第39話 魔法少女、魔王と出会う
「それで、お前はいったい何をしにここまで来たのだ?」
「お前を倒しに来たんだよ!」
高らかに宣言してやったのに、魔王は微動だにしないままで、妙にズレた反応しか返ってこない。ヘンテコな魔獣を次々生み出すだけあって、魔王もヘンテコ極まりないということだろうか。
「魔王! あんたが生み出した魔獣が、人々を滅ぼそうとするから、私はそれを止めに来たの!」
「それはそれは……こわぁ」
「何なんだよ〜~!?」
『まともに会話しようと思うなモヒ。相手はこの世界にとってバグのような存在モヒ』
「うへぇ……やりづらいよ〜~……」
モヒちゃんの、役に立つのかどうか分からないアドバイスに答えたところで……周囲の空気がふっと重くなった。
「今のは、神か……?」
聞こえてきた声は、さっきまでの声とは全然違った。さっきまでは重くて低くて、いかにも魔王って感じの声だったのに、今響いた声は、か細くて高い、女の子みたいな声だった。
「なっ!? モヒちゃんの声、聞こえてるの!?」
「聞こえてるわけじゃないが……神がお前に何かをしたのは分かった……いや、モヒちゃんって何だよ」
年頃の女の子っぽいけど、イントネーションがおかしく、あまり感情が伝わってこない。
「モヒちゃんは、神様の名前だよっ! 何かモヒモヒ言ってるから、そう呼んでるだけだよ!」
「モヒモヒ……?」
——刹那。
——空気が、変わった。
「ああ……ふーん……なるほどね。お前……そういうことか」
殺気とでも呼べばいいのか、そんな空気が……鎧ではなく、玉座の後ろから立ち込めてきた。後ろに、何かがいる……!
「一応確認しておこう。お前は言葉尻にモヒモヒ付ける神に導かれて、私を倒すためここにやってきた。間違いないか?」
「そ、そうだよ……!」
「おおこわ……まあいい。お前はひとつ、とんでもない間違いを犯している」
「と、とんでもない間違い……?」
「その神は、別にモヒモヒとは言ってない。お前の魔力量がデタラメ過ぎるせいで、念話などの『肉声を介さない言葉』の翻訳にノイズが混じってるだけだ」
「…………はいっ!?」
衝撃の新事実!?
モヒちゃんは、別に『モヒ』って言ってなかった!?
『最初からそう言ってたモヒ』
「そーだっけ!? 記憶にないよ!?」
私が衝撃を受けていると、その様子がおかしいのか知らないけど、玉座裏からクスクスと笑い声が漏れてくる。
「うふふふ……傑作だな。私が至ろうとして至れなかった場所へ、鼻歌交じりに行けるような奴が……何にも知らないまま私を殺しにきたのか」
「な、何も知らないって……どういうことよ!?」
「お前が秘めている魔力量は、怖いことに神に匹敵するレベルだ……神になろうとしてなれなかった私と違ってな」
「神になろうとして……なれなかった?」
玉座の裏から聞こえてくる声の話は、とんでもなく重要そうに聞こえるのに深い意味がまったく分からないという、そんな内容だった。もちろんモヒちゃんは優しくないので補足説明なんてしてくれない……。
「お前相手に擬態を使うのは失礼に当たるな。ちゃんと私がお相手しよう」
そう言って、玉座の後ろから何者かが顔を出した。それは白と黒のツートンカラーで彩られたフリフリのドレスに身を包んだ、私と同年代の女の子だった。
長くて真っ黒な髪の毛を白いリボンでツインテールに結んでおり、ボサボサの前髪は顔にかかっている。顔色が悪く目の下に大きなクマができているものの、顔立ちはかなりの美少女を匂わせた。
「あ……あなたが、魔王なの……?」
私が尋ねると同時、ずっと微動だにせず玉座に座っていた鎧が、支えを失ったように崩れ落ち、バラバラになった。この鎧は……ダミーだったってこと!?
「改めて、自己紹介しようか」
散らばった鎧を蹴飛ばして、少女は尊大に、大仰に玉座へ座った。肘掛けに頬杖をついて、大胆に脚を組み……まさに『王』という態度で、名乗りをあげた。
「私は、『歪みの魔王』カズルメギストス」
続けて彼女は、にやりと不気味な笑顔を浮かべ……私にとってこの冒険で一番の驚きとなる一言を発するのだった。
「かつて、神になり損ねたもの……歪曲の魔法少女、ビアンカ・ネロクオーレと名乗っていた者の、成れの果てだ」




