第18話 魔法少女、追い詰められる
私が中に身を隠した、オリハルコン箔の箱。その蓋を開けようと、コズールさんが恐る恐る手を伸ばす。
(どどどどどーしようっ!? そうだ、『ホーリーワイプアウト』で後ろへすり抜けて……)
『さしものお前でも、オリハルコンをすり抜けるのは無理があるモヒ。ケツでオリハルコン箔をブチ破った時の音と発光で気づかれるモヒ』
ちくしょう手強いなオリハルコン!
っていうか、「ケツでオリハルコン箔をブチ破った」って字面が、なんかもういろいろ魔法少女として終わってる気がする……。
もはや何もできることがない、私はこのまま伯爵邸に忍び込んだ不審者として捕まって処刑されちゃうのか……。あれ、処刑されたらアウトじゃん!?
(くっ、こうなったら……蓋が開いた瞬間、『クリスタルランサー』で……)
思考が危ない方向に傾きかけたその瞬間。
「箱に触るニャ! ……触るな!」
声が響いて、鉄扉からぞろぞろと屋敷中の人々が屋上へ上がってきた。メイドさんが数人、執事さんも数人。警備兵っぽい鎧の人が一人。そしてゆったりしたネグリジェとナイトキャップに、枕をぎゅっと抱きかかえたコトちゃん(死ぬほど可愛い)。そしてその後ろに……なぜか頭に猫を乗せた、伯爵夫人ロロネア様!
「その箱に触ってはなりません、コズール」
「ゥ奥方様……この箱はいったい何ですか? ゥ私には見覚えがないのですが……」
「その箱は……この前勢いで買いました。置き場がないのでここに置いておいたのです」
言い訳ヘタクソかよ。
「ン左様でございますか……それはそうとゥ奥方様、その猫はいったい……?」
「この猫は……さっき拾いました。私のペットにします。問題ニャいので気にしニャいように」
言い訳が適当すぎる上に、ちょいちょい猫が出ちゃってるんだけど!?
『魔力反応的にも間違いないモヒ。あれが魔獣モヒ』
「だよね、分かってる。あれがロロネア様を操ってるんだね」
箱の中から『クリスタルランサー』で魔獣を正確に撃ち抜くのはさすがに難しいだろう。もし失敗してロロネア様に当たったりでもしたら、目も当てられない。
タイミングを見計らって、箱から飛び出すしかない……!
「私は戻って寝ますので、全員持ち場に戻るように。休んでいた者は明日に備えて寝なさい。それと、私と主人の寝室には誰も入らないように。分かりましたね?」
「ゥ奥方様……はい、仰せのままに」
まずい、部屋に戻られると侵入がさらに面倒になる……!
(こうなったら、飛び出すよ! モヒちゃん!)
『気をつけろモヒ。あの魔獣は今までとは比較にならないくらい厄介モヒ』
厄介なんかいっ!?
でも、行くしかないっ!!
「そこのネコ魔獣、待てーいッ!!」
「「「どわーっ!?!?」」」
その場にいたほぼ全員が驚いてズッコケていた。ただ一人、コトちゃんだけが、さっきまで眠そうだった目をキラキラ輝かせて、興味深そうに私を見ている。
「なっ……お前ッ!! クリミナル・レイカじゃねーか!?」
コズールさんが私を指差して怒鳴りつけてくる。
「その間違い方は今、非常に洒落にならない! 私はクリティカル・レイカです!」
『ちなみに、クリミナルは犯罪者って意味モヒ』
「そんなことはどうだっていい! お前、何でこんなところにいやがるんだ! さてはお前、奥方様の箱を盗みに入ったのか!?」
コズールさんの声を聞いて、ネコ魔獣に操られている(らしい)奥方様が、私を指差して叫ぶ。
「その泥棒ネコを……ひっ捕らえニャさい!」
ネコはお前だー!!
「みんな、騙されないで! ロロネア様に乗ってるその猫は魔獣なの! ロロネア様は、その魔獣に操られているのよ!」
ポーズを決めながら、ネコ魔獣をビシッと指差す! ふっ、決まった……私かっこいい。
さぁみんな、道を開けて!
私とネコ魔獣の、一騎打ちバトルよ!
「あぁ……? お前、何ほざいてんだ?」
……あれ?
「勝手に屋敷に潜りこんで、あげく奥方様が魔獣に操られているだと!? 寝言は寝て言え、深夜だけに!!」
「ひどいです、レイカどの! 私たちを騙していたのですね!?」
「これ以上、お前みたいな怪しい貧乳娘に騙されてたまるか!」
えぇ〜!? なんでぇ〜!?
『ずっと領民から慕われている美人の伯爵夫人と、今日会ったばかりの胡散臭い自称魔法少女、連中がどっちを信じるかは分かりきっていたモヒ』
「それはそうかもしれないけど、この流れで!?」
気がついたらメイドさんと警備兵さんに囲まれている……!
ここから魔獣を狙おうにも、メイドさんたちが立ちふさがってて、どうすることもできない!
「嘘でしょ……だ、誰か……誰か信じてよぉ!?」
誰にも届かないと思った、私の叫び……
「しんじる!」
「えっ?」
「わたし、おねーさんのことしんじる!」
ただ一人、私を信じて駆け寄ってくれたのは!
「おねーさーんっ!」
「コトちゃぁぁぁんっ!!!」




