第9話 魔法少女、学ぶ
一度飛んだ意識が収束し、再び亜空間から魔法の国へ帰ってくる。
自爆特攻で吹き飛んでバラバラになった身体も元に戻っている。足がちゃんと付いている喜び……。
復活した私は、どうやら街道脇にあった大きな岩の横に降り立ったらしい。壁のように大きな岩の陰から様子をうかがうと、生き残ったアライグマ魔獣が、街道から離れた位置で横一列に整列していた。
「てんこをとりまーす☆」
「いちー☆」
「いちー☆」
「にー☆」
「さんー☆」
「ごー☆」
「はちー☆」
「じゅーさんー☆」
点呼を取る、などといって順番に数字を宣言しているが、宣言する数字がなんだかおかしい。
「……なんで点呼でフィボナッチ数列読み上げてんの?」
『隣り合う数字同士が黄金比に近くなる、自然界でもっとも美しい数列モヒ』
「いや知ってるけどさ……」
『どうするモヒ。相手が油断しているうちに数を減らすかモヒ』
「うーんどうしよう……外したらまた囲まれるよね……何かアドバイスない?」
『お前は目で見える範囲に集中し過ぎるモヒ。1対多数の戦いでは、全方位に注意を向けるのが基本にして絶対モヒ』
「いや、それはわかってるけどさぁ……」
簡単に言ってくれるけど、私の目は正面にしか付いてないのだ。振り向かなくても後ろが見える魔法とかがあればまた違ったのかもしれないけど……。
『全方位に注意を向けられないなら、位置取りで死角を減らすモヒ』
「死角を……減らす……?」
『例えば、お前が今いる岩の前モヒ。ここに立っている相手の背後を取ることは、物理的に不可能モヒ』
「あっ……」
言われるまで全然気が付かなかった……。
確かに、この岩を背にして戦えば、背後から襲われる心配はない。
「なるほど……できないことは、他の側面から工夫してなんとかしろってことだね」
『そういうことだモヒ。ただでさえお前は実力が不足しまくってるモヒ。数多の工夫と並々ならぬ努力がなければ、魔王討伐など夢のまた夢モヒ』
「うへぇ……」
優しいアドバイスかと思いきや、最後に私の置かれている状況について釘を刺してくる。つくづくモヒちゃんはスパルタだ……。
「でも……なんだか、できる気がしてきた!」
私は岩陰から、もう一度アライグマ小隊の様子をじっくり観察する。
「にじゅーいちー☆」
「さんじゅーよんー☆」
「ごじゅーごー☆」
律儀にフィボナッチ数列を読み上げ続けている。
「……本当になんなの、あの点呼」
『気にするなモヒ。重要なのはそこじゃないモヒ』
「いや、そうだけど……気になるよ……」
とはいえ、重要なことは……今なら、隙だらけということ!
「すぅ〜……『クリスタルランサー』!」
バスンッ!
「はちじゅっ……きゅぅ☆」
よっしゃ、命中!!
アライグマ魔獣が一匹消滅する! 残り12匹!!
「えっ、ええー?」
「なんでいきてるのー?」
「こわーい☆」
アライグマ小隊たちがこっちを見て口々に戸惑っているが、口調とは裏腹にキビキビと態勢を整え直している。私は岩にぴったり背をつけて、アライグマ小隊と対峙する。
「かっ、かかってきなさい! 『クリスタルランサー』!」
軽い威嚇のつもりで撃った一発は、幸運にもアライグマ魔獣の胴体を貫く。
「ひどーい☆」
ラッキー! 残り11匹!
「かかれー☆」
再びアライグマ小隊がバラバラに別れて突撃してくる。しかし、最初と比べて大きく数を減らしてる上に、今度は背後が死角じゃない!
「『セレスティアルソード』!!」
手元に浮かび上がる閃光の刃を、大上段に振るう!
「はにゃーん☆」
「ぴえーん☆」
「ひゃくよんじゅーよーん☆」
いやフィボナッチ数列続いてんのかよ! 残り8匹!
「次はどいつ!?」
刃の切っ先を前方に向けて構えながら、視界の範囲にいるアライグマ魔獣を数える。
1、2、3、4、5、6……2匹足りない!
「ふんっ!」
素早く左右を確認し、まず右を一閃!
「にょほー☆」
返す刀で、左に刺突を繰り出す!
「せいぃっ!!」
「ぎゃふん☆」
背後を気にしなくていいのは、とても楽だ。1対多数の戦い方……しっかり心に刻み込む!
「てっ、てごわいー☆」
「どーしよー☆」
「にひゃくさんじゅーさんー☆」
再び、アライグマ小隊が私と距離を取って構える。
残り6匹……おそらく、次が最後の激突になる予感がした。
ジリジリ……ジリジリ……
「……ぐぬぬ」
『最後まで油断するなモヒ』
「うん、わかってる! 任せて!」
モヒちゃんのアドバイス、ずっと煽りかと思ってたけど……本当はちゃんと私のことを思って言ってくれてるんだ! きっとそうだ!
「……かかれー☆☆☆」
アライグマ小隊が再び3手に別れて、突撃をかましてくる!
最後の激突だというのに、芸がない……?
ううんっ! 最後まで油断はしない!!
「でやぁぁぁぁっ!!!」
「きゃぱー☆」
「ほぺろー☆」
「さんびゃくななじゅーごー☆」
「!? 数列間違ってる!?」
マズいッ!!
ツッコんだせいで、切り返しが遅れた!!
「「「とどめだー☆☆☆」」」
タイミングをずらして飛び込んできたアライグマ魔獣たちが、私に迫りくる!
絶体絶命……!?




