第29話 魔法少女、囮を頼む
「ラジーさんっ! 早く私の後ろにっ!」
「はっ、はいぃっ!」
ゴリラ魔獣は、あとから飛び出た私の方に照準を変えてくれていた。強烈な音とともに、飛んできた石を光の盾で受け止める。
「私にぴったりくっついていてください! 左に動きますよ!」
「わっ、分かりましたっ!」
「左側にある壁の裏に隠れます、ずれないようについてきてくださいっ!」
「はっ、はいぃ……」
ラジーさんは私の腰にぎゅっと抱きついたまま、ガクガクと震えている。よっぽど怖かったんだろう、かわいそうに……。
「ふぅ……ふぅ、ふぅ……あぁ、いい匂いすりゅぅ……♡」
「…………ラジーさん?」
今聞こえたのはきっと聞き間違いだろうと思う。こんなに研究熱心で大人しくて真面目なお姉さんが、まさかツッコミが必要な属性持ちだなんてそんなことは。
「ラジーさん、先に壁の裏に潜りこんで!! 早くっ!!」
「はっ…………はいっ! あぁ、名残惜しい……」
「ラジーさん?」
ラジーさんが壁の裏に隠れたのを確認し……タイミングを見計らって私も一緒の壁に潜り込む。
ラジーさんが勢い余って私に抱きついてくる。そんなに怖かったのか、ちょっと無理をさせちゃったかも……。
「うぇへへへ……レイカさぁん……♡」
「ラジーさん!?」
くっそー、最後までシリアスでいけると思ったのに、どうしてこうなるんだよ!?
『そうは言うが今のこいつは、お前がコトとかいう小娘を可愛がってるときと同じ顔してるモヒ』
「何てこと言うのモヒちゃん!?」
私とコトちゃんの絆は純粋そのものだよ?
「はぁ、はぁ……すみません、レイカさん……ご迷惑をおかけして」
「迷惑だなんてそんな……でも、どうしてこっちに来ちゃったんですか? めちゃくちゃ危険ですよ?」
「いえ、その……レイカさんがずっと戻ってこられないので……その、やられてしまったのではないかと不安になってしまって」
「あー……ごめんなさい、ちょっと苦戦してまして……長期戦になっちゃってます」
本当は一回やられてしまったけれど、それは内緒にしておく。
「無事で良かったです、あなたまでやられてしまったら、私……」
「ラジーさん……」
もたついていたせいで、不必要に心配させてしまった。さっさとゴリラ魔獣をぶっ飛ばさないと……。
「う〜ん……どうしよう」
「あの、レイカさん……何かお手伝いできることはないですか?」
「お手伝い……って、本気ですか? 下手したら死にますよ?」
「もしもあなたに助けられてなかったら、とうに死んでいた生命です。私にできる恩返しがしたいんです!」
「ラジーさん……」
申し出はとてもありがたい……彼女が囮になってくれたら、一発分攻撃可能なチャンスが増え、ゴリラ魔獣討伐が現実的なラインになる。
けれど……それはあまりに危険過ぎる。うまくいかなかったらラジーさんは死んでしまうかもしれない。
「どうしよう、モヒちゃん?」
『よきにはからえモヒ。最小限の犠牲でことが済むなら我は構わないモヒ』
「腹立つくらいドライだなぁ……」
『まあその分、お前の一発が絶対に外せない重いものになるのはご愛嬌モヒ』
「うぐっ……」
そうだ、他人に囮になってもらうリスクを背負わせる以上、必ず仕留めないと申し訳が立たない……。
そんなの、私にできるの……?
「モヒちゃんは……私ならできると思うの?」
『できるできないを問うつもりはないモヒ。我からは常に、やってみせろとしか言わないモヒ』
「鬼かよ……」
『お前は何でか知らんが、追い詰められた方が良い結果を出しやすい傾向にあるモヒ。自分を信じてレッツゴーモヒ』
良いこと言われてるのかもしれないけど、何か軽いなぁ……。
ともあれ、他に手段も思いつかない。やるしかない……!!
「分かりました、ラジーさん。協力してもらえますか?」
「はい、何なりと!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それじゃ……いきます!」
「はいっ!」
一応簡単に作戦は伝えたけど……練習もできないぶっつけ本番だ。万が一にも、ラジーさんに危険が及びませんように!
合図代わりに、足元に転がっていた石をぽいっと投げる。
投げた石は転がって……止まる!
「いきますっ!」
ラジーさんが、命がけの囮に飛び出した!
『私が石を投げて、それが止まったら、石と反対側に飛び出して、そのまま10歩走ってください。走ったら身を屈めて、音が鳴るまで待機してください。音がなったら……すぐに切り返して、全力ダッシュで壁に隠れて!』
私がラジーさんにお願いした内容は、たったこれだけ。これだけでも、少し間違っただけで最悪ラジーさんは死ぬかもしれない。
そして……ラジーさんにも命がけをお願いした以上、私は絶対に失敗できない!
「5……4……3……2……1……いくぞっ!」
遅れて私が飛び出す! 少し進んだところで……
ドゴォン!!
「ひえぇっ!!」
ラジーさんの側で轟音が鳴る! ここまではよし!
望遠鏡で覗き込んで、石を拾おうとするゴリラ魔獣に狙いを定める!
「『クリスタルランサー』!」
破壊光線はゴリラ魔獣のほんの少し左にズレた。指先の狙いをわずかに右に寄せる!
「来なよ、ノーコンゴリラ」
ゴリラ魔獣がこちらに狙いを定め、振りかぶった一投は……
バゴォン!!
私の左前方、大きく逸れた位置に着弾した!!
「……トドメだっ!! 『クリスタルランサー』!!」




