# 第30話 全員集合
翌朝。
朝食を終えたかか志が部屋へ戻ろうとすると、待っていたヨルから声をかけられた。
「山田野殿。昨日お伝えした、陛下とのお話についてですが、一つだけ指示を預かっております。昨日のレベルキャップを王宮へ入る前から着用し、話が終わるまでは絶対に外さないように、とのことです」
「絶対にですか? 昨日は必要な時だけ使えばいいって話でしたよね。それに、何の話をするのかもまだ聞いてないんですけど」
「申し訳ありません。私も詳しい内容までは聞いておりません。ただ、レベルキャップについては、そのように申しつかっております」
ヨルも知らないのであれば、ここで聞いても答えは出そうにない。かか志は部屋へ戻り、昨日持ち帰ったレベルキャップを手に取った。
赤と白に分かれた、どう見ても赤白帽。
「……これ被って国王と話すのか」
少しだけ迷った末、赤を表にして頭へかぶった。
◇
王宮へ着いた二人は、そのまま中へと入った。
「本当にこれ、外さなくていいんですか? 王様の前で失礼に当たりません?」
かか志は頭のレベルキャップを指差した。いくら魔道具とはいえ、見た目は帽子である。それを被ったまま国王と話すというのは、日本人としてはどうにも落ち着かない。
「陛下ご自身からの指示ですので、問題ありません。そのままでお願いいたします」
「ならいいんですけど……」
ヨルに案内されて廊下を進み、一つの扉の前で足を止める。扉を叩いて名乗ると、中から「入れ」と声が返ってきた。
「失礼いたします」
「失礼します」
ヨルに続いて部屋へ入ったかか志は、そこで足を止めた。
「……あれ?」
フラグオールとセバスがいる。それはいい。国王から呼ばれたのだから、二人がいても不思議ではない。
「おう、来たか」
「ギルさん? なんでギルさんが王宮に?」
「俺に聞くな。呼ばれたから来たんだよ。俺だって何の話か聞かされてねえ」
なぜかギルまでいた。その向かいから、見覚えのある老人がこちらへ顔を向ける。
「どうやら問題なく使えておるようですな」
「あ、フーダニットさん。今のところは。昨日もちゃんと効果ありましたし……フーダニットさんも呼ばれたんですか?」
「わしも詳しい話は聞いておりませんでな。ここへ来るようにと言われただけです。もっとも、その帽子が無事に役目を果たしておるのを見られたのは何よりですがの」
フーダニットの視線につられて、かか志もレベルキャップへ触れた。
ここまででも妙な顔ぶれなのだが、もう一人いる。
見覚えはあった。どこで見たのかと考え、すぐに思い出す。召喚された日、あの場にいた王族の一人だ。
「王太子のミスリードです。直接言葉を交わすのは、これが初めてでしたね」
「あ、山田野です。……って、俺のことは知ってますよね」
「ええ。あの場におりましたので」
ミスリードはそれだけ答えると、軽く会釈した。
かか志は改めて部屋を見回した。国王に宰相、ギル、フーダニット、それに王太子までいる。どう考えても、ただ自分と話をするためだけに集まった顔ぶれには見えない。
「……今日は何の集まりなんです?」
「だから俺もそれを聞きてえんだよ。朝から王宮へ来いとしか聞いてねえし、来てみりゃこの面子だ。そろそろ説明してもらってもいいんじゃねえですか?」
ギルがそのままフラグオールへ視線を向ける。
「ギル。陛下の御前だぞ」
「分かってるよ。今だって一応敬語使っただろ」
「一応で済ませるな」
「まあまあ……」
なぜかかか志が止める側に回ると、フラグオールが小さく息を吐いた。
「その辺にしておけ。説明はする。山田野殿も、まずは座ってくれ」
「はい」
促されて席につく。ヨルも自分の位置へ移動し、ようやく全員が落ち着いた。
フラグオールはすぐに本題へ入らず、まずかか志の頭へ視線を向けた。
「山田野殿。そのレベルキャップは、昨日の検証では問題なく機能したのだな?」
「はい。ヨルさんが普通に石を投げられるようになりました。俺に当てて確認したんで、間違いないと思います」
「おい、ちょっと待て」
ギルが眉を寄せてヨルを見る。
「お前、効果を確かめるために山田野へ石ぶつけたのか? もうちょっと他にやり方あっただろ」
「以前と同じ条件で確認する必要があった。もちろん痛くない程度には加減している」
「そういう問題じゃねえだろ……」
「まあ、効果は確認できたんで……」
また自分が止める側になっている。
フーダニットは二人のやり取りには加わらず、レベルキャップへ目を向けた。
「昨日確認した範囲では、問題なく機能したと考えてよいでしょうな。少なくとも、山田野殿に対して行動しようとする側への影響は抑えられておる」
「そうか。ならば話を始める前に、改めて頼んでおこう」
フラグオールはかか志へ向き直った。
「山田野殿。今日の話が終わるまで、そのレベルキャップは絶対に外さないでくれ」
「それ、朝もヨルさんから言われましたけど……そんなに外したらまずいんですか?」
何度も念を押されれば、さすがに理由が気になる。
フラグオールは少し考えてから答えた。
「正直に言えば、分からぬ。昨日の検証で確認できたのは、レベルキャップを着用した山田野殿に対して、ヨルが問題なく行動できるということだ。だが、その逆――山田野殿の側から誰かへ強い敵意や害意を向けた場合、レベル差によって何が起こるのかは確認できておらぬ。レベルキャップがその場合にも同じように働くのか、それも含めてな」
「ああ……そういうことですか。確かに、そっちは試してないですね。でも、それなら今これを被っていても、本当に効果があるかは分からないってことですよね?」
「その通りですな」
答えたのはフーダニットだった。
「とはいえ、それを確かめるためだけに、誰かへ本気で害意を向けてみてくれなどとは頼めません。何も起こらぬかもしれませんし、これまでとは違う影響が出る可能性もある。現状では、試さずに済むならそれに越したことはありませんな」
「それは俺も嫌ですね……」
かか志としても、検証のために誰かを本気で傷つけようと思えと言われて素直にできるものではない。
「ゆえに、今は分からぬままだ」
フラグオールが話を戻す。
「レベルキャップが逆の場合にも効果を発揮するかもしれぬし、しないかもしれぬ。だが、効果がある可能性が残っている以上、わざわざ外しておく理由もなかろう」
「まあ……それはそうですね」
理屈としては分かる。効くかどうか分からないから外すのではなく、効くかもしれないから被っておく。それだけの話だ。
だが、そこまで聞いていたギルが腕を組んだ。
「理屈は分かった。だが、それなら余計に気になるな。なんで今日、わざわざそこまで心配する必要がある? 普通に話をするだけなら、山田野が誰かに害意を向けるような状況にはならねえだろ」
かか志も同じことを思った。
レベルキャップの効果が未確認なのは分かった。しかし、それと今日の話がどう繋がるのかは、まだ分からない。
フラグオールはすぐには答えず、隣のセバスへ一度だけ目を向けた。セバスは静かに頷く。
「これから話す内容によって、山田野殿がどう感じるかは我々には分からぬ。だからこそ、何が起こるか分からぬ以上、できる備えだけはしておきたい。それだけだ」
「俺がどう感じるか……」
そこまで言われれば、さすがに気になる。
「……そんな話なんですか?」
ギルも先ほどまでの軽い調子を消している。ミスリードは黙ったままフラグオールを見ており、フーダニットも今度は口を挟まなかった。
どうやら、自分だけが何も知らないわけではないらしい。
短い沈黙のあと、フラグオールが集まった者たちを見回した。
「では、本題に入ろう」




