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創造神の遊戯  作者: 面白味
第2章 創造神、王都で大暴れ
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57話 希望に被さる絶望

授業90分ってなに?めちゃくちゃ眠いんですけど


空が最後尾でトビーに弓の真髄を説き、エドガーが泰然と死神をあしらっていたその裏側。馬車列の中央から前方にかけての戦場は、凄惨な消耗戦を強いられていた。


「右だ! 右からブラッド・モスキートが来るぞ! 盾を構えろ!!」

「クソッ、地面から次々に……! 聖水は!? 聖水はもうないのか!」


騎士たちの悲鳴が、湿った岩壁に反響して不気味に増幅される。


ローゼンス家騎士団長ケイデンスは、愛剣『白百合の誇り(マドンナリリー)』を振るい、迫りくるアンデットの群れを十文字に切り裂いていた。だが、彼の額からは絶望的なまでの汗が滴り、その呼吸は既に荒い。


「ひ、退くな! 剣を振るえ!奴らに隙を与えるな!」


騎士団長ケイデンスの怒号が響くが、足元の土から無限に湧き出すアンデッドの群れは、騎士たちの鋼の意志を物理的な質量で削り取っていく。腐りかけた指先が鎧の隙間に潜り込み、錆びた剣が馬の脚を薙ぐ。精鋭と呼ばれたローゼンス家の私兵たちも、視界を埋め尽くす不浄の軍勢を前に、一人、また一人と力尽き、物言わぬ屍へと変わり、その屍さえもが次の瞬間にはアンデッドとして味方に牙を剥くという絶望の連鎖に陥っていた。



「団長! 右翼が崩れます! 予備兵力がもう……!」

「黙れ! お嬢様の馬車を死守せよ! 崩れるなら、その肉で壁を作れ!」


状況は絶望的だった。湧き出すアンデッドの数は千を超え、もはや個人の武勇でどうにかなるレベルを逸脱している。


ケイデンスの視界の端で、お嬢様が乗る豪華な魔導馬車の結界が、度重なる衝撃に耐えかねてひび割れ始めていた。


だが、その絶望を切り裂くように、前方から凄まじい衝撃波が放たれた。


「――《爆炎の旋風(フレア・ボルテックス)》!!」


轟音と共に、街道を埋め尽くしていたブラッド・モスキートの群れが一瞬にして焼き尽くされ、真っ赤な炭と化す。


驚愕に目を見開くケイデンスの前に、血と煤に汚れながらも、圧倒的な覇気を纏った五人の男女が姿を現した。


「……遅くなっちまいましたな、団長殿。前方の『掃除』に少々手間を取られてしまいましてな」


不敵な笑みを浮かべて現れたのは、今回の依頼に参加した冒険者の中で最高位の資格を持つ、Aランクパーティー、『碧き雷鳴アズール・サンダー』のリーダー、重戦士ヴォーダンだった。


「ヴォーダン殿……!『碧き雷鳴』 か!」


ケイデンスは短く叫び、胸の奥で重く沈んでいた絶望を振り払った。Aランク冒険者――それは、一人が一軍に匹敵すると言われる《生ける伝説(Sランク)》に最も近い存在。彼ら『碧き雷鳴』の介入により、停滞していた戦況は劇的に動き出した。


「前方のアンデットの群は、我らが魔術師がすべて叩きのめしました。これより、中央の防衛に参加します。……野郎ども、お嬢様の馬車に指一本触れさせるな! 仕事の時間だ!」



ヴォーダンの号令と共に、『碧き雷鳴』たちの猛攻が始まった



それは騎士たちの戦いとは、訳が違っていた。

バルトの一振りが十数体のスケルトンを粉々に砕き、背後の魔導師が放つ雷撃がアンデッドの軍勢を連鎖的に感電させ、塵へと変え、斥候の双剣が、騎士の死角から迫るスケルトンを精密に解体していく。


一人で騎士数人分、いや、十数人分の働きを見せる彼らの介入により、崩壊しかけていた戦線は劇的に押し戻された。


「……いける。これなら、いけるぞ!」

ケイデンスは再び活力を取り戻し、声を張り上げた。


「碧き雷鳴に続け! 街道を切り拓くんだ! 王都はもうすぐそこだぞ!!」


騎士たちの士気が跳ね上がり、剣筋に鋭さが戻る。

活気を取り戻した騎士団は、ヴォーダンたちを核として再編された。ケイデンスとボルドは背中を合わせ、押し寄せる不浄の群れを次々と屠っていく。


「ハッ、案外チョロいもんだな。所詮は過去に死んじまった奴らだ。俺たちの敵じゃねえよ」


《碧き雷鳴》の一人、斥候役の男が血のついた短剣を拭いながら、安堵の溜息を吐いた。

周囲には魔物の残骸が積み上がり、不快な腐敗臭が漂っているが、先ほどまでの「死の圧力」は明らかに弱まっている。


ケイデンスもまた、剣を鞘に戻すことなく、周囲の状況を確認しながら歩み寄る。


「……感謝する。貴殿らの協力がなければ、今頃この私もお嬢様もこの峡谷が墓標になっていたところだ。王都へ着いたら、私からも相応の推薦を――」


その時だった。

不自然な、あまりにも不自然な「沈黙」が峡谷を支配した。


これまで吹き荒れていた激しい風が止み、代わりに足元から這い上がるような、冷たく重い「霧」が立ち込め始めたのだ。


「……霧? 結界の外側か?」


ヴォーダンが不審げに眉を潜める。

斥候の男が、索敵のために数歩前へ踏み出した。


「おいおい、何だこの霧は。前が見えねえぞ……。まぁ、峠は越えたみたいだ――」


だが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。


――パァンッ!!


乾いた、しかし重い破砕音が峡谷に木霊した。


「は……?」


ケイデンスの目の前で、今しがた勝利の笑みを浮かべていた斥候の頭部が、消失した。

いや、消失したのではない。上空から振り下ろされた、想像を絶する質量の『何か』によって、一撃で粉砕されたのだ。


首から上を失った肉体が、ピクピクと痙攣しながら地面に崩れ落ちる。


ケイデンスの思考が停止した。

『碧き雷鳴』の他のメンバーも、何が起きたのか理解できず、目を見開いて立ち尽くす。


「――ッ!? 全員、下がれぇぇぇ!!」


沈黙をヴォーダンの絶叫が遮る。

霧の向こうから、ゆっくりとその姿を現した。

それは、騎士たちがこれまで見てきたどんなアンデッドとも、どんな魔物とも一線を画す「圧」を放っていた。



優に五メートルを超える、漆黒の全身鎧。

首の断面からはどす黒い情念の炎が揺らめき、左脇には自らの「生首」を抱えている。右手に握られた巨大な斬馬刀は、かつての戦場で幾千の命を奪ってきたことを物語るように、禍々しい紫の魔力を帯びていた。



――深淵の処刑者、デュラハン。



その存在が放つ「死の気配」だけで、周囲にいた残党のゾンビたちが恐怖に平伏し、霧の中に溶けていく。



「……デュ、デュラハン……。嘘でしょ……」


『碧き雷鳴』の魔導師が、震える声でその名を呼んだ。


だが、通常のデュラハンではない。その放つ圧力プレッシャーは、もはや一つの小国を滅ぼしかねないほどの、圧倒的な「深淵」そのものだった。



その様子を崖の上から見ていた盗賊団の頭目ガッシュも、予想外の怪物の登場に顔を引き攣らせていた。


「……おいおい、冗談だろ。俺たちの『魔寄せの香』に釣られて、あんなヤバいのが出てきやがったのか!?」

「お頭、どうします!? 俺たちも逃げた方が――」

「馬鹿野郎! あんな化け物に背中を見せて逃げ切れるか!いいか、あいつが騎士どもを蹂躙している間が、お嬢をさらう唯一の、そして最後のチャンスだ。 馬車はガラ空きだ。…死ぬ気で動け、あいつに気づかれる前に混乱に乗じてお嬢を奪い去るぞ!」


ガッシュは恐怖を殺し、我欲を優先させる。だが、その声は震えていた。



だが、戦場の主導権は既に、その「首無騎士デュラハン」の手の中にあった。

デュラハンが、天を仰ぐように――首はないが――その体躯を反らせた。


「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!」


デュラハンの、頭部のない首の断面から、物理的な音波を超えた「死の咆哮」が放たれた。それは魂を直接揺さぶり、存在の根源を破壊するものだった。

衝撃波が峡谷を駆け抜け、岩壁が砕け散る。


「……っ、あ、あああ……」


その声を間近で浴びた一般の騎士や低ランクの冒険者たちは、目や鼻から血を吹き出し、悲鳴を上げる暇もなく次々と白目を剥いて気絶していった。

隣では、これまで幾度となく困難に合い鍛えられた精神を持つはずのヴォーダンたちでさえ、耳を押さえ、苦悶の表情で呻いている。彼らほどの強者でさえ、立っているのがやっとという異常な威圧感。


(……動け……動けよ、俺の身体……!)


普通の人間レベルの精神力しか持たない者は、その場に立っていることさえ許されない。

ケイデンスは、震える手で地面に剣を突き立て、辛うじて意識を繋ぎ止めていた。

視界が霞む。


「……化け物、め……」


ケイデンスが震える腕で剣を構え直す。

だが、デュラハンは彼を「敵」としてさえ見ていなかった。ただの、排除すべき障害。

デュラハンは一歩、重厚な鎧の音を鳴らして踏み出した。


その一歩だけで、ケイデンスの足が震え、折れそうになる。



絶望。



デュラハンが、漆黒の大剣を頭上高くに掲げた。

その刀身に、峡谷に漂う怨念が収束し、死の光が宿る。


(……終わりだ。)


ケイデンスは、静かに目を閉じた。

自分には、あの一振りを防ぐ術はない。避ける気力もない。


死の喉笛。


その名の通り、自分はここで、この峡谷の一部になるのだ。


死を告げる漆黒の刃が、無慈悲に、そして絶対的な速度で振り下ろされた。

金属が風を裂く鋭い音が、ケイデンスの耳朶を打つ。


「……お嬢様……申し訳、ございません……。不甲斐なき私を、お許し……を…」


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