第30話 魔法少女、射止める
魂は極限まで集中している。
絶対に外せない、その覚悟が私の感覚をどこまでも研ぎ澄ます。
「……トドメだっ!! 『クリスタルランサー』!!」
放たれた渾身の破壊光線は、きれいにゴリラ魔獣に吸い込まれていき、その胸板に風穴を空けた!
「っしゃぁ!!」
思わずガッツポーズを取る!
胸に風穴を空けたゴリラ魔獣は……両膝を地面につき、両手を上げて天を仰ぎながら、光となって消えていった。
「アカデミー賞待ったなしかよ……」
『何の話だモヒ。とりあえず、よくやったモヒ』
モヒちゃんからお褒めをいただいたということは、本当に気を抜いていいということだ。
私はそのままへたり込みながら、壁の裏で縮こまっているラジーさんに声をかけた。
「終わりました……勝ちました、ラジーさん! もう安全ですよ! ラジーさんのおかげです!」
「ふぇ……安全……?」
顔を上げたラジーさんの目には、大粒の涙が輝いている。本当に怖かったんだろう、慌てて駆け寄ってくる。
「うわぁ〜んっ! 怖かったですぅ〜!」
「大丈夫、大丈夫です……」
2人で熱い抱擁を交わす……協力しあって強敵を倒しただけに、喜びもひとしおだ。
「くんくん、くん……やっぱりレイカさん良い匂いしゅるぅ……」
「ラジーさん!?」
ラジーさんの癖にどうこう言うつもりはないけど、熱いカタルシスが台無しだよ!
「それにしても……」
崩れた顔を一瞬で整え、周囲のボロボロに崩れた無数の石壁を眺めながら、ラジーさんは物憂げに言った。
「きっと昔は、ここに家が建っていたんでしょうね……そしてその家は、さっきの魔獣に破壊し尽くされてしまった……」
ボロボロの石壁は……それでも、私たちの命を守ってくれた。人と、その歴史が……魔獣の脅威に打ち勝ったんだ。
「見てくださいレイカさん。ここ、もう埋まっちゃってますけど……ほらこの穴、井戸の痕跡ですよ」
「わー、そうなんですね! こういうの見ると、人が暮らしてたって実感が湧くなぁ」
「ここに、どんな人が住んでたんでしょうね……今は危険過ぎて、簡単な調査しかできませんけど……きっといつかは、解明したいです」
「きっと解明できますよ!」
キョトンとした顔になるラジーさんに、私は親指を立てる。
「言ってませんでしたけど、私はこれからこの山を越えて、魔獣を生み出す悪の魔王を倒しにいくんです!」
「ま、魔王を……ですか!?」
「魔王討伐が完了すれば、この山にもきっと平和が訪れます。そうしたら、ラジーさんが歴史の謎を、目一杯解き明かしてくれると嬉しいです!」
「ま、魔王討伐だなんて……そんな荒唐無稽なことを……」
「荒唐無稽に聞こえるかも知れませんけど……」
正直なところ、私だって成し遂げられるかどうかは半信半疑だ。けれど……
「ラジーさんが応援してくれたら、きっと何でもやれちゃうって思うんです。だから、応援してください!」
この世界で出会った、優しくて気の良い人たち。その人たちに平和を届けるために、私にできることがあるなら……頑張るしかないよね!
「れ、レイカしゃあぁぁぁんっ!」
感極まって抱きついてこようとするラジーさんをそっと手で押さえ込む。ラジーさんは良い人だけど、その悪癖だけはどーにかしてほしいっ!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ラジーさんが入念に遺跡を調べているあいだ、私はモヒちゃんに周辺を探ってもらいながら警備を行っていた。
その甲斐あって……2回ほど魔獣の接近はあったが、どちらも難なく迎撃することができ、ラジーさんは無事に調査を終えたのだった。
「いやー、さっきのウマ魔獣とシカ魔獣のコンビは傑作だったねぇ……」
『肩慣らしには最適の的だったモヒ。お前もなかなかいい感じに成長してきたモヒ』
「うふふ、なんだかモヒちゃん、素直に褒めてくれるじゃん。嬉しいなぁ」
『我は事実を淡々と述べているに過ぎないモヒ。わきまえろモヒ』
「はぁい……もー、素直じゃないんだから」
可愛げのない神様に不満を垂らしていると、メモ帳や測量機器をカバンにしまい終えたラジーさんが駆け寄ってきた。
「レイカさん、見張りまで引き受けていただき、本当にありがとうございました!」
「いえいえ、お安いご用ですよ〜」
「私はこれから街に戻って、論文の執筆に取り掛かります。レイカさんはどうされるんですか?」
「私はこのまま、山向こうを目指して突っ走ります! 一刻も早く魔王を討伐したいので!」
「そう、ですか……では、お別れですね」
ラジーさんは少しだけ不安そうな顔をする。きっと帰り道が不安なのだろう。
「あっちの方には、今は魔獣がいないんで。この道をまっすぐに裾野まで突っ切れば、魔獣とは遭遇しないで帰れますよ!」
「……ふふ、ありがとうございます。安心して帰れますね」
ラジーさんは軽く微笑んだあと……不意に真面目な顔になった。
「あなたの歩みは、我々人間にとって、大いなる希望となる道です。どうか……ご武運を!」
「……はいっ、頑張ります!」
こうして、清楚でマジメだけど、ちょっと困った悪癖持ちのラジーさんに別れを告げて……私は再び、山向こうを目指し走り始めた。
「『グロリアスロード』!」




