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創造神の遊戯  作者: 面白味
第2章 創造神、王都で大暴れ
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63話 新たな仲間と共に

5月中盤に入るってマジ?



「全軍、行軍を再開せよ! 遅れを取り戻すぞ!」


ケイデンスの張り詰めた号令が、断罪の峡谷の岩壁に反響した。

先ほどまでの地獄が嘘であったかのように、隊列は再び王都ガレリアを目指して動き出した。 


つい数分前まで地面に伏し、死の淵を彷徨っていた騎士や冒険者たちは、まるで数時間の心地よい微睡みから覚めたかのような顔をして持ち場についている。



「……不思議だ。あんなに身体が重かったのに、今は羽が生えたみたいだぜ」

「ああ。俺もさ。さっきまで死ぬかと思ってたのが嘘みたいだ」


空から降り注いだ《極光の散華(ステラ・パナケイア)》によって、砕かれた骨は繋がり、引き裂かれた喉は癒え、失われた魔力さえもが溢れんばかりに充填されている。


『碧き雷鳴』の冒険者たちは、戸惑いながらも自分の五体を確認していた。彼らの記憶の中では、突如現れた「仮面の男」がデュラハンを一撃で葬り、その余波で意識を失っていたことになっている。体に傷一つないのは、その男が放った特殊な回復魔法のおかげだ――。そう自分たちを納得させ、再び武器を握り直した。


ただ一人、馬車の中で静かに窓の外を見つめるローゼンス・エレアだけが、本当の「真実」を胸の奥に秘め、遠ざかっていく最後尾の荷台へ祈るような視線を送っていた。



一方、最後尾の荷台。



ガタゴトと揺れる車輪の振動が、トビーの尻に伝わってくる。彼は自分の両手を何度も握り、開き、そして背負った弓の弦を指で弾いた。


「……空さん。僕、まだ夢を見ているみたいです」


トビーの声は小さく震えていた。

つい一時間前、自分は亡者の王、デュラハンをその手で討ち取った。空に導かれたとはいえ、あの時指先から放たれた衝撃、音を置き去りにした閃光、そして自分の魂が世界と繋がったかのようなあの全能感。それは、しがないDランク冒険者として生きてきた彼にとって、あまりにも巨大すぎる現実だった。


「トビー。人には誰だって才能ってやつがある。地層の奥深くに眠っている金鉱みたいなもんだ。ただ、悲しいことに、それを一生のうちに掘り当てて、花開かせることができる奴はごくわずかしかいない」


空は視線をトビーに向け、わずかに口角を上げた。


「俺は、お前の奥底にある金鉱を見つけて、ちょっとだけツルハシで小突いてやったに過ぎない。実際に掘り起こして、物にしたのはお前自身の意志だ。……自信を持てよ。あれは紛れもなく、お前の技だった」


空は荷台に背中を預け、流れる雲を眺めながら答えた。隣ではエドガーが、どこから取り出したのか銀の磨き布で、空の装備を丁寧に拭いている。


「でも、あんな……あんなの、僕の力じゃない。空さんがいたから……」

「きっかけを与えたのは俺だが、引き金を引いたのはお前だ、トビー。あの瞬間、お前は自分の限界を蹴り飛ばした。それは誰に強制されたものでもない、お前の才能が勝ち取った結果だよ」 


空はそう言うと、ふと視線を落とした。


(トビー……。こいつの魂は、この世界には珍しいほど『澄んでいる』。磨けば、単なる冒険者で終わる器じゃない)


空の脳裏には、これから向かうガレリアの光景が浮かんでいた。


欲望と権力が渦巻き、光の裏には濃密な闇がへばりついている巨大な巣窟。そこには、トビーのような真っ直ぐな少年を飲み込み、汚してしまう罠がいくつも仕掛けられている。


二人の間に、しばしの沈黙が流れた。

ただ馬の蹄の音と、風の音だけが周囲を包み込む。

会話が一区切りついたその時、二人は示し合わせたかのように同時に口を開いた。


「あの、空さん――」

「なぁ、トビー――」


言葉が重なり、二人は互いに顔を見合わせて小さく笑った。空は「ははっ、奇遇だな」と笑い、顎でトビーを促した。


「お前から言えよ。何を言おうとしたんだ?」


トビーは一瞬、言い淀むように視線を彷徨わせた。だが、すぐに意を決したように、真っ直ぐに空の瞳を見つめ返した。その瞳には、恐怖を乗り越えた者だけが持つ、静かな、しかし確かな覚悟の炎が宿っている。


「……僕を、正式な弟子として、空さんたちと一緒に冒険させてください!」


トビーは勢いよく頭を下げた。


「僕は、今までずっと自分には何もないと思って生きてきました。ただ流されるままに、死なない程度に依頼をこなして……。でも、空さんに出会って、あの場所で戦って、自分を変えたいって本気で思ったんです。空さんの背中を見ていたい。空さんの教えてくれる世界を、もっと知りたいんです」


トビーの言葉は、飾らない本音だった。


「……それに、今の僕のままじゃ、一人でやっていける自信がありません。空さんに教えてもらったこの力を、どう扱えばいいのかも……。だから、お願いします!」


頭を下げたまま、トビーの手は膝の上で強く握られていた。

断られるかもしれない。足手纏いだと切り捨てられるかもしれない。そんな不安が、彼の身体を僅かに震わせる。


その沈黙を破ったのは、空の軽やかな笑い声だった。


「くくっ……はははは! なんだよ、お前。真面目なツラして何を言い出すかと思えば」


トビーが驚いて顔を上げると、空はお腹を抱えて笑っていた。エドガーもまた、口元に微かな笑みを浮かべて、トビーを温かく見守っている。


「わ、笑わないでくださいよ! 僕は本気で――」

「分かってる、分かってるよ。笑ったのはお前の言葉が可笑しかったからじゃない」


空は笑いすぎて滲んだ涙を指で拭うと、優しい眼差しで、トビーの頭を乱暴に撫で回した。


「俺も、ちょうど同じことを考えてたんだよ。『お前、俺についてくる気はあるか?』ってな」


トビーが目を見開く。

「……え、本当、ですか?」


「トビー。お前、自分が思ってるよりずっと面白い奴だよ。俺もさ、王都までの退屈しのぎに教えたつもりが、いつの間にかお前の成長を見るのが楽しくなっちまっててな」


空は身を乗り出し、トビーの肩をガシッと掴んだ。


「弟子なんて堅苦しいのは性に合わねぇけど……そうだな。俺の横でお前がどう化けるのか、最後まで見届けさせてくれ。トビー、俺と一緒に来い。この世界と言う物語を一緒に見て行こう!」

「……っ、はい! 喜んで!!」


トビーの顔に、弾けるような笑顔が戻った。

それは、彼が生まれて初めて、自分の力で「自分の居場所」を掴み取った瞬間だった。


「決まりだな。エドガー、これから賑やかになるぞ」

「左様でございますね、空様。トビー殿という新しい風が加わり、私たちの旅もより一層、彩り豊かなものになるでしょう。……まずは王都ですのでマナーからお教えしなければなりませんね」

「えっ、マナー……!? それはちょっと苦手かも……」


トビーの情けない声が上がり、最後尾の荷台には、峡谷の惨劇が嘘のような明るい笑い声が響き渡った。

馬車は、西日に照らされた長い街道を、誇らしげに進んでいく。




それからの旅路は、驚くほど平和だった。

峡谷でのあの大惨事が嘘のように、街道には穏やかな風が吹き、襲い来る魔物も空が放つ微かな「威圧」を察知してか、影も形も見せなかった。


そうして数日が過ぎ――

ついにその「壁」が姿を現した。


「……うわぁ……」


トビーが感嘆の声を漏らす。

地平線の向こうからそびえ立つのは、アルカディア王国が誇る絶対の牙城、ガレリアの外壁だ。


「……見えてきましたよ。王都ガレリアの第一正門です」


エドガーの声に、空とトビーが顔を上げる。

草原の地平線の彼方。陽光を反射して白銀に輝く、巨大な城壁が姿を現した。


空を突くほどに巨大な白亜の城壁。そして正面には、古の巨人の盾を繋ぎ合わせたかのような、重厚かつ美麗な大門が鎮座している。


何世紀にもわたって他国の侵略を許さず、幾多の英雄や王族を迎え入れてきたその門は、もはや建造物というよりは、一つの「象徴」の具現化であった。

門には国章と共に、十二の星を象った装飾が施され、そこを通る者すべてを威圧し、同時に守護する絶対的な風格を漂わせていた。


「デカいな……」


空が感心したように呟く。彼が見てきた数多の世界の中でも、これほどまでに洗練され、かつ「信仰」と「権力」が凝縮された都市は珍しい。


門の前には、数え切れないほどの商人や旅人の列ができていたが、ローゼンス家の紋章を掲げた馬車列は、一切の足止めを受けることなく、専用の優先通路を悠然と進んでいく。


門を守る衛兵たちが一斉に槍を立てて敬礼し、巨大な門が、重低音を響かせながらゆっくりと左右に分かれていく。


「これより、ガレリアへ入城する! 各員、ローゼンス家の名に恥じぬよう、背筋を伸ばせ!」


ケイデンスの誇らしげな声と共に、馬車列は王都の喧騒の中へと飲み込まれていった。

石畳の路地を叩く蹄の音。人々の活気。立ち並ぶ豪華な建築物。

そこは、欲望と、栄光と、そして深い闇が交錯する、この国最大の中心地。


空は、窓の外を流れる壮麗な街並みを眺めながら、不敵な笑みを浮かべる。


「さて……。この王都ってのが、どれほど俺を楽しませてくれるか。……楽しみだな、エドガー、トビー」

「御意に」

「はい、空さん!」


空の足が、王都の土を踏む。

それは、平穏だったガレリアの歴史が、根底から覆され始める最初の一歩でもあった。


これでまた一段落落ち着きましたね。

いかがだったでしょうか?面白かったですかね?

感想もらえると嬉しいのでぜひお願いします。

さて、いよいよ次から王都での冒険が始まります。

ぜひお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
旅の仲間が増えたぜやったね これからも更新がんばってくださいね! 無理のない範囲で
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