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無冠の星間皇帝  作者: 天瀬航
第二章 住所のない傭兵団

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第37話 連続劇

 訓練を終えて食堂へ行くと、壁の画面を前に、ミラとビットが言い合っていた。


「だから、その先は言うなって。俺、まだそこまで見てないんだからさ?」


「でもこれ二十年以上前の番組だよ?」


「俺、まだ生まれてない!」


 ミラが笑い、ビットは本気で嫌そうに、手元の端末で映像を止めた。


「何を見てるんだ?」


「連続劇。昔の貨物船乗りの話だよ」


 ビットが続きを流した。くたびれた船の前で、男性が三人、何かを運んでいる。


「ミラは全部知ってるくせに、横から色々言うんだ。そこは持つなーとか、そいつを信用するなーとか」


「だって、整備区画へ火を持って入るんだよ。そりゃ言うよ」


「俺に言われてもなあ」


 画面の中で、小さな火が上がった。ビットが何も言わずにミラを見ると、ミラは勝ち誇った顔で頷いた。


 俺も、つい空いた椅子を引いた。


「最初から見てなくても分かる?」


「今なら分かりやすいかも。ほら、あの三人、荷物を黙って横流ししようとしてるんだ」


「違うよ。まだ、そのつもりはないはずだね」


「ほら!そういうのだよ!」


 ビットが手を上げて訴える。ミラは、口を閉じて笑いをこらえた。


 昼まで、少し時間があった。


 画面では、三人の一人が燃えた袋を荷物の陰へ押し込んでいた。女性の船長が入ってくると、揃って胸を張る。


「うちなら、誰がやりそうだ?」


 俺が聞くと、ビットはすぐに答えた。


「俺はちゃんと報告するけどな」


「今、自分が候補に入っただろ?」


「レンだって、慣れてない物のボタンとか押しそうじゃん」


「俺は押す前に聞くよ。……たぶん」


 そこへ、トウマが茶器を持って入ってきた。


「何のお話ですか?」


「もし、黙って船の荷物を燃やしたら、どうするかって」


「どこの荷物ですか?」


 茶器を置きかけた手が止まった。


「番組の中です、トウマさん。俺たちは何も燃やしてません」


「……そうですか。よかった」


 トウマは息をつき、茶器を置いて椅子へ座った。


「それ昔、私も見ていました。困ったことを隠した人が、隠した後にもっと困るんですよね」


「分かってるのに、見てたんですか?」


「ええ。今度こそ早めに謝るかと思って」


 ミラが笑い出し、ビットも吹き出した。


 画面の男は、謝るどころか、船長をよその部屋へ連れていこうとしていた。隠した袋から煙が上がっている。


「ルミ、今の三人、仕事を頼むなら誰がいい?」


「映像を取得していません。三人の行動を説明してください」


「ああ、そうだった。簡単に言うと、一人目の男が袋を燃やして、二人目が袋を隠して、三人目が船長を袋から遠ざけてる」


「その三人から選ぶ必要がありますか?」


 ビットが卓へ突っ伏した。俺も声を出して笑った。


「必要はないな。この三人に頼まない方がよさそうだ」


「了解しました」


 画面の船長が、煙に気づいた。


 俺は、何が起きているかをルミにも話した。男が消火器をつかみ、焦って別の男の顔へ噴かせたところでは、説明する前に笑ってしまった。画面の男は悲鳴を上げている。


「レン。負傷者が出ましたか?」


「いや、顔が真っ白になっただけ。……悪い。順番に話すよ」


「急ぐ必要はありません」


 やっと謝りに行った男が、船長の前で同じ消火器を落とした。


「こいつ、俺より失敗してるな」


「レンみたいに訓練回数百回、越えそう?」


「数え直すなら、ビットが最初から見てくれ」


「そこ、ルミじゃないのかよ?」


「私の記録に映像は含まれません」


 首もとから返事がして、また笑った。


 昼食の時間になり、ドランが台車を押してきた。


「食べながら見るなら、卓を空けてくれ」


「あ、手伝います」


 立ち上がった拍子に、椅子の背へ掛けていた上着が床へ落ちた。拾いかけると、ビットが俺を指した。


「はい、一回」


「これは入れなくていいだろ?」


「何の回数だ?」


 ドランに聞かれて、ビットが番組の話をした。ドランは、俺とビットの分の器を渡してきた。


「じゃあ、先にこれを持ってくれ。上着は俺が拾う」


「ありがとうございます」


 器を二つ受け取り、卓へ戻った。ビットの前へ一つ置くと、ビットがやけに慎重な手つきで自分の方へ寄せた。


「器からこぼさなくても数えていいか?」


「今、俺、何もしてないだろ!?」


 ミラの笑い声に重なって、入口からソナの声がした。


「ずいぶん楽しそうですね?」


「先生も見ます?俺より失敗する人がいますよ」


「それは、気になりますね?」


 ソナが、俺の隣へ座った。俺は上着を受け取り、畳んで自分の背中と背もたれの間へ差し込んだ。


 画面では、船長が乗員三人へ新しい仕事を言い渡していた。


「罰で掃除かな?」


「どうだろうね?」


 ミラは、今度は物語の先を言わなかった。


 見ているうちにガレスも来た。空いた椅子へ座って、画面を見上げる。


「まだ、そんな古いのをやってるのか?」


「知ってるんですか?」


「昔は、船でよく流れてた。こいつらが何か燃やした回だろ?」


「そこは、もう見たよ」


 ビットが言うと、ガレスは匙を取った。知らない結末が口から出てきそうで、俺まで身構えてしまう。


 昼食を終える頃、三人はやっと船の床を磨き終えた。


 そのきれいな床へ、船長が荷物を引きずって入ってくる。次回の文字が出た瞬間、ビットが声を上げた。


「そこで終わるのかよ!?」


「あたしも、当時同じ事言ったねえ」


 ミラは、満足そうだった。


「これって続き、あるんですか?」


「あるよ。でも、今から整備記録を付けるんだ。続きは夕飯の後だね」


 ビットは残念そうに画面を閉じ、俺は自分の器を持って立ち上がった。


 失敗した男たちがどうなるか、思った以上に気になっていた。


 食べ終えた器の片づけを終えて、通路へ出てからルミへ話しかけた。


「全部、俺が説明するの、大変そうだな?」


「説明の量は、レンが決めて構いません」


「じゃあ、船長が一番怒ったところだけでも話すか」


「理由もお願いします」


「理由を抜いたら、ただの怖い人になるもんな」


 食堂から、ガレスの咳払いが聞こえた。


 俺は足を止めた。今のはガレスに聞こえただろうか。


「レン。声を小さくするのが遅かったようです」


「……分かってる」


 振り返ると、扉の向こうでガレスが笑っていた。


「夕飯までに、俺が怒った理由も考えとけ」


「今のは、連続劇の中の船長の話ですよ」


「そっちの答えは、俺は知らん」


 扉が閉まり、俺はビットと顔を見合わせた。


「今日の続き、また夕飯の後な?」


「さっき聞いたよ」


「違うって。今のレンの話をミラにするんだよ」


 そこまで続きを増やさなくていいと思ったが、笑っているビットを見ると、止めても無駄そうだった。

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