第38話 魔法少女、目的地に着く
「右手があるって良いね、モヒちゃん……」
復活してすぐ、私は右手の感触を確かめた。欠損していた腕は再構築され、足りなかった血もしっかりと復活していた。何だったら、朝起きたときより元気になっているくらいだ。
「私の右手は……平和を掴むためにあるんだ!」
『お前の右手は魔王をぶん殴るためにあるモヒ。さっさとタヌキソヴァ要塞目指して急げモヒ』
せっかくハートで盛り上がっているところに、モヒちゃんは盛大に水を差してくる。相変わらず人の心を理解しない神様だなぁ……。
もうちょっと喜びに浸っていたかったけど、さっさと魔王討伐に向かいたい気持ちももちろんある。道の先、魔王のいる要塞を目指して、私は再び走り出した。
「『グロリアスロード』!」
……走ってすぐ、違和感に気づく。
「オリハルコン箔、頭に巻きっぱなしじゃん! スピード出ない!」
『気づくのが遅いモヒ』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
荒れ果てた斜面を駆け下りた先は、崖になっていて、その先には海が広がっていた。
その崖に面してそびえ立つ、一棟の建造物……。
「こ、これが……タヌキソヴァ要塞なの……?」
『そうだモヒ』
要塞と聞いて思い浮かべていたのは、小学校の社会科見学で見に行った、自衛隊の基地みたいな……色々な建物が複合して建っている、デカくて立派な建物だった。
それに反して、今目の前にあるのは……窓のないプレハブ小屋みたいな建物だ。大きさはそれなりにあるみたいだけど、なんだろう……貸し倉庫? みたいな見た目で、とても魔王が住んでるようなものには見えなかった。
何より、ガチでたぬきそばは無関係だ……。
「窓すらないみたいだけど……本当にあの中に魔王が住んでるの?」
『そうだモヒ。さっさとぶっ飛ばしてこいモヒ』
なんだか場違いな空気を感じてしまって二の足を踏んでいると、おもむろに正面の鉄扉が横にスライドした。そして中からヤギみたいな大型の魔獣が姿を現す。
「お手紙食わせろー!!」
「わ、何か出た!!」
『生まれたてホヤホヤの魔獣だモヒ。倒せモヒ』
「相変わらず容赦ないね? 『クリスタルランサー』!!」
バシュッ!
「お手紙……食えなかったよ……」
生まれたてのヤギ魔獣は破壊光線の直撃を受けて、謎の断末魔を残しながら光の中に消滅していく。
「食べちゃダメだっての……」
魔獣が消滅したときには、鉄扉はすでに固く閉ざされていた。扉を触って確かめてみるが、取っ手のようなものはどこにもなく、横に動かそうにもビクともしない。
「どうしよう、これどうやって開けるのかな……?」
『開ける必要はないモヒ。魔法と頭をきっちり使えモヒ』
「あっ、そっか……むー、にしても一言余計だよモヒちゃん」
確かに魔法があればこんな障害なんてものの数でもない。私は意識を集中して、魔法を発動させる。
「『ホーリーワイプアウト』!!」
全身が淡く輝き、指先がすすっと鉄扉をすり抜けていく。感覚としては、濡れない水の壁をぬるっとすり抜けている感じだろうか。
全身が通り抜けた……と思ったところで、背中の方で何かが引っかかる感触があった。
「あっ、あれっ?」
『何をやっているモヒ』
「いや、何か引っかかって……何これ?」
『オリハルコンが引っかかっているモヒ。捨ててこいモヒ』
「えぇ~……?」
しかたがないので一旦戻って魔法を解く。ザックを開くと、色々な意味で私にとって馴染み深いものになっていたオリハルコン箔が見える。
「ちょっともったいないけど……色々役に立ったよ、ありがとうね」
中に持ち込むことができれば、さらに活用できたかもしれないけど……通り抜けられない以上、贅沢は言えない。
オリハルコン箔を投げ捨て、再び魔法を発動させる。
「『ホーリーワイプアウト』!」
今度はすんなり鉄扉をすり抜けて、要塞の中に侵入する。中は薄暗く、奥がどうなっているのか見えづらい……。
「あっ、あれ……扉かな?」
目が慣れてくると、奥に光が漏れてくる隙間のようなものが見える。
『間違いないモヒ。その先に強烈な魔力反応……魔王がいるモヒ』
「よ、よ〜し……『ホーリーワイプアウト』!」
再び魔法を発動させ、今度は先ほどのより薄い扉を通り抜ける。入った先は、薄暗い間接照明がぽつんとあるだけの、不気味な広間だった。
だだっ広い中に……何もない。床には絨毯が敷いてあるが、他には本当に何もない。窓もない、机もない。奥にひとつ、巨大な玉座が置いてあるだけだった。
その玉座の上に……何者かが座っている。大きくて真っ黒な全身鎧を着込んだ人物。こいつが魔王なんだろうか……?
「……人が来るとは珍しい。お前、何者だ?」
低くて、大きくて、とても恐ろしい声が響く。やはり……こいつが魔王なんだ!
「私は……勇気の魔法少女、クリティカル・レイカだ!」
「勇気の魔法少女……?」
鎧の人物……恐らく魔王……は、微動だにしないまま言った。
「何それ……こわぁ……」
「え、えぇ~……?」




