第22話 魔法少女、祝福される
怒涛と衝撃の一夜が明けた。
「く、首が痛い……寝違えた……」
あの後、「ぜひとも泊まっていってください」というメイドさんのお誘いを断腸の思いで断り、一旦宿屋に戻って泥のように眠った私は、固いベッドと合わない枕に首を痛めてしまっていた。
「くっそー……やっぱりお屋敷に泊まれば良かったかな……」
『あのコトとかいう娘と母親の水入らずを邪魔したくないとか言って虚勢張ったのは自分だろうがモヒ』
「そうだけどさー……まぁいいや、改めてお屋敷行こうか。コトちゃんに会いたいし、ロロネア様の様子も気になるし」
『魔獣の痕跡も確認しろモヒ。それと伯爵とやらの病気も確認の必要があるモヒ』
「そうだね、しっかり確認しないと。安心して山を越えるために!」
宿屋の主人に鍵を返却し、市場の街道を歩くこと数分。屋敷に到着すると、入り口の前に大勢のメイドさんと……ミイラ男? が立っていた。
「お待ちしておりました、レイカどの」
「「「お待ちしておりました」」」
代表のメイドさんが頭を下げると、それに合わせて大勢のメイドさんが一斉に頭を下げる。うひー、フィボナッチ数列の幻聴が……。
壮大なメイドさんの一斉お辞儀に圧倒されていると、ミイラ男がクセの強い動きで、恭しくお辞儀をする。あれ、この動き、どこかで見たような……?
「ク リティカル・レイカどの。ンこの度は、魔獣の魔の手からロロネア様、コトセット様、並びに邸宅をお救いいただき……ゥ誠に感謝申し上げます」
うえ、このクセ強な喋り方……!
「コズールさん!? どうしたのその包帯!?」
「どうしたのって……俺は怪我人だぞ、包帯くらい普通に巻くだろ」
「いや、巻き方が普通じゃないでしょ……」
怪我してたのは肩だったはずだ。顔面や足先まで包帯でぐるぐる巻きにする理由は無いでしょう。
「俺だってここまでする気はなかったが、コトセットお嬢様が『コズール、ちゃんとほーたいまかないとダメ』とな……」
「あー……なるほどね」
強面でちょっとワルっぽい雰囲気のあるコズールさんだけど、コトちゃんの無邪気さには叶わないみたい。何だか微笑ましい。
「本当に……すまなかった、魔法少女。最初から胡散臭い奴と決めつけて、辛く当たっちまって」
「あはは……気にしてないですよ。それがコズールさんなりの忠義だって、分かってますし」
コズールさんは、どこから取り出したのか、ヒビ割れた眼鏡をスチャッとかけて、遠い目をした。
「若い頃、俺は定職にもつかず、ならず者まがいのヤンチャなことばかりしていた……。ある日、トラブルで稼ぎをなくして路頭に迷い、行き詰まっていた俺に職と居場所を与えてくれたのが、先代のステイシー伯爵閣下だった」
「コズールさん……」
「先代が崩御されるとき、俺に言ったんだ。『息子とその家族を、お前が守ってやってくれ』ってな。まぁ……今回は行き過ぎた振る舞いをしたうえで、このザマだけどな」
『おい、周囲がシリアスな空気に耐えかねてないかモヒ』
何てこと言うのモヒちゃん。
「改めて、礼を言う。そしてすまなかった。魔法少女、お前は本物の勇者だ」
再び深々と頭を下げるコズールさん。いやぁ、本当は私って勇者とかじゃないんだけど……まぁ良いか☆
その後、私は屋敷の中に通され、魔獣から伯爵邸を救った英雄として、祝賀パーティーが開かれることとなった。
「あなたが、コトを二度も救ってくださった勇者様なのね? お話を聞かせてくれるかしら?」
ロロネア様は操られていた間の記憶がだいぶ曖昧になっているらしく、また私に冒険の話をせがんできた。
操られていない、素のロロネア様は……優雅で美しいだけではなく、どこか少女っぽい無邪気さもそなえていて、さすがコトちゃんのお母様だと思わせるくらいにそっくりだった。
「おかーさん! おねーさん!」
「コトちゃん!」
「あらあら、コト。今、勇者様にお話をうかがっているところよ。コトも聞きたいわよね?」
「うんっ、おねーさん、おはなしきかせて?」
「たくさん聞かせてあげるよコトちゃぁぁぁぁんっ!!」
あー……やっぱり可愛い、可愛い、たまらない可愛さだ!
守れて良かった……この笑顔!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『ふむ、やはりあれ以外に魔獣の痕跡は見当たらないモヒ。よくやったモヒ』
パーティーに参加しているあいだ、モヒちゃんに魔力反応を探ってもらったけど、怪しい動きは一切なかったそうで、本当に平和が訪れたことを実感する。
「領主様の病気自体は、魔獣とは無関係だったの?」
『病気自体は普通の病気だったモヒ。だが、操られていたロロネアと警備兵が、誤った薬をわざと投与していたためになかなか回復しなかったモヒ』
「なんと……本当にあの魔獣、邪悪だったねぇ」
『魔獣は例外なく邪悪モヒ』
屋敷内での他の被害も聞いたけど……、操られていた警備兵さんは大きな被害もなく復帰できたらしいけど、魔獣に襲われたメイドさんたちは軒並みコズールさんと同等かそれ以上の大怪我を負い、うち二人は今もベッドで意識不明の重体らしかった。
「なんか……今までは被害をうけてたのが自分だけだったから、こなくそって感じだったけど……周りの人が被害に遭うのって……重いね」
『魔王討伐の重大さ、身に沁みて分かったかモヒ』
「……うんっ!」
必ず魔王討伐を成し遂げて、この世界に本当の平和を取り戻してみせる……そんな想いを、改めて私は心に刻むのだった。




