75話 創造神VS神童
琵琶湖花火大会見に行ってきた
きれいでした
森林公園の静寂を切り裂くように、レオの高笑いが木々の間に木霊する。
フードが完全に脱げ落ち、露わになった金髪が、彼自身の体内から放たれる狂暴な魔力の奔流によって逆立っている。その瞳は、未知の理に対する飢餓感と絶対的な征服欲で、歪んだ光を放っている。
「あははははっ! 最高だよ、本当に最高だ! こんな機会、僕のこれまでの人生で一度だってなかった!!」
―――『神童』レオは、歓喜に全身を震わせながら甲高い声を響かせる。その細い身体から溢れ出る魔力は、もはや抑えきれずに青白く光るオーラとなって揺らめき、森の樹木を微振動させていた。
「魔法院の古臭い文献を漁るより、君を解剖する方が万倍有意義だ! 捕まえるついでに……僕の改良した魔法で、君のその身体がどこまで耐えられるか、色々と『試させて』もらうからね!!」
レオが右手を前方へと突き出した。
その小さな掌の上に、一瞬で超高密度の魔力が凝縮される。詠唱も、魔法陣の展開すら省略された完璧な無詠唱。手のひらサイズまで圧縮された真紅の火球は、太陽の表面温度にも匹敵する超高熱を放ち、周囲の空気を歪ませ、足元の草木が一瞬で黒い炭へと変わり果てる。
「まずは挨拶代わりに受け取ってよ!極大火球――《爆炎招来》」
ジュッ、と空間を切り裂くような短い重低音と共に、真紅の火球が直線的に空の顔面目がけて射出された。
通常であれば十数人の高位魔導士が数分掛けて大掛かりな魔術陣を描き、ようやく完成させるレベルの威力を持つが、一見すると初心者魔法の火球ほどしかない。しかし、その内情は都市一つを灰に帰すほどの熱量が極限まで押し込められ破滅の炎だ。
だが、空は迫り来る火球に対し、避ける素振りすら見せなかった。
右手をサッと前に出すと、ハエでも追い払うかのように、その極大火球を横合いから素手でスパーンと叩き伏せた。
――ドゴォォォォォォォォンッッッ!!!!
空の手に弾かれた火球は、そのまま遥か上空へと弾き飛ばされ、雲を突き抜けた高空で巨大な爆発を起こした。
王都の空が、まるで二つ目の太陽が生まれたかのように真紅に染まり、数秒遅れて巨大な衝撃波と熱風が森林公園全体を猛烈に揺らし、万象区の街並みにまで地鳴りのような重低音が届く。
その圧倒的な魔力の奔流と爆発音に、王都の各区に点在していた「強者たち」――ギルド本部にいたギルドマスターのイザベラをはじめとする猛者たちや、王都内に滞在していた他の『十二星冠』の面々が、一斉に首を跳ね上げ、その異常な気配を察知した。
「おいおい……もう少し加減しろよ」
空は眩しそうに上空の爆炎を見上げ、心底呆れたように吐き捨てた。
「ここは万象区のすぐ隣だぞ。こんな街の目と鼻の先で派手な爆発起こしたんだ、ギルドの連中やら騎士団やらが飛んできて大変なことになるだろ。少しは状況ってものを考えろよ」
しかし、狂気に狂喜する天才少年に、そんな言葉など届くはずもなかった。むしろ、己の放った魔法を「素手で払われた」という事実に興奮を爆発させる。
「あの威力の魔法を素手で……! 素晴らしい、素晴らしいよ君は! 次はどんな魔法なら耐えられる!? これならどうだ!?」
レオは聞く耳を持たず、さらに両手に禍々しいほどの魔力塊を練り上げ始める。
「……はぁ~~~~~」
空は深く、心底面倒くさそうに溜息をついた。
「どいつもこいつも、天才ってのは他人の迷惑を考えねえな」
これ以上この場所で付き合っていれば、ギルドや騎士団の連中がやってきて絶対面倒なことになる。空は右足の踵で、軽く地面を踏み鳴らした。
――カァン……ッ。
「――来い」
空間の概念が、音を立てて反転する。
レオが次の魔法を放とうとした瞬間、二人の周囲の景色が、まるで水面に映った絵が書き換わるかのように一瞬で書き換わる。
次の瞬間、二人が立っていたのは、森の中ではなかった。
上下左右、どこを見渡しても地平線すら存在しない、果てしない「白」と「無」が支配する異次元の広大な空間。かつてトビーを連れ込み、現在もトビーとエドガーが修練を行っているあの空間と同質の、空の権能によって創り出された絶対の檻だった。
「……へぇ?」
レオは周囲を見回し、金色の瞳を丸くした。足元には鏡のように滑らかな白い床、頭上には無機質な白い空。
「 これが君の創り出した固有空間かい? ほう……こんな構造になっていたんだ。ふふっ、なるほど……物理法則が一切存在しない、完全に閉じた次元の孤島だ。どうりで、僕の《模倣》の探査でも見つけられなかったわけだ。面白い、実に興味深い作りじゃないか!」
レオは怒るどころか、新しい玩具を手に入れた子供のように目を輝かせて歓喜した。
「ここなら、余計な気遣いを一切せずに、力任せに暴れ回れるぞ。あのまま外でやってたら、森どころか万象区の隣に巨大なクレーターが開いてたからな。一応、ここ王都だぞ」
空は首をすくめ、仕方のなさそうに手首を回した。
「ふふっ、僕の配慮のなさを指摘してくれるなんて優しいね! なら、お言葉に甘えて……これならどうだい!?」
レオが再び右手を掲げた。先ほどと同じ火球が生成される。
しかし、今回はそれだけでは終わらなかった。レオの固有スキル《模倣》と圧倒的な魔術構築能力が、その一球の火球に対し、異常な速度で「強化魔法」を重ねがけしていく。
『――+追跡』
『――+多段破裂』
『――+空間固定』
『――+熱量増幅』
『――+超加速』……
瞬く間に十個以上の極小かつ凶悪な強化魔法が火球へと付与され、火球の色は赤から黒みがかった紫へと変貌を刺した。
「ほう……。ただの火球に、短時間でそこまでの多重強化を上書けるか。なかなか器用な真似をするじゃねえか」
「褒めてくれて嬉しいよ! でも、驚くのはこれからさ!」
レオがニヤリと不敵に笑うと、その漆黒の火球が細胞分裂を起こすかのように増殖を開始した。
「――《無限増殖》!」
十、百、千――一瞬にして、空の視界の全てを埋め尽くす「数千個の強化多重火球」の群勢が、虚空に浮かび上がった。一つひとつが、都市を根こそぎ消滅させる威力を秘めている。
白いはずだった空間の全てが、無数の凶悪な極彩色の大炎によって埋め尽くされていく。空間そのものが熱量で歪み、灼熱の地獄へと変貌する。
「全てを燃やし尽くす大炎よ! 《千炎星華乱舞》ッッ!!」
数千の黒炎が、咆哮と共に空目がけて一斉に襲いかかった。全方位からの完璧な包囲攻撃。逃げ場など存在しない。
対する空は、その迫り来る灼熱の群れを見上げ、ふっと息を漏らした。
「やるな。……じゃあ、こっちはこれで冷ましてやるよ」
空は構えることすらしない。ただ、迫り来る灼熱の群れに向かって、静かに息を吸い込み――
『凍天息吹』
ふぅ……っ、と、まるで熱いスープを冷ますかのように、優しく息を吹きかけた。
その瞬間。
空の口から放たれたのは、絶対零度すら生温い、あらゆる熱運動と言う概念を根本から凍てつかせる「白銀の冷気」。
吹き出された冷気は一瞬で放射状に広がり、《千炎星華乱舞》と衝突した。
――シュゥゥゥゥゥ……ッ!
襲い来る数千の黒炎の群勢は、空の吐息に触れた瞬間に、燃えることすら許されず、その炎の「形」を保ったまま、一瞬で青白い巨大な氷の結晶へと変貌し、虚空で固まった。そして、次の瞬間には綺麗な音を立てて砕け散り、氷塵となって消滅した。
太陽の如き熱量は一瞬で奪われ、広大な異空間は一転して、静寂と冷気に包まれる。
「……ははっ。息を吹きかけただけで、僕の《千炎星華乱舞》を完封する……か…」
レオは降り注ぐ氷塵を払いながら、心底嬉しそうに漏らした。
「 これでもダメかい! あはは、参ったな!」
レオは自らの強化多重魔法が「無効化された」という現実に対し、愉快そうに笑い飛ばした。しかし、その瞳には冷徹な観察眼が宿っている。
「でも……これで分かったことがあるよ。君は確実に……僕たちと同じ『あっち側』の存在だ」
レオの姿が消えた。
「身体強化」を肉体に何重にも施し、音速を遥かに超える超高速移動で空の全方位を旋回する。同時に、空中の四方八方に、数百を超える純白の魔法陣が怒涛の勢いで展開されていく。
レオは空中にピタリと停止すると、無数の魔法陣の中央で、自身の莫大な魔力を惜しげもなく注ぎ込んだ。
「僕も、ほんの少しだけ本気を出すよ。……さすがにこれは、きついよね?」
数百の魔法陣が一斉に眩い光を放ち、その中心から一つの巨大な神聖術式が組み上がる。それは、古代の神話で国を一つ丸ごと地図から消し去ったとされる、禁忌の最上位滅世魔法――
「――《天劫・星崩落》!!」
空間全体が軋みを上げ、天から超高密度の魔力質量弾が、メテオのごとき圧迫感をもって空の脳天へと降り注ぐ。直撃すれば、異空間の概念すら歪みかねない究極の一撃。
「そうだな……。普通は、きついよな」
空は降り注ぐ滅びの光を見上げ、静かに腰を落とした。
そして――かつてロッキド鉱山で、巨大な災厄『石喰らいの女王』の死力を尽くした猛攻を、ただ無に帰したあの技を繰り出した。
「――《無象・流転》」
空の体が、滑らかな円を描くように微かに揺れた。
降り注ぐ最上位魔法の絶大な破壊エネルギー、質量、熱量、そして物理的衝撃――そのすべてが、空の体に触れた瞬間、摩擦ゼロの完全なベクトル変換によって、空の周囲を旋回する巨大な流体へと姿を変えた。
ドバァァァァァァンッッッ!!!!!
禁忌魔法は空を傷つけるどころか、彼の全周囲を完璧に守る「光の円環」へと昇華され、そのまま異空間の空へと虚しく散散していった。
静寂が戻り、立ち込める爆煙。
「はぁ……はぁ……っ!」
上空で肩を揺らし、荒い息を吐くレオ。
いくら無限の魔力を誇る天才とはいえ、これほどの規模の魔法を連続で展開し、最上位魔法を編み上げたのだ。少なからずの疲労が彼を襲っていた。
レオは輝く瞳で、眼下の爆煙を見下ろした。
「どうだい……? 流石の君でも、今のを無傷で防ぐのは――」
「さすがは十二星冠と言ったところか。……」
爆煙の中から、極めて静かな、何の変破もない声が響いた。
「……だが、まだ足りねえな」
「――っ!?」
レオの笑顔が固まった。
煙がサァ……と風もないのに払われていく。
そこに立っていた空は、服の端一つ汚れておらず、髪の毛一本乱れていなかった。
「お前の才能は本物だ。だが……神の領域を気取るには、その腕はまだ、いささか軽すぎるぞ」
絶対の強者たる『神童』のプライドと、常識を遥かに超越した『創造の神』の深淵。二人の怪物の演武は、さらなる領域へと踏み出そうとしていた。
夏暑すぎてやる気でーへん
後微課金で目当てキャラ天井ですり抜けると耐えられへん




