待ち人来たる
地下通路の入口はとても錆びて付いていた。
そして色んな雑草が絡みついていたので、開けるのがとても大変で、レナルドと二人で何とか開ける事ができたのだった。
お父様やお兄様は城の守りなんて気にしてはいなかったものね。
自分の城が落とされるとは夢にも思っていない人たちだったから……今の状況は、本人たちが一番焦っているのではないかしら。
気付いた時にはもう手遅れのところまできているのに、私を連れて来たという事はまだ何とかなると思っているのよね。
「足元にお気を付けください。 かなり古い通路ですので、あちこち朽ちていますから」
「……分かったわ」
本当にレナルドの言う通りで、地下通路は土を掘ったところに木で少し通路を支えているだけって感じ。
大雨や災害が起きたら生き埋めになってしまうのでは、というような造りだった。
ここに長い時間滞在するのは良くないわね。
速やかに移動して地上に出なくては――――
「ここの通路は基本的に一本道です。 しかし国境を越えなければならないので、少し距離を歩く事になります。 奥様の足は大丈夫ですか?」
私はドレスの時に履いていた少しヒールのある靴だったので、長時間歩く事は難しいかもしれない。
素足で歩くわけにもいかない。
でもじっとしているわけにもいかないから。
「大丈夫よ。 もし痛くなったら脱いで、布でも巻きつけて歩くわ。 幸い布なら沢山あるし。 生きて帰る事が一番大事だから……」
「……奥様は逞しくなられましたね」
「そうかしら。 でも生きたいと思う気持ちが力をくれているのかもしれないわね。 そう思えたのも全部テオ様やレナルドたち皆のおかげだから」
私はレナルドにも感謝の気持ちを伝えた。
こんな危険を冒してまで私を逃がそうとしてくれるなんて、感謝してもしきれないわ。
「奥様を必ずボルアネアへ……ベルンシュタット辺境伯の元へお連れ致します。 命に代えましても」
レナルドはドレスの裾を掴み、そう誓ってくれた。
私には勿体ないほどの言葉をくれるのね……でもそれほどの気持ちを受け取らないのは失礼だから、無言で頷いて見せた。
「行きましょう!」
私は気合を入れ直して前へ進む事にした。
無言でただただ歩き続け、一時間は歩いたと思う。
レナルドが「少し休憩しましょう」と言ってくれたので、地面に座り込んだ。
「私は少し先の方を見に行ってみます。 あとどれくらいなのか、出口が近いのかも確かめたいので」
「分かったわ、ありがとう。 無茶はしないでね」
立て続けに色んな事が起こったので、肉体の疲労と精神の疲労がドッと出てくる……座っているだけで眠ってしまいそう。
ここには誰かが来そうもないわね。
それくらい静まり返っているので、私は足を抱えてウトウトし始めた――静かだわ――――少しくらい眠っても大丈夫よね。
テオ様――――会いたい――――――
眠りに落ちて、頭がカクンッとした衝撃で少し目が覚める。
寝ていたのね……まだ眠れそうだわ…………またウトウトし始めた時、遠くから音が聞こえた。
――――ザッザッザッ――――――
誰かが来るわ……レナルドかしら……レナルドとはちょっと違う重い足音に聞こえる………………それに複数の音に聞こえるわ。
まさかリンデンバーグの人間が?!
でもレナルドが先を見に行ってるはずよ。
レナルドはどうなったの?
そこまで考えて、最悪の事態が頭を過り、ドクンッと心臓が脈打つ。
ダメよ、そんなことを考えては……レナルドなら何とか難を逃れているはず。
とにかく私が彼の足を引っ張ってはいけない!
急いでここから逃げなくては……!!
私はすぐに立ち上がり、走り出そうとした。
でもドレスが足に絡みついて上手く立ち上がれない。
それに足に疲れが溜まって思うように動けない……それでも必死にもがきながら、ここから動かなくてはと走りだした。
テオ様――――お母様――――私を助けて――――――
そう祈った瞬間、後ろからいるはずのない人の声が聞こえてくる。
「ロザリア!」
この声は
私を呼ぶ大好きな声。
ふり返ると、そこには愛する旦那様が私を追いかけて走っていた。
これは夢……?
私があまりにも会いたいから現れてくれたの?
テオ様……テオ様…………!!
「テオ様!!!」
なぜここにいるとかそんな事はどうでも良くて、ただひたすら名前を叫びながらテオ様に向かって走って行った。
走っている間もとめどなく涙が流れてくる。
前がよく見えない。
でもどんどんテオ様の姿がはっきりと見えてきて、私の胸は歓喜に震え、愛する旦那様へと飛びついた。
テオ様は私を受け止めて抱き上げてくれる。
私の大好きなお顔が間近に見える――――
「テオ様っ……テオ様……!! テオ…………さ……ま…………会いたかった…………!」
私は声にならない声を絞り出して、泣きながらテオ様の首にしがみつき、頬擦りしながらテオ様の名前を呼び続けていた。
どうしてここにいるの……嬉しい……テオ様……テオ様――――
「ロザリー……!!無事で良かった……ここで会えるとは思わなかったよ。 レナルドが突然走って来て、君がこの通路にいると聞いて、飛んで来た……!」
テオ様は私の額や頬にキスをしながら経緯を話してくれる。
私はまた嬉しくなって、涙が溢れて止まらなかった。
「テオ様が贈ってくださったドレスも……こんな状態でごめんなさい…………ううっ……最後に絶対ベルンシュタットに帰りたくて……テオ様に会いたくて…………来てくれて嬉しいっ!」
「ロザリー……ドレスなんて気にするな。 君が生きていてくれれば何だっていいんだ……」
泣き続ける私に優しいキスをしてくれる。
私の涙は一気に止まり、今度は顔が赤くなって違う意味で涙目になっていた。
「……そろそろいいですか?旦那様に奥様」
レナルドが後ろから声をかけてきて、初めて皆の存在に気付く。
そこには兵達も沢山いて……こんなに恥ずかしい事があるかしら…………ますます顔に熱が集まってくる。
「レナルド、もう少し空気を読んでくれてもいいんだぞ」
「十分読みましたけど。 ベルンシュタット軍が前方からも進軍しているんですよね? 早く後方からも到着しないと、あちらさんにバレてしまいますよ」
ベルンシュタット軍が……皆が来てくれているの?
「ロザリー、君に話している時間があまりないんだ。 このままベルンシュタットへ戻っていてくれ。 私は……」
「私も一緒に行きます!」
「しかし……」
「テオ様と離れたくない……それに私の家族の問題でもあるから、最後まで見届けたいの。 邪魔にならないようにしますから。 ダメ、ですか?」
私は覚悟を決めた顔をした。
戦だから戦えない者がいれば邪魔になるのは分かっている……でも自分の家族と決着をつけなくては、私は前に進めない。
「……分かった。 でもその代わり、私の後ろにいる事。 絶対に前には出ないでくれ」
「分かりました」
「…………ふっ……ロザリーが私に我が儘を通そうとする時が来るなんてね」
テオ様に言われて気付いた。
確かに私がここまで食い下がるのは初めてかもしれない……自分の変化に驚いてしまう。
「……可愛いよ。 ここがこんな通路である事が残念だ」
「テ、テ、テオ様…………先を急ぎましょう……」
旦那様は私の我が儘が嬉しかったのか、ご機嫌でニコニコしている。
そして私を抱き上げた状態で走り出した。
やっぱりテオ様は力が凄いのね、私を抱き上げた状態でもこんなに動けるなんて。
改めてテオ様の強さを目の当たりにし、私も気を取り直して前を向いた……お父様たちと決着をつける為に。
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