↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無冠の星間皇帝  作者: 天瀬航
第一章 名もなき機体と漂流者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/47

第22話 引き金の重さ

 六つの赤い表示のうち、五つは小さく、一つだけが大きかった。


 五隻の小型船が《ラグナ》を囲むように位置を変え、その外側から巡洋艦が近づいていた。画面には、それぞれの距離と進行方向が表示されている。


「機体の起動状態は?」


「姿勢制御、推進、外部観測を再開しました。通常武装は一種類だけ使用できます。胸部の内部構造に負荷がかかり、警告が出ています。急加速と連続射撃は推奨しません」


 機体が動くようになっても、内部の損傷は直っていない。胸部を示す表示は黄色く点滅していた。


『レン、聞こえるか?』


 ガレスの声が入った。


「聞こえます」


『格納口を開く。出たら《ラグナ》から離れるな。お前では追いきれない敵は、ジンと港の警備艇に任せろ、いいな?』


「分かりました」


『戻れと言ったら戻れ。船を守るために、お前を回収できない場所まで行かせるつもりはない』


「はい」


 続いて、ミラが通信へ入った。


『胸部の警告は見えてるね?推進器を一度に全部使うんじゃないよ。外装が変形しなくても、胸部の内部構造が荷重を支えきれるとは限らないよ』


「必要な分だけ使います」


『どこまで加速していいか、今のあんたに判断できるのかって心配してるんだよ』


 反論はできなかった。操縦席へ戻ってから、右手の震えはさらに強くなっている。


 ソナからも通信が入った。


『レンさん。測定シールの数値をこちらでも見ています。視界が暗くなる、脚に力が入らない、返事が遅れる。そのどれかが出たら、すぐに申告してください』


「分かりました」


『気をつけてくださいね』


 格納庫の扉が開き、外の星空が見えた。《ラグナ》の外部救難架には、損傷した輸送艇が固定されている。救難灯はまだ点いていた。


「ルミ。できるだけ加速を抑えて出るぞ」


「了解しました。レンの操作に合わせて推力を配分します」


 左右のレバーを前へ倒す。機体の足と背中から弱い光が伸び、《ソヴリン・ゼロ》が格納庫を離れた。


 胸部に細かな振動が続いた。黄色い警告は消えないが、赤には変わらなかった。


 機体の背中にある六枚の板が開いた。それぞれが向きを変え、弱い噴射で姿勢を保っている。


 右腕を上げようとすると、実際の右手より先に機体の右腕が動いた。神経接続が、レバーを動かす前の意図まで拾っている。便利だと思うより先に、右手首の測定シールが黄色く点滅した。


「ルミ。俺が考えただけで動くのか?」


「神経信号から運動意図を取得し、物理操作を補っています。意図だけで全操作を確定することはありません」


「右手の細かい操作は任せられるか?」


「補正できます。ただし、攻撃の最終決定はレンが行います」


 ルミは操縦を補助してくれるが、攻撃するかどうかは俺が決める。最初に進路を選んだ時と同じだった。


 小型船二隻が《ラグナ》の進行方向を塞ぎ、残り三隻が左右と後方にいた。巡洋艦は正面から少し外れた位置にいる。


 ジンの白い機体が左側の小型船へ短銃を撃った。光弾が船首のすぐ前を通ると、小型船は進路を変えた。


 別の小型船から光弾が放たれた。正面の表示に赤い輪が現れ、《エコー》が半透明の機体像を三つ示した。


 右へ大きく避ければ、《ラグナ》から離れすぎる。下へ避けると、外部救難架の輸送艇にぶつかる。残る一つは、左へ短く動いて攻撃を避けるものだった。


「左へ短く動く」


 左手のレバーを倒した。背中の六枚の板が向きを変え、機体が左へずれた。


 敵の光弾が胸部のすぐ前を通った。《ラグナ》にも輸送艇にも当たらず、そのまま遠ざかっていく。


 急な加速は避けたつもりだった。それでも首の後ろが熱くなり、胸部の黄色い警告が速く点滅した。


「胸部荷重が上昇しています。現時点では動作可能ですが、同じ回避を繰り返すのは危険です」


「一回避けるだけでも、これか?」


 機体は攻撃を避けられる。でも、俺の身体も《ソヴリン・ゼロ》の傷んだ胸部も、同じ動きを何度も繰り返せる状態ではなかった。


 ジンから通信が入った。


『カミシロ、出られたか?』


「出ました。俺は何をすればいいですか?」


『《ラグナ》へ近づく奴を止めろ。撃墜する必要はない。近づけさせなければいい』


「了解です」


『ただし、相手はこっちを殺す気で来てる。止まれと言って止まるとは思うなよ?』


 右側の小型船が向きを変えた。船首が《ラグナ》ではなく、外部救難架の輸送艇へ向く。


 その小型船から通信が入った。


『黒い機体、推進を止めろ。止めなければ、先に損傷船を切り離す』


「断る」


『なら、お前が見ている前で撃つ!』


 ジンから警告が入った。


『一隻抜けた。そっちへ行くぞ!』


 ジンの白い機体は別の二隻に進路を塞がれていた。港の警備艇も遠くで一隻を引きつけている。輸送艇へ向かう小型船を止められる位置にいるのは、俺だけだった。


 通常航法予測で、敵船へ近づく経路を表示した。小型船と輸送艇の間へ最短で入る経路は、途中で敵の射線と交差し、危険を示す赤色に変わっている。もう一本は《ラグナ》の船腹に沿い、輸送艇の外側へ回り込む経路だった。


「《ラグナ》の船腹に沿って回る。」


「了解しました」


 《ラグナ》の船腹が左側いっぱいに広がった。外板との距離を保ちながら進み、輸送艇へ向かう小型船の側面へ出る。敵船は進路を変えなかった。


「ルミ。使える武器は?」


「右前腕内蔵、収束粒子槍《ピン・スター》。粒子を細い一点に集中させ、装甲を貫く射撃武装です。

発射後は三秒の照準冷却が必要で、その間は撃てません」


 右腕を小型船へ向けると、画面に白い照準線が現れ、船体の中央に重なった。


 指を動かせば撃てる。


 小型船の大きさは《ラグナ》の半分もない。それでも、あの中には人がいる。船体中央を撃てば、操縦室や乗員区画まで貫くかもしれない。


 右手の人差し指を引き金にかけたが、引けなかった。


「船を撃墜せずに止められる場所はあるか?」


「船の右後部にある主推進器を示します。ここを破壊すれば、加速を止められます。ただし、燃料系統が損傷したり、破片が乗員を傷つけたりする可能性はあります」


 照準線が船体の右後部へ移った。複数の噴射口が集まる部分を、黄色い枠が囲んだ。


「中にいる人たちを傷つけずに済む保証は?」


「保証できません」


 ルミは危険も説明したが、撃てとは言わなかった。撃つかどうかは、俺が決めなければならない。


 小型船の船首に白い光が集まり始めた。船首は、輸送艇を《ラグナ》へ固定している救難架へ向いている。そこを撃たれれば、輸送艇は《ラグナ》から離れてしまう。


『レン、輸送艇の固定部に照準を確認した!』


 ガレスの声が届く。


 右手の震えで照準線が推進器の枠から外れた。


 ジンには、動いた後の退避先まで考えろと言われた。ドランにも、止まりたい場所より手前から操作するよう教わった。俺は、敵船が次に進む方向を見た。


「《エコー》を出してくれ!」


「起動します」


 半透明の小型船が二つ現れた。一つは直進を続け、もう一つはわずかに左へ向きを変える。どちらも0.4秒先までの予測で、確定した未来ではない。


 推進器の黄色い枠は、二つの予測像で少しずつ位置が違っていた。俺は、推進器が次に通る場所へ照準を合わせた。


「あと何秒だ?」


「敵の射撃まで六秒と推定」


 左手で機体の向きを調整した。右手は震えたまま、引き金にかける。


「四秒」


 敵船にも人が乗っている。撃てば死なせるかもしれない。それでも、撃たなければ輸送艇にいる人たちが危険になる。


「二秒」


 小型船の主推進器が照準の中央に入った。


 そして、俺は初めて引き金を引いた。


 右前腕から針のように細い白光が伸び、小型船の右後部を貫いた。


 主推進器の噴射が止まり、その周囲から装甲片が飛び散った。撃たれた衝撃で小型船の船首がそれ、船体は右へ回転し始めた。船首から放たれた光は輸送艇の外側を通り、何もない空間へ消えた。


「敵船の主推進停止。船体の分解は確認されません。内部の状態は判定できません」


「乗ってる人は?」


「生体反応を取得できません。生存も死亡も確認できません」


 止めるために撃った。それでも、死なせていないとは言えなかった。


「あの船へ通信を送れるか?」


「送信できます」


「攻撃をやめて投降してくれ。救助を要請する。返事をくれ」


 応答はなかった。回転する船体には灯りが残り、爆発も起きていない。それ以上の状態は外から判断できなかった。


 ガレスから通信が入った。


『港管制から連絡だ。主推進を失った小型船の位置は、港側で確認できた。戦闘が終わったら救難確認を行うそうだ』


 今すぐあの船を助けには行けない。それでも、港には位置が伝わった。


 右手の人差し指を引き金から離そうとした。指はすぐには動かず、少し遅れて離れた。


「右手の反応遅延を確認。神経接続による症状が悪化しています」


 ソナから通信が入った。


『レンさん、戻ってください』


「まだ戻れません。ほかの海賊船が残っています」


『右手が動かなくなってからでは、自力で戻れません』


『レン、聞け』


 ガレスが通信に割り込んだ。


『今の一隻は主推進を失った。レンが戻るための経路は確保したいんだが、先に巡洋艦が動いたな』


 正面の大きな赤い表示が点滅した。


 巡洋艦の艦首が《ラグナ》へ向いている。左右に分かれていた装甲が開き、その奥へ白い光が集まっていた。


「主砲ですか?」


「高出力砲の発射準備を確認。目標は《ラグナ》と推定します」


「《ピン・スター》で止められるか?」


「巡洋艦の装甲を破るには、同じ位置へ複数回命中させる必要があります。一射ごとの照準冷却を含めると、敵の発射までに間に合いません」


 通常の武器では止められない。避ければ、後ろの《ラグナ》と輸送艇が撃たれる。


 機体の右腕を示す表示が乱れた。


「機体右腕の内部構造に変化を検出」


 右前腕の内部構造を示す画面で、装甲が分かれ始めた。その内側から、《ピン・スター》より長い砲身が現れようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。