第33話 魔法少女、『ヤツ』と会う
「うぅ……じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ……」
山での野宿から一夜明け、私は爽やかな朝の日差しの中を走っていた。
といっても、昨日の夜の出来事で不甲斐なさをモヒちゃんに咎められた私は、起き抜けにモヒちゃんからの強烈な「お仕置き」を届けられ、気分はどうしても、爽やかとはいかなかった……。
どんなお仕置きだったかは、レーティングが上がることを回避するため詳細な供述は避けるが……古典落語の名作である「寿限無」がなぜかトラウマになってしまう、とんでもなく恐ろしい内容だったことは述べておこうと思う。
「とほほ〜、お仕置きはもう、こりごりだよぉ〜」
『情けない声を出すなモヒ。あともう少しで開けた土地に出るモヒ。タヌキソヴァ要塞が見えてくるから、根性据えてかかれモヒ』
「あんな恐ろしいことしておいて、よくもまあそんなこと言えるよ……」
重ね重ね、「寿限無」がトラウマになる以上の詳細は解説できないけれど、非常に恐ろしいお仕置きだった。もう二度と喰らいたくない。
「もう二度と精神攻撃なんかには引っかからないようにしないとね。何か良い方法ない?」
『頭にオリハルコン箔でも巻いておけモヒ。相手側の魔力干渉を避ければ精神攻撃も回避できるモヒ』
「なるほどね、オリハルコン箔を……そういう使い方もあるんだねぇ……」
頭にオリハルコン箔を巻いた自分の姿を思い浮かべる……うーん。
「いや……宇宙からの毒電波を回避しようとアルミホイルを頭に巻く、危ない人みたいじゃない?」
『何の話だモヒ』
「いや、見た目が痛くなるっていうか……」
『物理的に痛いのとどっちが良いんだモヒ』
「ごこうのすりきれぇーーっ!?」
あな恐ろしや。仕方がないので私はオリハルコン箔を頭に巻いて進むことにした。
見た目が痛い、だけではなく。私の有り余る魔力に反応して、薄ぼんやりと緑色に発光する。いかがわしさがうなぎ登りなんですけど……。
「ねーモヒちゃん、これ……バカっぽくない?」
『バカっぽいとかではなく、バカそのものモヒ』
ぐぬぬぬぬ……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「走るスピードが遅くなるっ!!」
せっかく見た目のバカっぽさを我慢して頭にオリハルコン箔を巻いたのに、その影響で『グロリアスロード』が充分な効果を発揮しないことに気づいた私は、ノリと勢いで貴重なオリハルコン箔を地面に叩きつけてしまった。
『今さら気がついたのかモヒ』
「言ってよ頼むからぁ!? そんな『自力で気づかないやつはバカだモヒ』みたいな態度取らないでさぁ!?」
『自力で気づかないやつはバカだモヒ』
「ねぇ、ホントひどすぎないっ!? 私、いたって真面目に魔法少女やってんだけど!? 魔法少女虐待、反対っ!!」
『我も真面目にやっているモヒ。お前が素質の割にポンコツだから、我は心を鬼にしてスパルタを施しているモヒ』
「すぐそれっぽいこと言ってごまかす……はぁ、もういいよ……モヒちゃんにメンタル的な労りを求める方が愚かだったわ」
神様って、人の心とか無いんかな……無いか、神様だもんなぁ……。
諦めとともに深い溜息をつきながら、私はオリハルコン箔を拾い上げて丁寧にザックにしまう。
「まあ、なんていうの? やっぱオリハルコンに頼らなくても精神攻撃なんか跳ね除けられるようになった方が良いよね?」
『できるのならそれが一番モヒ……おっと、魔獣が接近しているモヒ』
「くっ、イヤなタイミングでくるなあ……!」
私は慌てて望遠鏡を片手に身構える。常に持っている必要はないけど、買ったもののなかで一番お世話になってる気がして、持っているとなんとなく落ち着くのだ。
「モヒちゃん、魔獣はどっちから来ているの?」
『前方……進行方向から近づいてきているモヒ。どうやらこいつが、タヌキソヴァ要塞までの最終関門になりそうだモヒ』
最終関門……。飛び抜けた強敵が待っているということだろうか。
「今まで相手してきた魔獣より、手強そうなの?」
『魔力反応の強さから推測するに、恐らく魔王が生み出す魔獣の中でも最強クラスモヒ。気を抜くなモヒ』
「最強クラスか……いったいどんなやつなんだろう……」
魔獣はいずれも動物のような姿をしていた。ペンギン、アライグマ、ネコ、ダチョウにゴリラ。見た目と強さが比例するとは限らないが、それでも最強というからには、地球上でもトップクラスに強くて獰猛な生き物の姿をしていることだろう。
ライオン? クマ? ワニ? いったいどんな魔獣が現れるのだろうか?
『来るぞモヒ。今度は喰われないように気をつけろモヒ』
「えっ……」
低木林を薙ぎ倒しながら、こちらへ向かって駆けてくる巨躯。
薄いグレーの毛並みに包まれた、その姿には……確かに見覚えがあった。
「うっ、嘘っ……なんで、ここにっ……!?」
要塞までの最終関門として、私の前に立ち塞がった魔獣……。
それは、私が初陣で戦って無様に敗北した、あのオオカミ魔獣だった。




