第25話 魔法少女、弾け飛ぶ
ラジーさんに案内してもらい、周囲を警戒しながら山道をゆっくりと歩く。
「モヒちゃん、周辺に魔力反応があったら教えてね」
『一番近いもので……1キロ以上離れてるモヒ。寄ってきたら教えるから、念入りに倒せモヒ』
「りょーかい! ……にしても、魔獣って何であんなにヘンテコなのばっかりなんだろうね」
『先ほど遭遇した種は、特に奇妙な魔獣だったモヒ』
「えー……モヒちゃんから見ても変だったんだ、あれ」
さっき撃破したダチョウ魔獣のことを思い出す。ムーンウォークで爆走、キレッキレのダンス……キャラが濃すぎるよ、本当にもう。
『スピード、脚力など一級品の戦闘能力を持っているのに、攻撃より人間にダンスを見せることを優先していたモヒ。人を滅ぼさんとする魔獣の中では奇行種と言っていいモヒ』
「うひっ……!?」
さらっと『人を滅ぼさんとする魔獣』とか言われて少しビビってしまった。ちょっと危険でものすごく変な生き物、程度にしか認識していなかった……。
「魔獣って……人を滅ぼそうとしてるの……?」
『お前、今までさんざん死んできたのに何をぬるいこと言ってるモヒ。魔獣も魔王も、人を滅ぼすことだけが生き甲斐の、世界のバグみたいな存在モヒ』
「ひええええ……」
魔法少女って、人を滅ぼそうとする生き物の駆除係なのか……こ、こわ……。
「あのー……レイカさん、先ほどから誰とお話をされてるんですか……?」
口元を隠すのを忘れてモヒちゃんと会話していたら、ラジーさんに怪訝な目で見られた。
「えっ、あぁ〜いやいや、独り言です独り言」
「ひ、独り言ですか……? 変わってらっしゃいますね……」
ひー、余計なお世話だよーっ!
本当のことを言ったらラジーさんがお星さまになっちゃうから、適当なこと言ってごまかすしかないんだよー!
「あっ、ここですっ! この先に少し開けた土地がありまして、そこに人工の建造物があったんですよ」
「どれどれ……あっ、あれかな?」
望遠鏡を使って前方を覗くと、白い壁のようなものが見える。ラジーさんはあれを調査中に襲われたのだろう。
「それじゃ、ちょっと行って調べてくるんで、ラジーさんはここに身を隠して待っててください。何かあったら大声で知らせてくださいね」
「わ、分かりました!」
ラジーさんが茂みの中に身を隠すのを見届けてから、私は周囲の様子を伺いながらゆっくりと前進した。
「モヒちゃん、魔獣は近くにいる?」
『500メートルくらい先に反応があるモヒ。近づく動きがあれば教えるモヒ』
「よろしくお願いね。さーて、肝心の人工物っていうのは……」
少し開けたところへ出る。斜面の中くらいを広く水平に切り開いた土地に、四角く切った石を壁状に積み上げたものがいくつも残っていた。ボロボロに破壊されてはいるが、昔はここに大きな壁や、あるいは家が建っていたのだということがはっきり分かる。
「モヒちゃんは、この辺にも昔は人が住んでたって知ってたの?」
『魔法の国に人が文明を築いたのが今から500年前、魔王の台頭が200ほど前モヒ。魔王が山向こうに要塞を築くより前は、この辺も人が生活していたモヒ』
「そうなんだ……じゃ、魔王を討伐したら、この辺にもまた人が住めるようになるかな」
『おい、何かがすごいスピードで』
ドゴォンッ!!
突然、私の近くにあった石壁がものすごい轟音を立ててはじけた。
『飛んできていると言おうとしたモヒ』
「えっ!? 何があったの!? 魔獣は!?」
あまりの驚きに慌てて壁から離れながら、私は周囲を注意深く見渡す。
『魔獣は接近している形跡がないモヒ。恐らく400メートルほど遠距離から攻撃されているモヒ』
「どこ!? どの辺にいるの!?」
『今のお前から見て……おい、くるくる回るなモヒ。方向が指示できんモヒ』
「だって! 何されてるのかわかんないと怖いじゃん!」
『唐変木がモヒ』
ドゴォンッ!!
近くの岩壁がまたすごい音を立てて、石がパラパラと砕ける。
「ひっ……!?」
びっくりして思いっきり尻もちをついてしまった。
ラジーさんから話は聞いていたけど、実際に経験すると、今までと空気が何もかも違いすぎる。ほとんどホラーだ。
『とりあえず今爆ぜた壁の裏側に回り込めモヒ』
「ひっ……ひぃ~〜〜……」
立ち上がろうとしたけど、うまく立てない。四つん這いのままでのそのそと壁に近付く。
『おい、早くしろモヒ。とろとろしてると逆に危ないモヒ』
「そんなこと言ったって、腰が……」
ギュオォンッ!!
ドゴォンッ!!
「ひっ!?」
ものすごい音が右と左から交互に響いて、何かが鼻先を掠めた。直後にドロっとした鼻血が垂れてくる。ものすごい量だ。
「うわっ、うわっ!!」
掠めた、のではなく、鼻先を1センチほど持っていかれてたことには、その時点では気付いていなかった。鼻血でパニックになった私は、とにかく何が起こったのか知りたくて、背中のザックから望遠鏡を引き抜いた。
『おい、早く隠れろモヒ。次は鼻だけじゃ済まんモヒ』
「だけどっ! 何が起こってるのかわかんないと、どこに隠れていいかわかんないよっ!」
山肌の方に望遠鏡を向けて、レティクルを最大望遠まで回す。覗きこんだ先に……何か、巨大な生き物がいるのが見えた。
「何あれ……ゴリラ?」
大型のゴリラに似た魔獣が……野球のピッチャーがボールを投げるときのような構えをしている。
『ウスノロがモヒ』
それはモヒちゃんから、グズグズしていた私への叱責ではあったのだが。
私には、ゴリラ魔獣が私を嘲笑しているかのように響いてしまってならなかった。
ギュオォンッ!!
振りかぶったゴリラ魔獣が何かを投げ。
「! ら、ライトシー……」
直後、対処の遅れた私の身体が、ザクロみたいに弾け飛んだ。




