第31話 魔法少女、野宿する
ラジーさんと別れた私は、再び高速で山を爆走していた。
魔獣がもっとうようよいるものかと思っていたが、時折遭遇する程度で数は多くなく、道のりはとても順調に進んだ。
「いや〜、さすがにゴリラ魔獣より手強いのはそうそう現れないね! あんなのを倒しちゃうんだから、これはもう魔王討伐も楽勝じゃない?」
『あまり調子に乗るなモヒ。残機だってだいぶ乏しくなってきてるのだから、慎重にことを構えろモヒ』
「そんなの分かってるよ〜……はぁ、旅の道連れが毒舌神様だなんて、魔法少女は辛いわぁ」
別にモヒちゃんがイヤだとかそういうのでは決してないけれど。
やはりこういう冒険の旅はですね、私のことを死ぬほど癒してくれる優しい存在……ありていに言えばコトちゃんみたいな連れ合いがいた方が捗るってもんですよ。
『む、止まれモヒ』
「はいなっ!」
ドギャギャギャギャッ!
無慈悲な停止命令からの急ブレーキも、もはや慣れっこだ。土煙を巻き上げながら周囲を見渡すが、辺りには何もいない……。
「うん……? モヒちゃん、何もないよ……?」
『奇妙だモヒ。周辺に魔獣の痕跡はないのに、小規模な魔力で周辺が埋め尽くされてるモヒ』
「えっ、どういうこと? 何かの罠?」
『その可……能性が……高いモヒ』
「なになにっ? モヒちゃん急に声が遠くなった?」
『とりあ……えずゆっ……くり……周囲を確……認しなが……ら歩けモヒ』
「うーんよく分かんないけど、慎重にいくよ
……」
急にモヒちゃんの声がすっきりと聞こえなくなってきた。どういう原理なんだろう?
というわけで私は走るのをやめて、周囲の草むらや木の陰などを警戒しながら慎重に進んでいったのだが……
「……何も出てこないね。モヒちゃん、魔力反応はどうなってるの?」
『警……戒し……ろモヒ』
「警戒はちゃんとしてるよ!? それより、魔力反応がどうなってるか教えてよ」
『…………そろそろ夕刻が近いモヒ。辺りが暗くなってきたモヒ』
「あれ、本当だね……今日はこの辺で野宿かなぁ」
急にモヒちゃんの声がクリアになった。しかしこのいじわる毒舌神様ときたら、肝心の魔力反応を教えてくれる気がないみたい……。
『右前方にちょうどいいサイズの洞穴があるモヒ。今日はそこで休まれよモヒ』
「休まれよ……って、変な言い回しだね」
とりあえず、私は言われた通りに洞穴で休むことにした。中を覗き込むと、穴の中は奥の方が若干高くなっており、畳でおよそ三畳くらいの広さがあった。天井は少し低めだけど、1人でキャンプするにはおあつらえ向きの穴だ。
「よーし、ここをキャンプ地とする!」
私は洞穴の周囲に生えている雑草を『セレスティアルソード』で刈り取り、それを洞穴の中に敷き詰めた。その上からシートを敷けば、岩の上に直接敷くよりはだいぶ寝心地も良くなるはずだ。
「あとは、入り口にオリハルコン箔を敷けばオッケーと」
ザックの中からオリハルコン箔を取り出すと、それは薄っすらと光を放っていた。洞穴の中は暗いので、微弱な発光もはっきり分かる。
「わっ、なにこれ……何か幻想的……」
『周辺の魔力に反応しているモヒ』
「そうなんだね、ってことは……まだまだ要警戒ってことだね?」
『周辺の魔力に反応しているモヒ』
「えっ、何で同じこと2回言うのモヒちゃん?」
そんなに大事なことだったかな? などと思いながら、洞穴の入り口にオリハルコン箔を敷く。これで魔獣の接近はある程度防げるはず。
「疲れたし、今日はもうご飯食べて寝よっと。お疲れモヒちゃん、何かあったら起こしてね」
『周辺の……ご飯は健やかな成長に大切モヒ』
「う、うん……そうだね、だからご飯食べるけど……」
やっぱりモヒちゃん、さっきからなんかおかしいな?
頼れる相棒の調子がおかしいと、私の行く先も少し不安になる。具合が悪いならモヒちゃんも休んでほしいものだけど……
『美味しいご飯をいっぱい食べればきっと、そなたの貧相なボディも豊満に育つモヒよ』
「……余計なお世話だよっ!」
やっぱあんまり変わんないや!
私はザックの中から、市場でいっぱい買い込んだ干し肉を取り出して、缶詰のスープで戻しながらもりもり食べ始めた。
見てろ〜、いつか男子がほっておかないくらいに、豊満なセクシーボディになってやるんだから!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
気がつくと、私は1人、モヤがかかった草原の中を歩いていた。
「あれ……ここどこだっけ……?」
周囲はモヤがかかってはいるけど、白っぽい明るさというか……もうすっかり朝になっていた。
「いつの間に起きたんだっけ? ねぇ、モヒちゃん……?」
口うるさく私を叱責してくる、厳しくもありがたい私の相棒の声が……声が……あれ?
「相棒……そんなの居たっけ? 私、ずっと1人だったよね……?」
頭の中がぐるぐる回る。記憶が混乱している。私はなんでこんなところを歩いているんだ……?
「どこへ行くの?」
不意に、声が響いた。
脳内に響く念話ではなく、はっきりと耳に聞こえた。
声の聞こえた方向を見ると……そこに、天使のような少女がいた。
「どこへ、行くの? ……モヒ」
透き通るように真っ白な長い髪の毛に、清楚な白のワンピース。広がる髪の毛は、まるで天使の羽みたいな……そんな女の子。
「モヒ……ちゃん?」
「違うよ?」
「いや違うんかい!」




