第11話 魔法少女、萌える
馬車は街道を進む。
私が走るよりゆっくりだけど、それでも普通に歩くよりは速いだろう。あと数時間もすれば街に着くはずだ。
街に着いたら、コトセットちゃんのお屋敷までついていって、そこで報酬を受け取るということになった。街までの道のりを、馬車に乗せてもらって一緒に進む。
「へー……お父さんに会いに」
「はい、お館様……ステイシー卿がご病気でして。お嬢様は普段、モーリオックの教会で修行しておられるのですが、会いに来てほしいと……」
モーリオックというのがどこにあるのかは分からないが、この子は普段親元を離れて教会で生活しているのか。なんて健気なんだぁ。
「おとーさん、はやくあいたいの。はやくあえるの、おねーさんのおかげだよ?」
「ご褒美ぃぃぃっ!!」
いやー、本当に頑張って良かった。こんな可愛い子が喜んでくれているというだけで、何ものにも代えがたい褒章だと思う。
「あのー、コトセットお嬢様は、おいくつなんでしょうか?」
「先月お誕生日を迎えて、5歳になりました。あと一年ほど教会でお作法の修行をしたら、再来年からお屋敷に戻って学校へ通う予定です」
ひゃー、ってことはつまり、幼稚園児くらいの年頃ってことかー。可愛い盛りじゃないかー。
「あのねあのね、おねーさん、おねがいがあるの」
「お願い……?」
「おとーさんとおかーさんは、わたしのこと、コトってよぶの。だから、おねーさんもわたしのこと、コトってよんで?」
「コトちゃぁぁぁぁんっ!!」
可愛い超可愛い。抱きしめたいなでなでしたい。こんな妹がほしかった……!
「ところで、魔法少女どのは……」
「あ、レイカって呼んでください」
「あ、はい。レイカどのは、ヤーマフ・モートの街へはどんな目的で向かわれるのですか?」
へー、あの街は「ヤーマフ・モート」っていうのか。変わった名前だなぁ。
「いや、実はちょっとした目的があって、山を越えなきゃいけないんですよ。それで拠点にするために街を目指してるんです」
あの山の向こうには、私とモヒちゃんの最終目標である魔王の住む要塞、タヌキソヴァがあるはずだ。魔王討伐のため、私は山を越えなきゃいけないのである。
「山の向こう……ですか?」
メイドさんが青ざめる。
「あの山は、人が気軽に入れる領域は裾野までで、中腹から先は魔獣の巣窟になっているんですよ? 山頂までいった人はもちろん、山を越えた人も、私の知る限り今までいません」
「ええ、そうでしょうね。ですが、行かなきゃいけないんです」
「いったいなぜ……?」
「あの山の向こうに……魔獣を生み出す魔王がいます。私は魔王を倒すためにやってきました」
「魔王を……!?」
メイドさんが息を飲む。
魔王討伐。この世界の人々も魔獣に苦しめられているのなら、討伐は待ち望まれていることだろう。
「も、もしやレイカどのは……伝説の勇者様なのでは!?」
「いえ、勇気の魔法少女ですー」
「勇者の魔法少女!?」
うーん、もうそれでいいやー。
「おねーさん、ゆーしゃさんなんだ。かっこいーね」
「コトちゃんのためだったら世界だって救ってみせるよぉぉぉぉっ!!」
その時、馬車が石か何かを踏んだのか、軽くガタンと揺れた。
「きゃっ」
大きな揺れに驚いたコトちゃんが、私にしがみついてきた……!
「こっ、コトちゃんっ!!」
うっひょぉ〜〜〜柔らかい可愛いいい匂いする可愛いペロペロしたい可愛いもはや妹だ可愛い可愛すぎて尊死すりゅぅ〜〜〜!!!
『……お前大丈夫かモヒ』
あっ、モヒちゃんお構いなく。私はいたって正常です。
『……我は今、本気で魔法少女にする選択を誤ったかと思っているモヒ』
えー……ペンギン魔獣やアライグマ魔獣に苦戦するより、コトちゃんにメロメロになる方がダメだっていうワケ?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
やがて街道沿いに民家が立ち並ぶようになり、明確に街に辿り着いた感じがする。
地面はいつの間にか石畳になり、通りを歩く人もどんどん増えていく。
「わー、急に活気が出てきましたね!」
「この辺りは地価の安い古民家が主体です。中央繁華街はもっと賑わっていますよ」
「へー……ステイシー卿のお屋敷は繁華街の方にあるんですか?」
「はい、中央区の中で一番盛り上がる市場のすぐ近くにございます。お屋敷を出たら2分で市場ですよ」
それはつまり徒歩2分で駅前デパートまで行ける立地、みたいなもんだろうか。コトちゃんの家、本当に大金持ちなんだなぁ。
『妙だモヒ』
唐突にモヒちゃんが不穏なことを言いだした。私は口元を隠してこっそりモヒちゃんに呼びかける。
「なになに? 何かヤバいことでもあったの?」
『街の中に、非常に強い魔力反応があるモヒ』
「魔力反応……? それの何が妙なの?」
『この世界の住民は、基本的に魔力量が低いモヒ。お前に分かりやすい言い方をすると、MP10くらいモヒ』
「え……そうなんだ、そりゃ低いね」
『かたやお前の世界の人間は、魔法が使えない代わりに魔力量がクソ高いモヒ。MP200くらいあるモヒ』
「えっ、なんで!? バランス悪くない!?」
『ちなみにお前はMP970くらい……いやこれはどうでもよかったモヒ』
「どうでもよくない! 重要だよそれ!」
『とにかく、この世界の人間は熟達した魔術師でも魔力量はたかが知れてるモヒ。そして、重要なのは魔獣モヒ』
「私より魔獣の方が重要なの……?」
『魔獣は、魔王が魔力によって生み出した特殊な生命体モヒ。存在自体が魔力そのものであるため、強い魔力反応を示すモヒ』
「へー、ふーん、あっそー」
『露骨に興味を失うなモヒ。とにかく、強い魔力反応を発見したら、魔獣の接近だと判断するのが基本モヒ』
「……えっ、ちょっと待って? 街の中に魔獣が居るってこと!?」
『そう考えるのが普通モヒ。にも関わらず、街が騒ぎになってる様子がないモヒ』
「それは……妙だね……」
ようやく到着した街、ヤーマフ・モート。
どうやら街に着いたところで、私の旅は一筋縄ではいかないらしい……。




