第42話 魔法少女、世界の理を知る
この世界には、私たちがよく知る世界以外にも、たくさんの異世界が存在しているらしい。私が魔王討伐のために送られた「魔法の国」もそのひとつ。すべての世界はそれぞれ似て非なる世界で、それぞれが独自の発展をしているんだそうな。
それぞれの世界は断絶していて繋がることはないのだけれど、世界と世界の隙間には、ピピピピピみたいな亜空間が色々通っていて、純粋な魔力と概念だけで構築されたもの……端的に言うと神様……は、亜空間を通ることができるんだそうな。
じゃあ、神様っていったい、何なんだろう?
当の神様であるところのモヒちゃんいわく、魔力が神の領域まで到達すると、人の魂は概念化して神様になる。そして、それぞれ持ち場となる亜空間に入り、隣接する世界の魔力的な問題を解決する存在になるのだとか。
『魔力とは、魂が世界に干渉する力のことだモヒ。人の在り方と魔力は密接に関係しているモヒ』
魔力は、魔法を使う以外にも色々なことができる。けど、魔力を神の領域に近づけるのは、その人の魂を揺るがしかねない、とても危険な行為らしい。
『人が神になるには、とんでもない量の魔力が必要だモヒ。足りないままで神の領域に触れると、魔力が裏返って死ぬモヒ』
「それって、私が倒したあの盗賊たちみたいになるってこと?」
『神の存在を知覚することは、神の領域に近づく第一歩だモヒ。魔法の国に住む人類は、そのラインにすら立てない者が大半だモヒ』
なるほど、そういう仕組みだったんだ……。
そして、神の領域に近づけば近づくほど、必要な魔力が増えていく……?
「私は……神になれちゃうくらい、魔力が高いの?」
『過去に我が見たことある、神になった人間と比較しても……お前は頭一つ抜けているモヒ。何だったらすぐにでも神にしてやるがどうだモヒ』
「それは……遠慮しておく。そんで、ビアンカちゃんは魔力が足りなかったんだね?」
『然りモヒ。本来であればあいつもあいつの居た世界で、汚い花火として弾け飛ぶはずだったモヒ』
……仮にも女の子に対して『汚い花火』はどうなのよモヒちゃん。
『原因は分かっていないが……魔力が裏返った魂が消滅せずに概念化することが稀に起こるモヒ。そうなった魂のうち、比較的強力なものが形を取ったのが魔王という存在だモヒ』
「……強力じゃなかったものはどうなるの?」
『魔王によって魔獣に変えられるモヒ』
「うわっ、最悪のDIY……」
『裏返ったまま概念化した魂は、生物が本来持つはずの、種の繁栄や発展といった本能に、本人の意識とはまるで無関係に逆らうようになるモヒ。ゆえに、一切の理屈は通用せず、何の意味もなく人類を滅ぼそうとする一つの概念として生きるようになるモヒ』
「本人の意思は、一切関係がないんだね……」
だとしたら……あの時、彼女が言った一言は……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「期待外れだな。お前なら私を……止められるかと思ったのに」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
魔王カズルメギストスに、ビアンカちゃんの意思がどれだけ残っているのかは分からないけど。
ビアンカちゃんは、人を滅ぼそうとする自分自身を、止めてもらいたがっているのかもしれない。
『ビアンカは、我の管轄の外側にある異世界出身の魔法少女モヒ。今から二百年ほど前、その異世界に魔王が大量発生したモヒ』
「大量発生って……」
『そしてそんな世界の危機に、神は魔法少女の大量発生で抵抗したモヒ』
「雑な抵抗……」
『そして生み出された数多の魔法少女が次々に魔王を討伐したり返り討ちにあったりした結果、最後まで生き残ったのが歪曲の魔法少女、ビアンカ・ネロクオーレだモヒ』
なんと、ビアンカちゃんにそんな過去があったんだ……。
『そして、ビアンカの手によって、その世界の魔王はすべて討伐されたモヒ』
「じゃあ……ビアンカちゃんは、世界を救った英雄だったんだね」
『歪曲属性の魔法を完璧に使いこなし、多くの魔王を葬り去った……歴史に名を残すべき偉大な魔法少女だったモヒ』
「なのに……何で?」
どうして、ビアンカちゃんは……魔王なんかになってしまったんだろう。
『魔王との戦いで仲間の魔法少女を失いすぎたビアンカは、心をすり減らしてしまったモヒ。そしていつからか、失われた生命を復活させるための神の奇跡にこだわるようになってしまったモヒ』
「神の奇跡、モヒちゃんの得意技だね」
『すべての神ができる芸当でもないのだが……とにかく、ビアンカは自分で神の領域を目指してしまったモヒ』
「けれど……届かなかった……?」
『そうだモヒ。ビアンカの魂は裏返り……歪曲魔王カズルメギストスが生まれたモヒ』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
魔法少女だったビアンカちゃんの過去……散っていった仲間を取り戻したいという気持ち、痛いほど分かった。
そして、その思いは裏返ってしまって、今や彼女は自分が倒し続けてきた魔王と同類になってしまった。
彼女の魂は……自分を止めてくれる相手を望んでいる。
『魔王討伐、やれそうかモヒ』
「……やる」
『強気だなモヒ』
「うん!」
コトちゃんたちの、平和な暮らしを守りたい……だけではなく。
ビアンカちゃん……孤独な英雄から魔王に堕ちた彼女を、救ってあげないといけない。
今、それができるのは……私だけなんだ!
「モヒちゃん、お願い!」
『行ってこいモヒ』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
残機、ゼロ
◆ ◇ ◆ ◇ ◆




