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圧倒的存在感

 見通しの良いフィールドの右側端。壁を背に様子をうかがう。前方障害物まで物音、影無し。足下の砂利を4つほどまとめて持ち、ポ


イント手前に投げる。念のため後方を一度確認すると障害物まで前進した。そこから先は腰までの高さの窓枠が至る所にある。


スキル構成の話をしていた先ほどを思い出しながら正直なところ、スキルの数がなさ過ぎて選択すら叶わないが、もっと自身のスキルを


知る必要はあると感じた。多分、詳細を知る為のスキルもあるんだろう。


ジャリ、ジャリ。側面から音が聞こえた。中央方向から回り込む者がいるみたいだ。相手はこっちのチームが3人だとは知らない。


音は近づいている。構えておくと不意に顔が飛び出してきて、3発。命中のログが流れる。2名が飛び出してアサルトライフルを撃ち始


め、負けじとグロックで打ち返す。何故か被弾率は相手の方が大きい。6発ずつの致命傷部被弾でフラグを立てた。こちらのライフゲー


ジはあと2割。おい、君たち。聞こえて居るぞ?「50%が発動していない」って。退室ゲートを通る相手側を見送りつつも、そのまま


敵陣へと進める頃、戦闘終了がバイザーに告げられた。


【青チームの勝利 メンバーには3000クレジットとCz75の弾丸2発が贈呈されます。】


【速やかに退室して下さい。】


戦闘後の青サイド待合室は静かだった。


「まさか勝てるとはな。彼が2人相手しているって事だろ?」


「たまたま。なんてないわよね。戦闘音はアサルトライフルぽかったし。」


「とっても良いスキル持ちなんじゃ無いか?」


「そうね、フレンド登録するぐらいには興味あるわ。」


同じチームだっただけ。それでも戦闘能力が高そうに見えないのに初期武器だけで勝っている。


不思議そうな顔をして戦闘記録といわれる動画がモニターで流れる。


「スキルは【技能図書ライブラ】があれば自他の詳細がわかるから、アレを回避しているって事は50%を大きく越えてるってこと


よね?」


二人が動画と会話に夢中になっている間にロビーへと戻った。通路でCz75を構える。相変わらず高速で回りながらも風船の数が3つ


に増えている。一つだけ真ん中で特別大きい。つまりCクラスの技能と証明していた。慎重に撃つ。


「ちょっと、話があるんだけど。」


先ほどの女性が肩に手を掛けてきた。


「スキルを取っているんです。邪魔しないで下さい。」


銃を下ろすと、取得物表示をしますとの表示になり、


【C 技能図書ライブラ を習得しました。】


のログが女性との間に表示された。


「ではロビーで。」


「もう、調子が狂うわ。」


嫌がるそぶりも無く自販機のコーナーで立ち話をする。


「もう少し野良ひとりで楽しもうかと。」


「それはもったいないって。君が居れば勝率が」


「それ目的なんでしょう?」


「だけじゃないよ。そのスキルが・・・」


「そうなりますよねぇ。」


「だからジュースぐらいは奢っているのよ。」


返事を待っているのはわかる。とても気まずい。


「はい、はい。」


こんな気分じゃ、もう今日の参加はよくない。そんな気がする。


「では、返ります。又逢えたときに。その時は。」


女性は拍子抜けた、やはり残念だという表情で手を振った。


会釈して、ヘッドセットを受付に返す。チケットは返金して貰えた。


帰宅までの電車の中で、女性の言葉を何度も深く考えた。



「しばらくあの戦場で、俺のバングルは出禁かもしれない。」


親友にメッセージを残すと、余りにも早いお風呂の時間にした。


充電の終わったヘッドセットを着ける。左手を右手にあるバングルにかざし、装備設定を行う。


非公開に技能図書ライブラを。公開技能に精密な射手をと選択しようとしたところに表示が現れる。


【 SSRスーパースペシャルレア 精密な射手 命中率を10%引き上げる。相手回避スキルを10%引き下げる】


そうか、相手は16発しか撃てない拳銃に40%で立ち向かっていた。50%なんてそこには無い。


同じように回避の達人を選択しようとすると表示が現れる。


【 USRウルトラスペシャルレア 回避の達人 基礎回避値を80%に固定する】


どんなに撃たれようが20%分しか命中しない。だからアサルトライフルですら削りきれなかった。と。


「うーん、そりゃぁ二人ががりでも20%以下。そもそも当てるなんて無理だよなぁ。」


システムの計算でいえばどれだけ武器が良くても、背景の数値が絶望的な差だった。


そして、念のために技能図書ライブラも選択しようとし、表示を読む。


【 コモン 技能図書ライブラ 技能の説明をする非公開枠であれば相手の公開スキルも表示する】


「コモンなのに、表示してしまうって事は敵が隠れても無駄じゃ無いか。」


今まで俺が感じていた違和感の正体が、氷解していく。


敵が銃を撃ち、俺を狙うとき、彼らは「自分のスキルが発動するはずだ」という確信のもとに動いている。

だが、俺がライブラで彼らの回避率や命中率の限界を理解し、その隙間を【精密な射手】と【回避の達人】でスキルという力業で物理的


に蹂躙すれば、彼らはただの「計算通りに動く標的」に成り下がる。


親友の言っていた「優遇チート」は、正しくここにあった。


チュートリアル中にグロック17を装備し、、戦闘画面なのであろう輝度が落ちた空間で、壁の向こう側から自動車の耐衝撃実験に使われるダミー人形みたいな的を出す。


スキルは非公開枠に技能図書ライブラだけ。家でひたすらに練習した。軍曹も驚くであろうくらいに訓練となった。


翌月。あのバングルも持たずに戦場に向かった。受付で全レンタル。2枚のチケットを持ってフリーの待合へ。


彼女はいた。明らかに嬉しそうな顔をして近づいてくる。


「お久しぶり。君、私たちとチームを組まない?」


「あのときのバングルは家に置いてきました。その方が強くなれる気がしたので」


「えっ?えっ?」


「俺は強くないですよ。なんたってDLCの武器を振り回すことしか出来ませんから。」


少し悩んだ彼女は、敵対マーカー設定端末にバングルを通した。


「強いかどうかは私たちが決めることです。だから、正々堂々と闘いましょう。」


こうして逃げられない戦いは用意された。

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