第26話 魔法少女、猛省する
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!?!?」
恐怖で思わず悲鳴をあげてしまったところで、世界が真っ白に染まっていることに気がつく。
「あれ……し、死んでる……!?」
『あっけない敗北だったモヒ。何もできないまま、あっさりと屠られたモヒ』
お約束のモヒちゃんによる罵倒も、今の私には届いていなかった。敗北の痛みとか、悔しさとかも込み上げてこない。今あるのは、ただひたすらに恐怖……それだけだった。
「何、何なのあいつ…………おふざけ、ゼロだったじゃん」
恐怖で身体が震えて、奥歯がガチガチと音を立てるような感覚がある。
実際には死んだ私は魔力だけの存在になっているので、それは感覚だけなのだが……とにかく、私は魔獣への恐怖に、完全に参ってしまっていた。
「だって……だってさ、魔獣って何かふざけてたり、愛嬌あったりでさ……あんな、ガチで何の悪ふざけもなしに、有無も言わさない遠距離狙撃は話が違うじゃん!? あれじゃゴリラじゃなくってゴル◯13じゃん!?」
あまり参っている人間の発言には思えないかもしれないけど……その程度の軽口ひとつも叩かないと、やってられないというのが正直なところだった。
それに対して、この優しくない神様は……
『魔獣は、危険な敵だモヒ。恐怖を覚えるのは当然だモヒ』
「恐怖は……当然?」
『ただし、今のお前が抱いている恐怖は、あまり良い傾向とは言えない恐怖だモヒ。残機も減ってきたけど、この先も同じ恐怖に囚われるようなら、文字通りいくつあっても足りないモヒ』
「よくわかんない……良い恐怖と悪い恐怖があるっていうの?」
『知っている恐怖は、お前を引き締めて強くするモヒ。逆に知らない恐怖は、お前を混乱させて生命を投げ出させるモヒ』
「知ってる恐怖と……知らない恐怖……?」
モヒちゃんの言うことが、普段の5倍くらい難しい……。
『お前は過去に3回も死んで、尚且つ魔獣が人を滅ぼそうとする存在と知ってなお、どこかで魔獣のことを舐め腐っていたモヒ。だから、魔獣がこんな恐ろしいとは知らなかった、などと言いだすモヒ。これが『知らない恐怖』モヒ』
「うっ……」
モヒちゃんの指摘に、私は黙るしかできなかった。
どこかで魔獣のことを舐め腐っていた……まさにその通りとしか言いようがない。
『かたや、お前がちゃんと魔獣の危険性を周知し、それに怯えていれば、魔獣に対する行動は自然と慎重を期したものになるモヒ。それこそ、お前に必要な物……『知っている恐怖』モヒ』
「はぁー……」
なるほどと思ってしまった。最初は良い恐怖ってなんだよと思ったけど、こう丁寧に説明されると納得するしかない。
『未知との遭遇は、人にとっては根源的恐怖となることは、我も理解しているモヒ。未知を既知にすることは大切だモヒ。だが今回ばかりは……やり方が問題だったモヒ』
「うーん……仰る通りで……」
やっぱりモヒちゃんはスパルタだけど……私の、魔法少女としての成長には、ちょうどいい劇薬なのかもしれない。
『死に方がグチャグチャだったからリスポーンに時間がかかってるモヒ。今のうちに覚悟と対策の準備をしておけモヒ』
「はぁい……と言っても、何を対策すれば良いのやら」
『お前が最後に見た望遠鏡からの映像を視覚的に再生してやるモヒ』
「そんなことできるの!?」
驚くと同時、右側の空間に丸い映像が映し出された。映っているのは、確かに望遠鏡からの映像……ゴリラの姿をした魔獣だった。
「……ん? 今こいつ、鼻をほじんなかった?」
『ほじったモヒ』
「……ん? 今こいつ、手につば付けなかった?」
『滑り止めモヒ』
「で、その手で? 落ちてる石を拾って、ぎゅっと握って? 振りかぶって?」
『投げたモヒ。 お前が死んだモヒ』
「…………」
「うん、ぶっ殺す!」
『そのいきだモヒ』
俄然やる気が出てきたのは良いけど、さてこいつ、どうやって倒したら良いんだろう。
「モヒちゃん、ヒントちょうだい」
『図らずも望遠鏡で敵の位置を確認してから死んだのは怪我の功名モヒ。その怪我が致命傷だったのは置いといてモヒ』
「位置が分かったところで、すごい遠いけど……どーすんの?」
『方法は2つモヒ。まずは相手に気づかれないように接近して、直接倒す方法モヒ』
「あそこまで? 気づかれずに? 無理じゃない?」
『予定ルートを大幅に外れるうえに、気づかれたら逃げられる危険性もあるモヒ。一番最悪なのは移動中に他の魔獣と接敵して、戦闘中に石を投げられる危険性があるモヒ』
「それは避けたいな……もう一つは?」
『至極単純モヒ。『クリスタルランサー』で狙撃し返せモヒ』
………は?
「えっ? 狙撃? 400メートルだよ?」
『望遠鏡で視界は確保できるモヒ。覚悟と気合と、『ぶっ殺す』という強い想いがあれば、お前の魔力なら届くモヒ』
えぇ~……?
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残機、あと2
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