第7話 魔法少女、吹き飛ぶ
草原の向こうから近づいてくる魔獣。それは正確に足並みを揃えて、こちらに向かって歩いてきていた。
一匹一匹は、ペンギン魔獣よりむしろ小さいくらいだろうか。おおよそ80センチくらい。ずんぐりむっくりで手足も短いが、二足歩行でしっかり立って、器用に行進してきている。
全身は赤茶色の毛でびっしり覆われていて……特徴的な頭部は、漫画チックにデフォルメされた、アライグマのような形をしていた。
「何あれ!? 何匹いるの!?」
『ざっと50匹モヒ』
さしずめ、それはアライグマ小隊とでも呼ぶべき徒党を組んでいた。一匹だけならおそらくペンギン魔獣と大差ないくらいの脅威だと思うんだけど……さすがにこの数は、多すぎる!!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
一糸乱れぬ行軍を続けるアライグマ小隊は、こちらをじっと睨んで、同時に手を挙げて……
「「「こんにちはー☆」」」
一斉に、何だか緊張感のない挨拶をしてきた。
あーもう……なんだって魔獣とかいう連中はどこかしらこう、可愛らしいんだろうか?
私が最初に戦った(そして敗北した)オオカミ魔獣なんて、可愛いところなんか欠片もなかったというのに!
『弱い魔獣は、相手の油断を誘うような容姿にされていることが多いモヒ。油断するなモヒ』
「わかってるよっ!」
とにかく接近される前に倒さないと!
私は、少し使い慣れてきた魔法を構える!
「『クリスタルランサー』ッ!」
バシュッ!
破壊光線が、アライグマ小隊の頭上、ほんの少し上をすり抜ける。
「あっ、あれっ!? 『クリスタルランサー』!」
バスンッ!
今度は、行軍するアライグマ小隊の少し前方、足元の土をえぐる。
使い慣れただなんて、思い込みだった。全然当たらない……!
「落ち着け……落ち着け……『クリスタルランサー』!!」
ボシュッ!!
「きゃー☆」
可愛い悲鳴をあげて、アライグマ魔獣が一匹吹っ飛んだ。そのまま粉々に砕けて消滅する。
「よ、よしっ! この調子!」
『能率が悪いモヒ』
「そんなのわかってるよ!」
モヒちゃんの悪態を聞き流しつつ、『クリスタルランサー』を連射する。
「わー☆」
「ひえー☆」
「やーん☆」
立て続けに何匹かアライグマ魔獣を仕留めるのに成功した。けど、行軍してくるアライグマはまだ40匹以上……。『クリスタルランサー』は、しっかり命中させても一匹ずつしか倒せないから、数で来られると普通にキツい!!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
アライグマ小隊が迫ってくる。数匹倒されたくらいでは、まったく隊列を乱さない。
ある程度近づいてきたところで……先頭の一匹が片手を挙げて叫んだ。
「かかれー☆」
その号令を受けた瞬間、綺麗な隊列を組んでいたはずのアライグマ小隊は瞬時にバラバラに別れ、正面と左右方向から同時に突撃を仕掛けてきた。
「うわぁっ!? きたっ!?」
『らちがあかないモヒ。『セレスティアルソード』で立ち回れモヒ』
「えっ、あっ……うんっ! 閃光の剣を生み出す魔法! 『セレスティアルソード』!」
魔法を発動すると、握りしめた右手に、光の棒のような物が現れる。そしてその棒の先端から、ブオンッ、と鈍い音を立てて、光の刃が伸びた。
まるでSFロボットアニメのビ◯ムサ◯ベルみたいな武器が、私の手に収まる。これが、『セレスティアルソード』なの……?
「わーわー☆」
ドドドドドドッ!
一斉にアライグマ魔獣たちが飛びかかってくる!
「せぇいっ!!」
アライグマ魔獣めがけて、がむしゃらに光の刃を振るう。重さも抵抗もなく、鋭い刃がアライグマを次々に両断していく!
ブオンッ!
「うわー☆」
ブオンッ!!
「あれー☆」
ブオンッ!!!
「おたすけー☆」
刃に斬られたアライグマ魔獣が、光の粒子をまき散らしながら次々に消滅していく。
突撃する数がどんどん増えているけど……私は少し後ろに下がりながら、飛んでくるアライグマ魔獣たちを難なく迎撃していく。
「なにこれっ……私の魔法、強すぎ!?」
気付けば、アライグマ小隊は最初の半数以下まで数を減らしていた。
こうやって迎撃に徹していれば、問題なく勝てる!
私、けっこうすごいじゃん!
「うきゃー☆」
「ぃよしっ!」
ジャスト30匹目のアライグマ魔獣を斬り倒したところで、アライグマ小隊の前進が止まった。突撃を仕掛けても迎撃されるだけと理解したのか、じっとこっちを見つめてくるだけで、飛びかかろうとしなくなってしまった。
「ど、どうしたのっ!? ほら、かかってきなさい!!」
しかし……今までの勢いはどこへいったのか、アライグマ小隊はじわじわと後ずさりし始めた。20匹弱の集団が、こちらを威嚇しながらずるずると下がっていく。
「逃げてく……?」
『油断するなモヒ』
「わ、わかってるよ!」
一度、光の刃を消して、右手を構える。
「『クリスタルランサー』!!」
バシュッ! バシュンッ!
「あひー☆」
「うぼあー☆」
さらに二匹のアライグマ魔獣が消滅する。
よーし、この調子で小隊を全滅させて……
『油断するなと言っているモヒ』
「えっ?」
どういうこと? って確認しようとして。
正面にいるアライグマ小隊が、明らかに少ないことに気付く。
総勢50匹から、私が倒したのが32匹。ならば残りは18匹のはず……なのに。
アライグマ小隊は、10匹しか残っていなかった。
「えっ!? 残りはっ、どこっ!?」
『だから油断するなと言ったモヒ』
慌てて後ろを振り向こうとしたその瞬間。
「「「つかまえたー☆」」」
正面に気を取られている隙に、背後から近づいていた数匹のアライグマ魔獣にしがみつかれた!
「なっ!? ちょっ、ちょっと!? はっ、離れ……」
「「「ふきとべー☆」」」
アライグマ魔獣の脳天気な声が響いた直後、
ドゴォンッ!!
自分の身体の内側から、ものすごい重低音が響いた。
視界がぐるぐる回る。自分が吹っ飛んでいるのだと気付くのは、地面に叩きつけられたあとだった。
「ぐ……え……っ……」
急速に意識が薄れていく……。
視界の端に、何やら赤いものをまき散らして転がっていく、私の足、だったものが見えた……。




