第5話 魔法少女、人に会う
「走れ〜走れ〜、わっ、たっ、し〜♪」
長くて広い街道を魔法でひた走りながら、私は適当に思いついた歌を口ずさんでいた。
『グロリアスロード』で走る分には、まったく疲れないし息も切れたりしない。とても楽ちんだ。
「ふんふふふ〜ん♪ 魔法〜少女〜♪ クリティカル・レイカ〜♪」
『音痴モヒ』
「ぐぬっ……」
気分よく歌っているところに水を差してくる。本当にこの妖精改め神様は、私に優しくない。
「ねぇ、歌がうまくなる魔法って無いのかなぁ?」
『あるけど、お前には使えないモヒ。あきらめろモヒ』
「えぇ~、何で!? 何で使えないの!?」
『使える魔法は最大で7つ、しかも当人の魔力属性によって決まるモヒ。お前は属性が『勇気』だから、最初に教えた7つ以外使えないモヒ』
「はぇ~……そういうもんなんだ……」
勇気の魔法少女って、属性が『勇気』だからなのか……勇気属性って、何?
『勇気の魔法少女は、使える魔法のバランスも良くて優秀モヒ。お前は優秀だから選ばれたモヒ。自信を持てモヒ』
「モヒちゃん……うん、ありがとう」
まさか、この毒舌神様から「自信を持て」だなんて言われるとは思わなかった。やっぱり案外優しいのかも?
『どんなに歌が下手だろうと人は死なないモヒ。安心しろモヒ』
「あ、はい」
慰め方ヘタクソかよ。
『ただし、下手な歌を聞かされた方は死ぬ可能性があるモヒ。引き締めろモヒ』
「……」
貶し方は上手なんだから……。
街道を30分くらい走っていると、周辺の風景が変わってきた。
先ほどまでは何もない草原がほとんどだったが、今は道の脇に石が積まれていたり、木の杭が打ち込まれていたりと、人の手が加えられているのを感じる。
『人の生活圏に入ったモヒ』
「おぉ……当たり前だけど、異世界にも人は住んでるんだねぇ」
『通行人や馬車とすれ違う可能性があるモヒ。交通事故を起こさないよう、スピードの出し過ぎに気をつけろモヒ』
「……足で走っててそんなこと言われる日がくるとは思わなかった」
仕方ないので少しスピードを緩めながら、周辺を眺めつつ走る。
景色はどんどん変わる。花が咲く平原の向こうに畑の広がる丘が見えたり、林の近くに小さな小屋が建っていたり。
やがて、道の前方に何かが停まっているのが見えた。
馬車だろうか、豪奢な黒い車が2頭の馬に引かれている。
馬車の脇には、腰に剣を差したヒゲモジャのおじさんと、白と黒の清楚なメイド服を着たお姉さんが、こっちを見ながら両手をパタパタ振っていた。
「わー、ファンタジーだぁ!!」
本当に、漫画やゲームでしか見たことないような光景が広がっている。
『はしゃぐなモヒ』
「いや、だってこれ! 本当に異世界なんだって実感しちゃったよ! テンション上がるぅ〜!」
だんだん距離が近付いてきて、おじさんとメイドさんの顔がはっきり見えるようになった。二人ともこっちに手を振りながら、口を大きく開けて何か声をあげているが、走っていると風の音が激しくてよく聞こえない。
「挨拶してくれてるのかな? あはは、こんにちはー!」
『連中は止まってくれと言ってるモヒ』
「でぇぇぇっ!?」
身体を斜めに傾けて足を踏ん張り、急ブレーキをかける!
ドギャギャギャギャッ!
砂煙を周囲にまき散らし、私は馬車の真横でぴったり止まった。
心なしかブレーキが上達している気がする。気のせいかもしれないけど。
「ぶわぁっ!? ごほっ! げほっ!」
「わわわっ! ごめんなさーい!」
「いやっ、大丈夫だ……それより、お嬢ちゃん何者だ? 街道をあんな速度で走って抜ける奴なんて、初めて見たぞ」
「あ……私は」
確か、モヒちゃんのことは言っちゃいけないんだっけ。そうすると転生のこととかも内緒かな?
余計なことを言わないよう、最小限の自己紹介だけに留めることにする。
「私は、『勇気の魔法少女』クリティカル・レイカです!」
「はぁ……魔法少女?」
えっ、うわっ、スベってる?
「それより、あんたこの先に行くつもりか? 危険だぞ!」
「へっ? 私、向こうの街に行きたいんですけど……危険?」
「この先、川向うの橋を渡った辺りに、盗賊が待ち構えているんだ。俺ら知らずに橋を渡ろうとして、襲われちまって……慌てて逃げてきたんだ!」
よく見ると、おじさんはケガでもしてるのか、木材を添え木として足に当てて包帯を巻いていた。
「盗賊……かぁ」
魔獣とはまた違った障害が出てきてしまった。盗賊? 魔法で蹴散らしちゃって良いのだろうか?
「あ、あの……」
今度はメイドさんが口を開いた。メイドさんの服もよく見るとところどころ擦り切れている。
「もしかして、あなたは……冒険者ではありませんか?」
「へっ? 冒険者?」
「まだお若いのに、こんなところを一人で旅をしているなんて……相当な実力の冒険者とお見受けします」
「えー、いや、私は……」
異世界のお約束、冒険者。
人々から依頼を受けて、盗賊や魔物を討伐したり、ダンジョン探索を生業とする職業。
この世界にもそういうのがあるんだ。興味はあるけど……今の私には関係ない。
「お願いします! 盗賊どもを追い払ってください!」
「えっ、えぇ〜……?」
「我々は、丘の向こうの隣国から、山麓の街に行く途中なのです。一刻も早く街に向かわないと……」
「そ、それは大変ですね……」
「お願いします! お礼はいくらでも払いますので!」
「お、俺からもお願いするぜ! この通りだ、助けてくれ!」
「ど、どうしよう……」
私は口元を手で隠して、モヒちゃんに相談することにした。
『バカがモヒ。お前の仕事は魔王討伐だモヒ。盗賊なんぞ構ってる暇はないモヒ』
「え〜、でもでも……あの街への通り道にいるってことは、結局戦わなきゃじゃない?」
『……それもそうかモヒ』
「っ、じゃあ、盗賊どもを魔法で倒しちゃっていいんだね!?」
『盗賊などという有象無象のクズ人間ども相手なら、魔法より楽な方法があるモヒ』
「楽な方法?」
モヒちゃんが教えてくれた、楽な方法――
「モヒちゃん、人の心とかないの……?」
『そこになければないモヒ』




