第12話 魔法少女、恐れ入る
「うわ、すっご……」
私はコトちゃんとお付きのメイドさんに連れられて、ヤーマフ・モート中央広場に広がる市場へやってきた。
ところ狭しと掲げられる、色とりどりの横断幕。穏やかな色、鮮やかな色、売り物に合わせたさまざまな横断幕は、見ているだけで心を踊らせる。
そこかしこで、威勢の良い商人たちが豪快に声を張り上げる。焼き立てのパンや採れたての野菜、香辛料の香る串焼き肉に搾りたて果実ジュース。あるいは薬草、鉱石、絹織物……さまざまな商品を道行く人に売り込んでいる。
「そこのお嬢ちゃん! 今朝釣りたてのピチピチ川魚はどうだい!」
「そこのあんた! 贈り物にこのマントはどうだい? きっと喜ばれるよ!」
「効果てきめん、実際治る! ポーションは要らんかね!? 寄らばポーションの陰!」
まるでお祭りの出店屋台をさらにひときわ騒がしくしたような空気だ。もし手元にお金があったら、目についた物を片っ端から買ってしまいそうなくらいワクワクしてしまう。
「はいそこ! あんた冒険者なら、ポーション要るだろ! 今なら2個買うと1個オマケするよ! 2個あるポーションは3個ある!」
……ポーション売りの人、若干キャラがクドいなぁ……。
しかも今、私を指差してなかった……?
「なぁ! ポーション買ってくれよ! 何だったら今からタイムサービスだ! 待てばポーションの日和あり!」
何で売り込み方が絶妙に面白いんだよ……ここ本当に異世界なの?
まぁ、私はコトちゃんの家に着いてお礼を貰うまで文無しだから、どれだけ売り込まれたところで買いませんけどね……。
「いやぁ、すごく賑やかですね……」
ポーション屋さんから目を背けながら、一緒に歩くメイドさんに話しかける。
「そうですか? 今日は人通りも少ないですし、静かな方ですよ? 普段はこの倍くらい騒がしいですからね」
「マジっすか……すみません、私の住んでたとこ市場とかなくて」
「まぁ……田舎の方のご出身なんですね」
実際は田舎じゃなくって異世界なんだけどね……とはいえ、神様のことを説明できない以上、異世界転生の話もうまく説明ができないと思うので、田舎出身ということで話をあわせておく。
にしても、これだけ華やかな市場を通ってるのに、コトちゃんはとても静かだ。これだけ色々な出店が並んでいれば、小さい子なら出店に目を奪われ、アレが欲しいコレが欲しいと始まりそうなものなのに。
「コトちゃんは、お店とか興味ないの?」
「んーん、はやくおとーさんに、あいたいの」
ン健気過ぎるッッッ!!
「メイドさんッ! 急ぎましょうッ! コトちゃんのためにッ!」
「えぇ、レイカどの! お嬢様のために、急ぎましょう!」
私とメイドさんは、コトちゃんとはぐれないように左右からしっかりと手を繋ぎ、歩幅を合わせて丁寧に歩く。
しっかり握った小さな手のひらが、私に力を与えてくれる気がする。
コトちゃんの可愛い笑顔を守るためだったら、きっと私は魔王だって倒せるはずだ。
市場を抜けて中央広場の終端に来ると、大きな噴水のある公園のような場所に辿り着いた。
「わー……広くて雰囲気の良い公園ですね」
「あ、いえ……ここは公園ではなく、ステイシー邸のお庭にございます」
「……へ?」
お庭って……ここ、私の通う中学校の校庭よりだだっ広いぞ!?
コトちゃん一家、こんなところに住んでるの?
「あそこに見える建物がステイシー邸にございます。と言っても、1階は美術館、2階は領庁舎になっておりまして、邸宅は3階より上になりますが」
「えぇぇぇっ!?」
その広すぎる敷地にドンと構えられた建物も、5階建ての立派な建物で……普通に私の中学校よりデカい!!
だいたい何だ、1階が美術館、2階が庁舎って。お家の下の階が公共施設なんて、そんな家聞いたことないぞ。
「す……ステイシー卿さんって、何のお仕事をやられてる方なんでしょうか?」
ふと湧いた疑問を口に出すと、
「卿……さん……?」
メイドさんが青い顔になる。あれ? 私、何かマズった?
「ま、まあ……レイカどのは田舎出身ですものね、領内のことに詳しくないのはいたしかたないことです」
「あのね、おとーさんは、りょーしゅさま、だよ」
「えっ……りょーしゅさま、って……」
「エドワード・セン・ロッド・タルバイン・ステイシー伯爵閣下は、このヤーマフ・モート一帯を統治する領主様にございます」
「どえええええッ!?!?」
うわあ、大金持ちとかいうレベルじゃなかった!
お貴族様で、しかもこんな大都市の領主とか、ガチ偉い人じゃん!!
「あわわ、あわわわわ……私、とんだ不敬を……」
「大丈夫ですよ、ステイシー卿はお優しいお方ですから。田舎者が無知ゆえに不敬を働いてしまったとて、それを理由に罪に問うたりはしません」
「よ、よかったー……」
寿命が縮んだかと思った……。
にしても、ステイシー卿が伯爵様ってことは、つまりコトちゃんは伯爵令嬢……お姫様ってことなのか……。
「うー? おねーさん、どーしたの? だいじょーぶ?」
「大丈夫だよぉぉぉっ!!!」
あー可愛いマジ可愛い。お姫様可愛い最高。
『業務連絡モヒ。今、頭大丈夫かモヒ』
見た目も中身も最高に可愛いお姫様にキュンキュンしていたら、見た目は可愛いのに中身は鬼畜な神様の声が飛んできた。
「普通に大丈夫だよ……いったいどうしたの?」
『さっき掴んだ魔力反応だが、ますます妙なことになったモヒ』
「妙なこと?」
『かなり強力な反応だったが、強まったり弱まったりを繰り返した挙句、現在は消失しているモヒ。もし魔獣だとすれば、相当掴みどころのない相手モヒ』
「何それ? 消えたり現れたりしてるってこと?」
『そうなるモヒ。ついでにもう一つ情報があるモヒ』
「もったいぶってないで一気に言ってよ……なになに?」
『最後に魔力反応が観測された場所、今お前が向かってる屋敷モヒ』
「なっ、何だってーーー!?!?」




