第15話 魔法少女、見破る
「改めて……私の大切な娘を助けていただいてありがとう。お礼を申し上げます」
「いえいえ、そんなもったいないお言葉、私は当然のことをしたまでです」
神々しいコトちゃんの彫像を一時間ほど堪能したあと、例のメイドさんに呼ばれて私は屋敷に通された。しかも今度は1階の階段前で終わりではなく、3階の応接室に通された!
でっかい机! でっかいソファー! 壁にはでっかい絵画! 机のうえに何か豪華なフルーツ盛り合わせ!
アニメでしか出てこない、お貴族様の応接室だ……すっごい迫力。
「ンでは、魔法少女クリスタル・レイカどの……僭越ながら、ン心よりの謝礼をご用意いたしました。ゥお受け取りください」
最初に見たときのねっとり口調で、コズールさんが私の前に小さな袋をそっと差し出す。彼は雇い主家族の前でだけあの口調なのだろうか。っていうか今わざと名前間違えたね?
「えーと、ありがとうございます。私はクリティカル・レイカですのでよろしくお願いします」
「そうですか、ン失礼いたしました……クリスマス・レイカどの」
悪化したよ。
とりあえず、袋を受け取って服の中にしまい込む。異世界での私の全財産、生命線と言っても過言じゃないお金。なくさないようにしなくちゃ。
「お茶をお持ちいたしました」
メイドさんがティーセットの乗ったワゴンを運んできた。お茶とお菓子のいい匂い……ちょうどおなかが空いていたところで、ついヨダレが出てしまう。
「どうぞおくつろぎになってください。旅のお話などお聞かせいただけると嬉しく思いますわ」
「あ、ありがとうございます……あの、コトちゃん……コトセットお嬢様は……」
「コトセットは、主人の側を離れようとしませんの……ごめんなさいね、お話したいでしょうけど、今は主人の元に居させてあげてほしいの」
「あっ、はい、大丈夫です! 無理言ってすみません……」
コトちゃんが来ないなら、むしろ都合がいい。場合によっては、あの人と言い争いになる可能性もある。
「それでは……そうですね、この街に向かう前にあったことからお話いたしますね!」
私が怪しんでいる人物が、魔獣に操られているかどうか。それを確認するためには、こちらから質問をしないといけない。
だが、まずは私の話で緊張をほぐして、相手の信用を得てからだ。答えも得られず追い出されたら、強硬手段しかなくなっちゃうから。
「まずは、そうですね。私が得意の魔法で道を走っていると――」
「まぁ、そんなことが――」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「というわけで、魔獣の群れを魔法を駆使して片付けたんですよ!」
「うふふ、レイカさんの話、本当に面白いわね」
掴みは良い感じ、空気もいい具合にほぐれた。
そろそろ、踏み込んだ話をしてもいい頃合いかな?
「嘘を嘘と見抜く魔法、『ライアージャッジメント』」
私はお茶菓子を食べるふりをして口元を隠し、魔法を発動させる。初めて使う魔法なので、どんなふうに嘘が見抜けるのか分からないのが不安だけど……やってみるしかない!
「ところで、私からもこの街のことで、いくつかお聞きしたいんですが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、私に答えられることでしたら、何なりと」
「では……この屋敷にお伺いする途中に、屋上の方で何か光ったように見えたんですが、屋上には何があるんですか?」
「え、屋上……ですか?」
「ゥ奥方様、僭越ながらこのコズールめが代わりにお答えいたします」
クセ強コズールさんがねっとり口調で答える。
「ゥ屋上は屋根付きテラスになっていますが……ゥ今は使わない道具を色々置いていまして、ン立ち入り禁止となっております。ゥ光るような物は置いてませんので、見間違いでしょう」
ふむ、嘘はついてないっぽい?
「え、光る物はないんですか? ほら、鏡とか金属製の何かとか」
「ンございませんね。樽や木箱がほとんどです」
「そうね、鏡とかは置いてなかったはずだわ」
ぬぅ……嘘は出てこない。
「コズールさんがそこに居たとかはないですか? 眼鏡が反射したとか……」
「……ン立ち入り禁止になってると言ってるでしょう。ゥ私は屋上に入ってはいませんよ」
「ロロネア様は? 髪飾りが光ったりとか」
「いえ……私も屋上には、入ってません」
わぁ……嘘つかれるとこうなるのか。
そして……やっぱり、私が覚えた違和感、間違いじゃなかった。
『おとーさんとおかーさんは、わたしのこと、コトってよぶの』
『お帰りなさい、私の可愛いコトセット。会いたかったわ』
そうだ、本来ロロネア様はコトちゃんのことをコトって呼ぶはずなんだ。なのに、この人はずっと「コトセット」って呼んでいる。
ほんのわずかな違和感……だけど、結果としてそれは大当たりだった。
もちろん「光ったように見えた」というのは嘘だ。でも、屋上に魔獣の反応があって、屋上は立ち入り禁止になっていて、その上で入っていないと嘘をついた。これは魔獣に関わっている……つまり、操られてるとしか思えない!
「そーでしたか、では見間違いかもしれませんね。失礼しました」
「うふふ、レイカさんって案外そそっかしいのね。きっと見間違いよ」
「うふふふふふ」
「おほほほほほ」
ロロネア様を操ってる魔獣……手強い予感がする。
私はメイドさんにお茶のおかわりをもらいながら……今後どうするかについて、頭をフル回転させていた。
「ゥ奥方様。そろそろお時間でございます」
「あら、もうそんな時間なのね。ごめんなさいレイカさん、名残惜しいけど、そろそろ」
「あ、はい! こちらこそ長々とお邪魔して申し訳ありません」
「ねぇレイカさん、この街にはしばらく滞在するの?」
「そうですね、数日は滞在する予定です」
「でしたら、また遊びにいらっしゃってね。きっとコトセットも喜ぶわ」
「はい、ぜひとも!」
こうして、謝礼を貰うついでの会談は終わった。
待っててコトちゃん。あなたのお父さんとお母さんは、私が魔獣から救い出す!




