第34話 魔法少女、逃げる
魔王の居城、タヌキソヴァ要塞を目指す私の前に立ち塞がった魔獣は……因縁の相手、オオカミ魔獣だった!
私がモヒちゃんと出会い、私の世界に現れた魔獣を倒すため魔法少女になった……その初陣で戦った、始まりの魔獣。それがオオカミ魔獣だ。
あの時の私は、正直なところ魔法少女になりたてで戦い方もよく分かってなかったし……バカデカいオオカミの姿が、なんか現実味ないなーってほうけてたら、何かわけの分からないうちにいきなり吹っ飛ばされて、全身痛くて動けないと思ったら、お腹をガブッと……
「う、うぅ…………」
……あれだけたくさん経験を積んで、戦い方を覚えて……何回も死んで、恐怖と痛みも充分に味わったのに。
一番最初に刻まれた、根源的恐怖というものだけは……なかなかどうにもできないらしい。
「うぅぅぅ〜……」
脚が震える。奥歯がガクガクと音を立てる。因縁の仇敵を前に、私は完全にビビっていた。
『おい、ちゃんと構えろモヒ』
「わっ、分かってるけど……うぅ、モヒちゃんっ、震えを止めてぇ〜……」
『チキンがモヒ』
オオカミ魔獣は私を視線に捉え、じわり、じわりとこっちに近づいてくる……。
「うぅ……く、くっ……ぐっ……」
『相手の目を見るなモヒ』
モヒちゃんのアドバイスは、この時私の耳には届いていなかった。
私は、思いきって180度、方向転換をし……
「『グロリアスロード』!!」
全力で走り出した。
全力で逃げた。
『おい、何してるモヒ。逃げるな、戦えモヒ』
「わっ、分かってるよっ! けど、今はとりあえず距離を取るの!」
距離を取ったからどうだと言われたら、どうにもならないのだが……それでも私は必死で距離を取ろうとした。
なんとかして体の震えを取らないと、戦うどころの騒ぎじゃないと思うし……いや、言い訳はやめよう。あいつとは戦いたくない……食べられたくない。
一度戦って負けてるのに、その時点では戦うためのスタートラインにすら立てていなかったから、勝つための糸口すら掴めていない。そんな状態で、あいつにビビりながら戦ったって、良い結果が出るとは思えない!
何せ相手は、最強の魔獣だって話じゃないか!?
「っていうか、モヒちゃん! なんであいつ、あそこに居るの!? 私を食べて、食あたりで死んだんじゃなかったっけ!?」
『同型の別個体モヒ。強さや能力は一緒だから安心しろモヒ』
「何一つ安心する要素ないけどね!? 何? 同型って、そんなのアリなの!?」
『何を言っているモヒ。アライグマ魔獣など、同型が50匹いただろうがモヒ』
「そういえばそうだった……!」
全力で10分ほど走って逃げたところで立ち止まる。後ろを振り返っても、もう見えないくらいには離れていた。
「はぁ~……これだけ離れれば追ってはこないでしょ……」
『のんびりしてる場合かモヒ。タヌキソヴァ要塞が遠のいたモヒ』
「しょうがないじゃん……あとモヒちゃん! ひとつ文句があります!」
『聞くだけ聞いてやるから言ってみろモヒ』
「あいつ、魔獣の中でも最強だって言ってたね!? そんなバケモノと、魔法少女なりたての私を戦わせたわけ!?」
RPGで例えたら、レベル1のチュートリアル戦闘でラストダンジョンのモンスターと戦わされるようなものだ……そんなの勝てるわけない。
『あの時、お前の世界を滅ぼしに亜空間を渡ったのがあいつだった……それだけのことだモヒ。それともなにか、お前は自分が成長して強くなるまであの魔獣が大人しく待ってくれるとでも思ったかモヒ』
「ぐ……そ、それは……」
『お前の世界を救うには、急いで戦う必要があったモヒ。また亜空間を通ってお前の世界に魔獣がやってくる前に、急いであいつを倒せモヒ』
「……わかったよ。弱音吐いてごめん」
『まあ、潜在能力で言えば魔獣程度は鼻歌交じりにひねりつぶせるくらいの力を持っているお前が、あんなに無様に負けるとは想定外だったというのもあるモヒ』
「ザコでごめん!!」
そう言われてしまうと、結局私が強くなるしかないと思い知らされるけど……本当に私って、そんなに強いのか?
ずっと苦戦続きで、全然実感が湧かないんだけど……。
「とにかく、今のうちにあいつを倒す作戦を考えよう……あいつの弱点とかないの?」
『そんな悠長にしている余裕はないモヒ。そろそろ来るから構えろモヒ』
「へっ? 来るって……」
『やつは一度マークした相手を徹底的に追いかける能力を持っているモヒ。どんなに逃げてもすぐ追いかけてくるモヒ』
「そっ、そんなのありーーっ!?!?」
——バギィッ!!
叫ぶと同時、衝撃音と共に近くの木がへし折られる!
低い唸り声をあげながら現れたのは……私の仇敵、オオカミ魔獣だった!
「もっ、モヒちゃん!! 何か作戦はっ!?」
『言えることは同じだモヒ。相手の目を見るなモヒ』
「目を見るなって……あぁ、来る!!」
かくして、決戦の火蓋は切って落とされた……!




