけてきて、更に後ろにベルンシュタット兵達が続く――――
兵達は二人の速さにはついて来られないようで、少し距離が空いてしまっている。
レナルドも速いのね……こんなに凄い人なのにお城の庭師に扮していたなんて…………庭師として接していた時の事を思い出して、ちょっぴり自分が恥ずかしくなった。
私とレナルドが歩いて来た通路は、走るととても短く感じるくらいにあっという間にリンデンバーグ城の裏側に出る出口に辿り着いた。
「私が先に出ます」
レナルドがそう言って、蓋のようになっている扉を押し開けた。
辺りをキョロキョロ見ているレナルドは、人気がないのを確認してテオ様と私に頷く。
「裏側には誰もいないようだ。 このまま散り散りになり城内に入る。 敵兵は全て捕縛しろ。 王族は見つけ次第一か所に集めるように、いいな」
「はっ!」
テオ様が兵達に的確に指示を出し、私を下ろして先に出て行った。
私はテオ様の後に続いて通路から出ると「私の後ろから離れないでくれ」とテオ様に言われる。
私は小さく頷く……いよいよね。
意気込んで動こうとしたその時、うっそうと茂る草むらの向こう側から誰かが歩いてくる音が聞こえた。
テオ様やレナルドにも聞こえているようで、皆リンデンバーグの者かと警戒している。
夜だし辺りがあまりよく見えないから余計に恐い……複数の音が聞こえるわ…………リンデンバーグにもこんなに兵が残っていたのかしら――――
――ガサガサッガサッ――――
草をかき分ける音がした瞬間「そこで止まれ、リンデンバーグの者か?」とテオ様が威圧感たっぷりに声をかけた。
「閣下?!」
声を聞いてテオ様だと分かったのか、草むらから主を呼ぶ声が聞こえる。
そして姿を現したのは、ベルンシュタット兵だったのだ。
「お前たちか。 前方の我が軍の者だな? という事は……」
「合流出来て良かったです! 閣下が来る前に城門前までは制圧が完了致しました。 我々は城下街の方から回り込んで、城内に潜入した特殊部隊の者です。 リンデンバーグは城内に兵を戻して籠城の姿勢を見せているものと思われます。 城下にも人がほとんどおりませんでしたので、そこまではすんなり……城下町に配置されていました兵などは捕縛しております」
「そうか、ご苦労だったな。 やはり籠城か……まさか後ろから来ているとは思っていないようだな。 後ろから城内を制圧しながらすぐに前方の兵が入れるように城門を開ける。 そちらからも攻め入り、前後で挟み戦意を喪失させるのだ」
「はっ!」
テオ様がテキパキと指示をしていく。
籠城は予想済みだったのね……この様子だと制圧に時間はかからなさそうだけど、油断は禁物だわ。
「おお~~怖っ! さすがに閣下の手にかかると敵さんも蟻のように見えてしまいますね~」
「…………レナルド、ふざけてないで行くぞ」
「はいはい」
レナルドが軽い口調でテオ様をからかっている……テオ様ももうレナルドの正体を知っているのよね?
二人の軽いやり取りに、不謹慎ながら少し和んでしまったわ。
「……では、行こう」
「はい」「はっ」
テオ様の言葉に私も兵たちも皆、声を潜めながら返事をした。
城の裏側へと通じる階段を今度は音を立てずに上って城内へと入っていく……どこに兵が配置されているか分からない。
慎重に動かなければ。
しかし上った先には兵はおらず、皆壁伝いにそっと移動した。
途中、上の階に上る階段もあり、そこで兵も分かれて城内へ潜入していく。
するとレナルドがフードを深く被り、私を連れ去った者たちと同じ恰好をしているのをいい事に「私が城門まで行って開けてもらいますよ」と言い始めた。
流石にそれは危険なのでは……と思ったのだけど、一人だけ兵士ではない恰好をしていたので、テオ様は乗り気だった。
「ふーん…………行けそうだな……」
「でしょ? 怪しまれないように見た目はそのままにしていたんで。 では、行ってきます」
「え、ちょっと、レナルド……!」
制止する声も虚しく、レナルドは素早い身のこなしでリンデンバーグ兵の中に紛れていってしまう。
大丈夫かしら……レナルドは優秀だから大丈夫だと思いたいけれど。
不安そうな私を見て、優しい言葉をかけてくれる。
「大丈夫だ、あいつは軽い事ばかり言うが、やる事はプロだ。 必ず遂行するだろう」
「そう……だといいのですけど…………」
心配する私の頭をぽんぽんしてくれる旦那様の手……レナルドが無事に戻ってきますように。
背中が見えなくなるまでずっと見守っていた。
◆◆◆◆◆
ロザリア様から離れ、一人城内をひた走る。
あまり足音を立てないで走らなくては……いくらロザリア様を攫った者の姿をしているとは言え、不審に思われて牢に入れられたら時間を食ってしまう。
ふと脳裏に「レナルド……!」と心配そうに名を呼ぶロザリア様が浮かぶ。
本当に心配症なんだから。
俺みたいなしがない庭師にそこまで心を砕いてくださるなんて。
あの方の為にも、しっかり任務を遂行する。
しかし城内にはポツリポツリと兵が立っているだけで、特に怪しまれることもなかった。
さすが雇われ兵……この調子なら門を開けるのも容易いかもしれない。
俺はひとまず、やる気がなさそうで眠そうにしている一人の兵に声をかけた。
「すみませ~ん、お姫さんを連れてきた者なんですが……お役目終わったので城を出たいんですけど」
「今は城から出るなと指示が出されている。 お前たちも城外に出る事は出来んぞ」
「ええ~~~それは困ったな! 次の仕事もあるのに……どこかこっそり抜けられる出口とかないんですか? これ、渡すから……」
兵士に少し金貨を握らせてみた……すると兵士の態度が豹変する。
「……城門の横に小さな扉がある。そこからなら出られるだろう」
「ありがとう!助かったよ~~」
お金をチラつかせるとすぐに態度が変わったな。
出口を教えてもらった俺は、ご機嫌で城門まで走って行ったのだった。
――――城門前――――
大きな正面の城門には左右に二人の門番が配置され、城壁に沿って何名かの兵が配置されていた。
俺は先ほどと同じように、普通に声をかけに行く。
「すみません、私は姫さんを連れて来た者なんですが、次の仕事に行きたくて……城内の兵の方に城門の近くにある小さな扉から出ていいと言われて来たのですけど、開けてもらってもいいですか?」
すると右の門番が反応し、応えてくれた。
「……小さな扉? ああ、あそこだな。 ちょっと待っていてくれ」
「ありがとうございます~~」
そう言って手をひらひら振る。
右の門番が立っていた方には開門のレバーがあるようだ……これを上にあげれば門が開く仕組みかな?
持ち場を離れるなんて普通はしないものだけど、統率の取れていない兵だという事がすぐに分かる。
「これって門のレバーってヤツです?」
「ん? ああ、そうだ。 ちょっと古い仕組みだが、上にやるだけだから簡単なんだ。 この城門が閉じていれば何者も入っては来られない」
「閉まっていれば……じゃあ、開いたら入って来られますよね」
俺はニッコリ笑いながら、レバーに手をかけた――――
それが何を意味するのか、門番が悟った時にはもう遅いと分かったのか、みるみる顔色が青ざめていく。
「ちょっ……待て……や、やめるんだ……!!」
「待てません。 俺たち、もう十分待ったと思うんですよね。 そろそろ我が国に全て還してもらわないと」
俺ははレバーを一気に上げた――――城門前で待機していたベルンシュタット兵の声が聞こえる――――
「ベルンシュタット兵の皆さ――ん、お待たせしました!!」
俺がそう声を張り上げると、ベルンシュタット兵たちは我先にと一斉に城内になだれ込んでくる。
次々と押し寄せるベルンシュタット兵の数と迫力に圧倒され、門番たちはすぐに手を上げて投降し始めた。
ようやく終わる……俺はその様子を少しの間、感慨深げに眺め、自分も城内へと走って行った。
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