第13話 魔法少女、招かれ(ざ)る
「うひゃー……まるでお城みたいだ……」
正面入り口をくぐってエントランスに入った私の目に飛び込んできた光景は、そうとしか言いようがないほどに豪奢だった。
エントランスは大広間のようになっており、1階から5階までがズドンと吹き抜けになっている。天井に張り巡らされたステンドグラスから差し込む陽光が、床の大理石に七彩の輝きを落とし込んでいた。
入り口から正面奥の階段に向けて、真っ赤な絨毯がシワひとつなくまっすぐに敷かれている。2階の庁舎区画に続く階段の手すりには宝石が輝き、見る者を魅了する壮麗さを放っていた。
正面から向かって左手の壁沿いにはさまざまな彫刻が立ち並び、開かれた扉の前に別のメイドさんが立っている。右手には観葉植物がところ狭しと置かれ、その奥に紋章の刻まれた鉄扉があった。
「左側は美術館の入り口になっております。伯爵夫人のロロネア様が世界中より集めた屈指の美術品が展示されております。芸術に興味がおありでしたら、後ほどぜひご覧になってくださいませ」
「あ、はい……後で見てみます」
自慢じゃないが、私は美術の成績を、5段階評価で「2」以外取ったことがないぞ。
絵画も彫刻も「なんかすごい」くらいしか分からないけど、大丈夫なの?
「弊館一番の目玉展示は、かの名工ツミッキーがコトセットお嬢様をモデルに彫った彫刻、『水精霊と戯れる少女』でございます」
うわそれは芸術とか関係なく見たい。見たすぎる。
「ちょっとはずかしいけど……おねーさんに、みてほしいの」
「うん見る絶対見るよコトちゃぁぁぁぁんっ!!!」
「右の鉄扉が、3階へ向かう直通階段のある入り口になっております。そちらへ向かいましょう」
「はいっ!」
私たちは右手の鉄扉の前へ移動する。頑丈に閉じられた鉄扉に掛けられた複数の鍵を解錠していくメイドさんを見守りながら、私はモヒちゃんにコンタクトを送る。
「どう? 何か掴めた?」
『ダメだモヒ。まったく動きがなくなったモヒ』
「えぇ~、私が館に入ったら何か動き掴めるかもって言ったじゃん!」
『我はお前を中継点に世界を見ているから、お前が対象に近づけば近づくほど精度が上がるとは言ったが、相手が動かないならどれだけ精度上がろうと関係ないモヒ』
「なぁにそれ……神様なのに使えないなぁ」
『使えないのはこの程度も理解できないお前の頭だモヒ。とにかく、魔力反応が検知できるまで滞在しろモヒ』
「はいはい……と、扉開いたみたい。何かあったら教えてね」
『せいぜい死なないように気を張ってろモヒ』
ギィィィ――――
鉄扉が開くと、その先には大きな部屋が広がっていた。広さは中学校の教室と同じくらいだろうか? 奥に大きな階段が見え、その手前に大きな机が2つと、周囲にソファーが並べられていて、邸宅の玄関口なのに、同時に詰め所のようになっている。
そして……正面にビシッと立つ、初老の男性。白髪混じりのオールバックに銀縁のメガネをかけ、スーツを着込んでいる。目つきは非常に鋭く、ともすれば睨んだだけで人が殺せそうなほど凶暴な顔付きをしている。男性の後ろには総勢20人ほどの、統一感のあるメイド服に身を包んだメイドさんたちが、お澄まし顔で並んでいる。
「コトセットお嬢様……ゥお帰りなさいませッ!!」
初老の男性が妙にねっとりした言い方で叫びながら、腰を直角に曲げて頭を下げる。
「「「お帰りなさいませ!」」」
それに合わせてメイドさん達も、ぴったり同じタイミングで頭を下げる。統率のぴったり取れた動きは迫力満点だが……個人的には例のアライグマのおかげで少し苦手になってしまった。突然爆発したりしませんよーに。
「ただいまコズール、おとーさんとおかーさんは?」
コトちゃんが答えると、コズールと呼ばれた男性は顔をあげ、芝居がかったポーズを取りながら眼鏡をくいっと持ち上げた。いやクセ強いなこのおじさん。
「ゥお館様はいまだご容態が優れず、ン今も寝室でお休みになられてます。ゥ奥方様はコトセット様が帰られたと聞いて、ンこちらに向かっておりますよ」
コズールさんがクセ強な感じでそう言ったタイミングで、階段から誰かが降りてきた。
あれが奥方様……コトちゃんのお母さんなのだろうか? コトちゃんと同じ髪の色、コトちゃんみたいな少しとぼけた表情……コトちゃんも大きくなったらこんな感じになるのだろうか。
「お帰りなさい、私の可愛いコトセット。会いたかったわ」
「おかーさん!」
コトちゃんがパタパタとお母さんに走り寄る。うーん、走る姿も可愛い。そしてお母さんにひしと抱きつく姿は尊過ぎる。
「おとーさんにはやくあいたいの」
「ええ、すぐ会いにいきましょうね、コトセット」
お母さんはコトちゃんをひょいっと抱きかかえると、私に向かって微笑んだ。
「お話は伺っております、魔法少女のレイカさんですね。この子がお世話になりました」
「あぁ、いえ……当然のことをしたまでです!」
「私は伯爵夫人の、ロロネア・ステイシーと申します。本当でしたら主人が直々にお礼を言うべきなのですが、主人は病床にふせっておりますの。代理でお礼を言わせていただきますわ。ありがとう」
「あぁ、もったいないお言葉です!」
「ふふふ……それじゃコズール、私はこの子を寝室へ連れていきますから、あとは任せますよ」
「はい、ゥ奥方様、このコズールに……ゥお任せくださいませ!」
クセ強コズールさんが恭しく頭を下げると、お母さんは微笑んで階段へ向かっていく。コトちゃんがにっこり微笑んで、
「おねーさん、またね!」
と、手を振ってくれた。あぁ幸せ……。
階段を上がっていく二人を見送ったところで、コズールさんがこちらに向き直る。いよいよお礼のお話だ。いったいいくらくらいもらえるのかな?
少しワクワクしていた私に、コズールさんは……それまでとまったく違う態度で冷たく言い放った。
「で、何だっけ? 空気の魔法少女だっけ?」
「……えっ?」
「ご苦労。もう帰っていいぞ、いや帰れすぐ帰れ」
「えぇ~!?」




