第32話 魔法少女、夢に抗う
「いや違うんかい!」
目の前に佇む、天使みたいな少女。
彼女はいったい、何者なのだろうか……?
いきなり「モヒ」とか言うからモヒちゃんなのかと思ったら、違うって言われた。そこは肯定する流れでしょうよ?
「ごめんねお姉さん。私、会話と翻訳に慣れてないの……モヒ」
会話と翻訳? いったい何の話をしてるんだろう?
「ねえ、君はいったい誰なの? ここはどこ? 私、何でこんなところにいるの?」
「質問が多いね」
天使みたいな女の子は口元を押さえてくすくすと笑う。
「私はね、お姉さんみたいなかわいそうな生命を導くもの……お姉さんに分かる言葉を使うと、『死神』かな?」
「し……死神!?」
えっ、死神……!?
あれ? 私って死んだの……!?
「ここは、どこでもない場所だよ。死んだのに死にきれてない人……お姉さんみたいな人が彷徨っている、そんな場所」
「死んだ……そうだ、私は……ここって死後の世界なの?」
私の質問には答えてはくれず……死神ちゃんはゆっくりと私に近づきながら、瞳の端に涙を浮かべた。
「お姉さん、本当にかわいそう。地獄の悪魔に唆されて、何度も何度も酷い目にあって……辛くなかった?」
「じ、地獄の悪魔……?」
「体を爆破されて吹っ飛んだり……」
「!?」
それを聞いた途端、脳裏に不思議な記憶がフラッシュバックする。私は生きたまま魔獣に吹っ飛ばされて、四肢をバラバラにされた。
「全身の骨をへし折られたり、石で内臓を弾き飛ばされたり……何度も何度も痛い思いをしたよね?」
「う、うぁ……」
記憶が混濁する。何で私、そんな地獄の責め苦みたいなのを何度も何度も味わってたんだっけ!?
「お姉さん、もう諦めよう? 私と一緒に来れば、地獄から解放されて安らかに、永遠の優しい眠りにつけるよ……モヒ」
死神ちゃんは、目に浮かんだ涙を拭い、私の目の前で……とても優しく微笑んだ。
「……わ、私は……」
何か……何かは分からない。けど、大事なことを忘れている気がする。
「さぁ、私と一緒に……行きましょう?」
「い……イヤだ」
この誘いに乗ってはいけない。
私の中にいる、白くて愛嬌のある何かが、私にそう訴え続ける。
「強情だねお姉さん。あの悪魔になんて唆されたの? 何でも望みが叶うとか?」
「そんなの……私は、望んでいない……」
そんな見返り、私には提示もされなかったし、望んでもいなかった。
私は、ただ世界中のみんなに、笑顔になってほしくって……だから頑張ろうって決めたんだ!
「私の進む道は……地獄なんかじゃない! 辛いことがあっても、それと同じだけ……みんなの笑顔があった……!」
「余計なこと、思い出しやがって……」
急に死神ちゃんの姿が霞んで、煙のようになった。煙はじわじわと形を変え、大型で真っ黒なカラスの姿になる。
「何故だ……なぜお前に、洗脳が通らない? お前はいったい、何者なんだ……」
同時に、なぜか今まで思い出せなかったことが、スラスラ思い出せるようになった。私が、私であるための大切な思い……。
「私は……勇気の魔法少女! クリティカル・レイカだ!!」
カラス魔獣、と呼んでいいのだろうか。そいつは黒く大きな翼を羽ばたかせ、私に向かってくる!
「死ねぇーーッ!」
「生きるっ! 『セレスティアルソード』!!」
手元から伸びる閃光の剣が、カラス魔獣を一刀両断する。
カラス魔獣が光となって消えていき……そして周囲が光に包まれた……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うあぁぁぁっ!?」
『やっと正気に戻ったかモヒ』
「あれ……モヒちゃん……?」
気がつけば、私は洞穴の中で寝転がっていた。さっきのは……ただの夢?
『この一帯に入った時から、お前は魔獣による精神攻撃をくらっていたモヒ』
「精神攻撃……? それで、なんかいろいろおかしかったのか……」
モヒちゃんの様子がおかしかったのも、夢の中でよく分からないところにいたのも、記憶があやふやになってたのも……全部魔獣の精神攻撃によるものだったのだ。
『本来、魔獣程度の精神攻撃で、お前みたいな魔力量のバケモノを精神汚染するのはほとんど不可能なはずだモヒ』
「ってことは……それだけ魔獣が強力なやつだったんだね!」
『お前がマヌケだっただけモヒ』
「あれーーーっ!?」
思いもよらないところからディスりをくらったぞ!?
私が気を抜いてたから精神汚染されたと言い張るおつもりですか!?
『精神攻撃をくらった直後から、我の声が聞き取りづらくなり、ニセモノの呼びかけが聞こえていたはずだモヒ。少しでも違和感を感じて身構えていたら、跳ね除けられていたはずだモヒ』
「え……違和感? 何か変だとは思ってたけど、けっこういつものモヒちゃんかなーって」
『あんな普段の我とは全然違う語りに気がつかないとか、愚かの極みモヒ。その状態のまま寝てしまったから、精神汚染されて夢の中で襲われたモヒ』
え、そんなにおかしかったかなぁ……?
全然分からない、誰か教えて……?
『あとでお仕置きするモヒ。今日はもう寝ろモヒ』
「ひー……」
こうして、知らないあいだにピンチを乗り切ってしまっていた私は、洞穴の中でぐっすりと疲れを癒すのだった……。




